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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
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第八章:蒼の流星は空っぽの夜空に流れ落ちて/05

「――――私は、神姫なんです」

「神姫……?」

「遥さんが変身した、あの姿……ってことでいいんだよね?」

 首を傾げる隣のアンジェに、遥は「はい」と頷き返して肯定する。

「あの姿の私は、ウィスタリア・セイレーンという名前だそうです。そして、さっき私が相手にしたあの怪物。アレは……バンディットという存在らしいです」

「遥はどうしてそれを知っている?」

 記憶喪失なはずの遥が、どうしてそれを知っているのか。

 不思議に思った戒斗が問うてみたのだが、しかし遥はただ一言「……分かりません」と首を横に振った。

「記憶にはありません。でも……不思議なことに、それは分かるんです。

 本能的に認識している、とでも言うのでしょうか。私が神姫ウィスタリア・セイレーンであること、敵がバンディットという存在で……私が倒さなければならない相手であるということを」

「そうか……」

「それで……遥さん? あの姿は一体なんなの?」

 アンジェの問いかけに、遥は「はい」と頷き返し。彼女が商店街で変身したあの姿――――神姫ウィスタリア・セイレーンについて説明し始めてくれた。

「先程も申し上げました通り、あの姿は神姫……私がバンディットと戦うときの姿です。経験上、お二人にお見せした姿以外にも、あと二つの形態に変化できるみたいです」

「っていうと、どんなだ?」

「ええと、言葉にしづらいのですが……銃を使う姿と、槍を使う姿に変化できるみたいなんです」

「…………まるで日曜の朝みたいな話だな」

「私もそう思います。信じられない話ですよね、とても」

 フッと自虐気味に笑んで言う遥に、アンジェは「そんなことないよ」と言う。

「僕らは現に遥さんに助けて貰ったし、遥さんが変身するのも目の前で見てる。信じないなんて……絶対にないから」

「……ありがとうございます、アンジェさん。やっぱり貴女は優しいヒトですね」

 遥は小さく表情を綻ばせてアンジェに礼を言うと、その後で更に神姫についての説明をしてくれた。

「バンディットが現れると……こればっかりは言葉では説明ができないんですが、感覚で理解出来るんです。何処に現れたのか、その場所も分かります。

 …………バンディットを倒すこと。これが使命だと思って、私は今まで戦ってきました。絶対に、誰にも知られないように…………」

 悲しげな顔でそう呟く遥の右手が、一瞬眩い閃光を放つ。

 とすれば、彼女の右手の甲に現れたのは蒼と白のガントレット。彼女が神姫ウィスタリア・セイレーンであるという何よりもの証、セイレーン・ブレスが彼女の手に現れていた。

「なるほど……遥が時たま血相を変えて飛び出していくのは、そういうことだったのか」

 彼女の右手に現れたセイレーン・ブレスに視線を落とし、アンジェと二人で息を呑みつつ。戒斗は納得したように呟く。

「その……どうして、他のヒトに知られたら駄目なのかな?」

 そうして彼が呟く横で、アンジェが俯く遥の顔を覗き込みながら問いかけた。

「理由は分かりません。けれど……知られたくない、知られちゃいけないと思ったんです」

 すると、遥がポツリと呟き答えてくれる。

「確かに……知られない方が良いのかも知れないな」

 そうすれば、戒斗が今の遥の言葉に同意するような言葉を呟いた。

「神姫……か。言ってしまえば、ヒトにない特別な力だ。闇雲に話せば怖がられたり、不気味に思われるだけだ。

 それに……何より、きっと話すだけじゃ信じて貰えない」

「カイト、流石にそれは言い過ぎだよ」

 ボソリと戒斗が呟いた言葉に、アンジェが文句ありげといった風に膨れるが。戒斗はそんな彼女を横目に見ながら「しかし、事実だ」と淡々とした調子で言った。

「俺たちだって、遥が変身した瞬間を……化け物と戦う姿を実際に見なきゃ、とても信じられなかったような話だ。何も知らない人間に、これを信じろって方が無理な話だ。……アンジェ、違うか?」

「それは、そうだけれど…………」

 諭すみたいな口調で戒斗が説明してやると、アンジェは不満げながらも納得してくれたらしく。複雑な表情で戒斗から視線を逸らすだけで、それ以上の文句を彼女は言ってこなかった。

 そうしてから、ふぅ……と一息ついた後で。戒斗は改めて遥に問いかけた。

「それで――――遥はこれから、どうしたい?」

 そう、彼女の意志を確認するかのように。

「私は……私はやはり、出て行きま――――」

「待て待て、遥」

 自分はやはり、出て行く。

 そう言い掛けた遥だったが、しかし戒斗がその言葉を半ばで遮り。戸惑い顔で視線を向けてくる遥に対し、彼はこう言葉を続けた。

「建前とか義務感とか、そういうのはナシだ。俺が聞きたいのは、遥自身の気持ちなんだ」

「っ、それは……」

「――――遥は、どうしたい?」

 改めて、優しげな口調で戒斗が問う。

 すると……俯く遥は、いつしかコバルトブルーの瞳から小さく涙粒を流し始めて。感情を押し殺すように震える声で、俯きながら彼女は呟いた。

「……出来ることなら、ずっとあの家に居たいです。ずっとずっと、戒斗さんやアンジェさんの傍に居たい。皆で一緒に、ずっと笑顔で過ごしていきたい…………!!」

 ――――そう、隠したまま、押し殺していた内心を吐露するかのように。彼女は震える声で、涙を流しながら呟いた。

「でも、でもそれは出来ないんです……! 私は、私は神姫だから! 戦わなくっちゃいけないから……!!」

「…………」

「遥さん…………」

「私は、私はきっと! きっと……いつか皆さんを、戒斗さんやアンジェさんを危険な目に遭わせてしまう!! 今日みたいに、お二人を危険なことに巻き込んでしまう……!!

 だから、だから私は――――――――」

「――――だったら、此処に居ればいいんじゃないかな?」

 遥の言葉を、また半ばで遮るようにして。アンジェは柔らかく彼女に微笑みかけると、そのまま遥をそっと抱き寄せる。

「遥さんが居たいって思うのなら、きっとそれが正しいんだよ。自分の気持ちだけには……嘘はつかないで欲しいな」

 諭すような言葉を耳元で呟きながら、涙を流す遥の頭をそっと手のひらで撫でて。綺麗な青い髪を、ほっそりとした真っ白い指先で、まるで赤子をあやすように撫でつけながらアンジェが囁く。

「でも……!!」

 その言葉に、(ほだ)されそうな自分が居た。アンジェの優しい言葉に、今にも膝を折ってしまいそうな自分が居た。

 それでも――――それでも、私は。

「イザとなったら、遥が今日みたいに俺たちを守ってくれればいい。……だろ?」

 そう思い、尚も食い下がろうとした遥だったが。しかし、今度は戒斗がそんな言葉を彼女に投げ掛けていた。

 すると、横でアンジェも「だねー」と笑顔で戒斗に微笑みかける。涙を流す遥の、震える彼女の頭をそっと撫でながら。彼女の方を優しく抱き寄せて、大丈夫だと包み込みながら。

「とにかく、僕もカイトも遥さんのこと、怖いだとか気味悪いだとか……全然、そんな風には思ってないよ。

 だって、遥さんは遥さんだから。例え遥さんが神姫だとしても、僕たちにとって……遥さんは、今まで通りの遥さんなんだよ。今此処に居るのは、僕たちの大好きな間宮遥……そこは、どんなことがあったって変わらないから」

「アンジェさん……」

「だから、出て行くなんて言わないで」

 ――――例え、神姫ウィスタリア・セイレーンだとしても。

 例え、自分がどんな存在だとしても。自分は何も変わらないまま、今まで通りの自分……間宮遥のままでいい。

 今確かに、アンジェにそう言われた気がした。赦されたような、そんな気がしていた。

 自分は此処に居てもいい、傍に居てもいい……そんな赦しをアンジェと戒斗、二人から貰ったのだと……遥はそう感じていた。

「………………はい」

 だからこそ、なのだろう。今まで必死に保っていた意地が折れ、そっと頷き返し。そのまま瞼を閉じて……抱き締めてくれているアンジェに寄りかかるみたく、静かに身体を預けたのは。

「でも、それにしても凄いなあ」

 そんな風に瞼を閉じた彼女を抱き締め、そっと彼女の頭を撫でながら。アンジェは普段通りの調子で何気なく呟く。

「本当に、遥さんがヒーローだったんだ。憧れちゃうなあ、まるで……まるで特撮みたい」

「憧れる……私に、ですか?」

 抱かれたまま、不思議そうに呟く遥。それにアンジェは「うん」と頷いて、

「だって、僕にもそんな力があったら……僕がカイトを守ってあげられるのに…………」

 と、遠い眼をして呟いた。心の底から欲しているような、そんな声色で。

「……綺麗な夜空だな」

 そんなことをアンジェが呟いてから少し後、何気なしに夜空を見上げていた戒斗がボソリ、とひとりごちた。

「わあ……ホントに綺麗だね」

「……そう、ですね」

 反応したアンジェと、彼女に抱き締められたままの遥も一緒になって頭上の夜空を見上げてみる。

 そこにあったのは――――月もなく、星も見えない真っ黒な空。

 でも、不思議と遥には綺麗に思えていた。遥のコバルトブルーの瞳には、確かに綺麗に見えていたのだ。戒斗とアンジェも一緒に、三人でこうして眺めている、この夜空が…………。

 そうして三人で眺めていると、夜空に一瞬だけ流れ星が流れていった。青白い光を放つ、綺麗な流れ星が――――――。





(第八章『蒼の流星は空っぽの夜空に流れ落ちて』了)

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