第十章:この広い青空の下で
第十章:この広い青空の下で
それからまた何日か経ったある日のこと。正午を間近に控えた頃合いに、遥とアンジェ、そして戒斗の三人は住宅街の片隅を一緒になって歩いていた。
休日のこの日、今日も今日とてアンジェの提案で……今日は遥も加えた三人で、お散歩がてらに出掛けようという話になったのだ。
「そういえば、遥さんとお出かけするのって久し振りだよね?」
「言われてみると、そうかも知れませんね」
「最近は色々あったからな……」
「だねー」
「ふふっ、そうですね。本当に色々なことがありました」
「久々の何にもない一日ってワケだ。楽しまなきゃ損かもな」
「だったら、僕もカイトも、遥さんも。皆で精いっぱい楽しまなきゃだねっ」
「はい♪」
こんな風に談笑しながら、三人は正午前の住宅街をぶらりぶらりと散歩していた。
やがて住宅街を出て、踏切を渡っていくと……その先にある田園地帯。右を見ても左を見ても、一面に田んぼの広がる一帯へと出る。
ほぼ真上の位置から照り付ける、ギラついた太陽。夏を目前に控えた熱い日差しに照らされながら、三人はそんな田んぼの合間にある……きっと、昔は未舗装の農道だったのであろう細い道を歩いていた。
「暑いな……もうすぐ夏なんだね」
「もうそんな時期か」
「夏が来て、秋が来て、冬が来て……そしてまた春になる。なんだか遠い話のような気もしますけれど、一年なんてあっという間なのかも知れませんね」
そんな風な会話を三人で交わし合いながら、遥たちは田んぼの合間にある細い道を抜けていく。
そうして田園地帯を抜けると、また景色は住宅街に。三人は適当にそこいらを散策しつつ、途中で目に付いた小さなパン屋に立ち寄って買い食いし、昼食がてらに軽く腹を満たして。その後で河川敷の方にも出てみたりした。
堤防沿いの小高い道だ。そんな細い河川敷の道を歩きつつ……遥は、ポツリとこんなことを呟いてみる。
「……たまには、こういう気分転換もいいですね」
「えっへへー。遥さんが楽しんでくれてるなら、僕も嬉しいかなっ」
「ええ、楽しいですよ♪」
隣を歩くアンジェに微笑みを返しつつ、続けて遥はこうも呟く。
「…………最近は、一時的に記憶が戻っていたこととか、強い敵が現れたりだとか……色々なことがあったせいで、実は頭がいっぱいだったんです」
「遥……」
「遥さん……やっぱり、そうだったんだ」
「ふふっ、やっぱりアンジェさんには見抜かれていましたか」
気遣うような視線を向ける戒斗と、察していたような感じのアンジェ。
遥は二人にまた小さな微笑みを返した後、その微笑みを崩さぬまま……二人にこうも続けて言っていた。
「でも……こうしてお散歩に連れてきて頂いて、少しスッキリしました。本当にいい気分転換です。アンジェさん、戒斗さん……ありがとうございます」
「遥の気分転換になったなら、今日は大成功じゃないか? なぁ、アンジェ?」
「うんっ。実はそれが目的だったんだ。どうだろうと思ったけど、遥さんの気が紛れたのなら大成功だよっ」
「ふふっ……ありがとうございます。やっぱりお優しいですね、お二人とも……」
肩を揺らす戒斗と、嬉しそうに笑顔を浮かべるアンジェ。
そんな二人と一緒に歩きながら、笑顔を向けながら……遥はふと、空を見上げてみた。
真っ白い雲が点々と浮かぶ天球、広大なキャンバスのような蒼穹。何処までも続いていく青空の下、遥は何気なく思っていた。こんな風に平穏で幸せな時間が、ずっとずっと続けばいいのにな…………と。
(第十章『この広い青空の下で』了)




