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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-02『新たなる神姫、深紅の力は無窮の愛が為に』
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第二章:大切なヒトたちの笑顔の為に/04

 ――――稲妻。

 遥の細い右の人差し指が引鉄を絞った聖銃ライトニング・マグナムの銃口から迸ったのは、そう表現せざるを得ないほどに眩く、そして激しい光弾だった。

 そんな眩い光弾は一度だけでなく、何度も何度も続けざまに遥の右手から放たれる。

「…………!!」

 彼女が続けざまに放つ雷撃のような光弾に撃ち抜かれ、マンティスが身体のあちこちから火花を散らしながらよろめく。少し離れたところに立っていたビートルも同様だ。遥の素早くも正確な射撃に翻弄され、二体とも思うように抵抗できないでいる。

 …………一方的。

 さっきまでの劣勢が嘘のように、遥は一方的な戦いを繰り広げていた。

 全ては彼女がライトニングフォームへと、飛び道具を有する姿へとフォームチェンジしたからに他ならない。ヒトがその歴史上、拳から棍棒を持つことを覚え、棍棒を捨て剣を取り、剣を捨て弓を取り……そして銃を取ったことから証明されるように、飛び道具というものはそれだけで使い手に圧倒的なアドヴァンテージを与えるものなのだ。

 実際、銃を手にした遥に対し……遠距離攻撃の術を持たないマンティス、ビートルの二体のバンディットは一気に数的有利すらをも覆されてしまっている。さっきまでの遥とは逆に、今度は彼女が右手に構えるライトニング・マグナムに対し防戦一方を強いられている彼らの姿は……ある意味で気の毒にも程がある光景だった。

 だが、だからといって手加減をする遥ではない。相手がバンディットであるのならば、情け容赦は無用。故に彼女は冷え切った表情を崩さぬまま、淡々と右手の人差し指で聖銃ライトニング・マグナムの引鉄を引き続けていた。

「よし、これで決める……!!」

 そして、撃ち続ける彼女の狙いが段々とマンティスの方に集中していく。

 この二体でどちらが脅威かと問われれば、遥は迷うことなくマンティスの方だと答える。飛行能力があるといえ、図体がデカいだけで鈍重で単調な攻撃しか出来ないビートルとは異なり……マンティスの両手の鎌は厄介だ。実際に何十、何百と斬り結んだからこそ、遥はそれを感じ取り。まずはマンティスの方から始末すべきだと、半ば本能的に判断していた。

「ハァァッ……!!」

 続けざまの連射でマンティスを怯ませ、その場に釘付けにし。そうしてから遥は深く呼吸すると、自身の内側で強く、強く気を練り始める。

 そうしていると、連射を止めた右手のライトニング・マグナムに段々と稲妻が迸り始めた。

「フッ……!」

 ピリピリと小刻みに銃口部に稲妻を迸らせれば、遥は今一度ライトニング・マグナムの引鉄を絞り。やっとこさ動き出そうとしていたマンティスを、今度は雷撃を纏わせた金色の一撃で射貫いてみせた。

「ガ、ギ……!?」

 金色の光弾が腹に命中すると、マンティスの身体の表面を無数の稲妻が這い始め。すると……一秒と立たぬ内に、マンティスはその場から身動きが取れなくなってしまっていた。

 まるで――――茨の形をした稲妻に身体を縛られ、拘束されてしまったかのように。

「終わらせる……!!」

 だが、これはまだ下拵えに過ぎない。最後の一撃は――――まだだ。

 遥は呟きとともに最大級の気を身体の内側で練り、それを右手越しにライトニング・マグナムへと集中させる。

 段々と低い唸り声を上げ始める右手のライトニング・マグナム。今まさに最大威力の一撃を放とうとしていると、敢えて説明せずとも察せられるような……そんな凄まじい唸り声を右手の銃は上げていた。

 ――――『ライトニング・バスター』。

 まず最初に一撃、先程放った金色の一撃を……雷を纏わせたそれで敵をその場に釘付けにし、回避不可能になった敵に対し続けて最大火力の魔弾を放ち消し炭にする、ライトニングフォームの必殺技。それを遥は今まさに、身動きが取れなくなったマンティスに対し放とうとしていた。

「悔いなさい、貴方自身の行いを!!」

 そして、遥が聖銃ライトニング・マグナムの引鉄を絞ろうとした――――その瞬間だった。

「っ!?」

 今まさに必殺の一撃『ライトニング・バスター』を放とうとした瞬間……羽を広げ、飛びかかってきたビートルにそれを妨害されてしまったのだ。

 ブゥゥゥン、とまさに虫のような羽音を立てて突撃してくるビートルを遥は紙一重で避ける。

「ギギギ……!!」

 だが、その隙にマンティスも雷撃の拘束から脱し、大きく後ろに飛び退いて遥から一気に距離を取ってしまう。

(……しまった)

 宙を舞うビートルに対し牽制射撃をしながら、遥は自身の迂闊さを胸の内で悔いていた。

 …………あれだけ痛めつけたのだから、必殺技を放つ間ぐらいはビートルは動けないと思っていた。

 だが、あのカブトムシめいた怪人は遥が思っていたよりもずっと頑丈だったらしい。恐らくはあの甲虫めいた分厚い装甲のお陰だろうが……何にせよ、ビートルは遥が目を離した隙に距離を取り、最高のタイミングを見計らって突撃を敢行。今まさに死の淵に立たされていた仲間のマンティス・バンディットを見事に救ってみせたというワケだ。

「でも、逃がさない……!!」

 だからといって、諦めるような遥ではなかった。

 右手のライトニング・マグナムの照準をマンティスに向け直し、再び必殺技『ライトニング・バスター』を見舞おうと狙いを定めるが……しかしさっきのビートルの突撃でタイミングを逃してしまったからなのか、上手く狙いが定められず。加速度的に距離を取っていくマンティスに対し、どうしても照準が保てなかった。

「っ……!!」

 それでも遥は通常の光弾を連射するが、しかしビートルが不意を突いた決死の突撃で作り出した遥の隙は大きかったらしく。その隙を突く形でマンティスは距離を取り、ビートルはそんなマンティスを両手で担いで……そのまま宙を舞い、何処かへと飛び去って行ってしまった。

「逃げられた…………」

 ブゥゥゥン、と虫のような羽音を立てながら一目散に逃げていくビートルと、それに担がれたマンティスに対し遥はライトニング・マグナムを撃ちまくるが、しかし遠ざかっていくその影に命中することはなく。やがて二体の姿が夕焼け空の彼方へ消えていくと、遥は悔しそうに歯噛みしながら茜色の空をじっと睨み付けていた。

 ――――逃走を、許してしまった。

 出来ることなら、せめて片方だけでも仕留めておきたかったのだが。しかし……逃げられてしまったものは、どうしようもない。

「次は……必ず、倒します」

 悔しげに空を仰ぎながら、遥がひとりごち。そうして彼女が変身を解除しようとした……その矢先のことだ。

「……?」

 コツン、コツンという足音が背中越しに聞こえてきて。誰かと思った遥が変身を解かぬまま、神姫ウィスタリア・セイレーンの姿のままでくるりと背後に振り返ると――――。

「あれは……一体」

 ――――すると、そこにあったのは見慣れぬ神姫の姿。赤と黒をした、自分とは別の神姫の姿だった。

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