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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-09『フォーミュラ・プロジェクト』
358/374

第四章:開演、ベラスニェーシュカ/02

「……これは」

「すごく……綺麗、だね……」

「あ、ああ…………」

 舞い散る無数の白い羽。その向こうから現れた純白の神姫、スノー・ホワイト。

 そんな彼女の、神姫へと変身を遂げたリュドミラの、あまりに現実離れし過ぎた美しさに――――遥たちは戦うことも忘れ、ただ息を呑んでリュドミラを見つめていた。

 ――――純白の神姫装甲。

 やはり一番目を引くのは、その煌びやかな真っ白い神姫装甲だろう。軽装で、所々に銀色とアイスブルーが差し色で入っているその神姫装甲が描くのは、なだらかで優美な曲線。何処かバレリーナの衣装を彷彿とさせるそのシルエットは、舞台上の乙女のように優雅なものだった。

「…………」

 そんな純白の神姫装甲を身に纏ったリュドミラは、スッと右の手のひらを広げ。とすれば歪んだ空間から……やはり真っ白い、純白の短剣を召喚する。

 ――――『ホワイトエッジ』。

 文字通りの短剣だ。彼女の神姫装甲同様、純白を基調とした色合いの綺麗な短剣……その(つか)をリュドミラは華奢な右手で掴み取ると、タンっとステップを踏んで飛翔。優雅に、しかし素早くリザード・バンディットの懐へと飛び込んでいく。

「っ!」

「シュルルル……ッ」

 リュドミラの飛び込みの速さに対応し切れず、リザードは無防備なまま懐への侵入を許し。そのまま彼女に三度連続して腹を斬りつけられる。

 ホワイトエッジの綺麗な真っ白い刀身が赤褐色の肌を撫でる度、小さな苦悶の声とともに激しい火花が舞い散る。

「ふっ……!」

 だがリュドミラはそれに留まらず、更に何度も連続してリザードを斬りつけた。

 横薙ぎ、縦一文字、袈裟懸け、刺突。

 軽快なステップを小刻みに踏みながら、くるりくるりと身体を回しつつ、四方八方から繰り出す縦横無尽の斬撃。

 しかしその戦い方は決して野蛮なものではなく、むしろ真逆。優雅の一言な彼女の戦う様は、とても戦士のものではなく……リュドミラの戦い方は、まるでバレエを踊っているかのように優美なもので。傍から見ていると、まるで演劇を観ているかのような錯覚すら覚えさせられてしまう。

 …………戦うリュドミラの姿は、まさに優雅の一言に尽きていた。

「シュルルル……!!」

「…………!」

 だが、やられっ放しでいるリザードでもない。

 リュドミラの斬撃を喰らいつつ、リザードはそんな攻撃の合間に僅かな隙を見出し、後ろに大きく飛んで彼女から大きく距離を取る。

 そうして間合いを取れば、リザードは尻尾のようなものを大きく振るい――――あろうことか、それを飛ばしてきたのだ。

「野郎、飛び道具まで持ってやがんのか……!?」

「千切れちゃったよ……!?」

「これは……えっと、何と言いますか」

「フッ、まさにトカゲの尻尾切りだな」

 ――――リザードは自ら尻尾を分離すると、それをリュドミラに向かって飛ばした。

 そんな異様な光景を目の当たりにして、戒斗とアンジェは眼を見開いて驚き。その横で遥がきょとんとする傍ら、飛鷹が冗談めかしたことを口にする。

 実際、まさにそう喩えるしかない攻撃だった。

 トカゲ――――リザード・バンディットの元になったであろう爬虫類は、外敵から身を守るために尻尾を自ら切り離す習性がある。

 当然、リザードのように攻撃のためではなく、寧ろ逃走のための手段なのだが――――何にしても、リザードはトカゲの如く尻尾を切り離すと、それを弾丸のような勢いでリュドミラに飛ばしたのだ。

「シュルルル……!!」

 しかも、一度きりではない。

 尻尾を飛ばしたリザードは即座に新たな尻尾を生やすと、これもまたリュドミラに向けて飛ばす。

 そうして二度、三度……と連続して放たれる尻尾は、まさに飛び道具。戦場の空を飛ぶ投げ槍のように、幾つもの尖った尻尾がリュドミラ目掛けて飛翔していく。

「…………大丈夫」

 だが、そんな常軌を逸した遠距離攻撃を前にしても、彼女は何処までも冷静だった。

 リュドミラはクッと爪先を立てると、トントンっと軽快なステップを踏みながらそれを回避。まるで舞台上で舞い踊る一流のバレリーナのように華麗に舞ってみせると、リュドミラはそのままリザードの懐へと再び潜り込む。

 ――――そうして懐に飛び込めば、再びリュドミラはリザード・バンディットを圧倒し始めた。

「…………!」

「シュルルルゥ……ッ!?」

 華奢な右手で握り締めた短剣、ホワイトエッジから繰り出される素早い斬撃の洗礼。

 それを無防備なままに浴びれば、リザードは身体のあちこちに深い刀傷を幾つも刻み、激しい火花を散らし続ける。

「これで……おしまい」

 そうした斬撃の猛攻の中、リザードに十分過ぎるほどの致命傷を負わせると……リュドミラはパッと小さく飛び退き。とすれば左の指先でそっとホワイトエッジの刀身を撫でる。

 リュドミラのほっそりとした指先が刀身に触れると、その撫でる指の軌跡に従い――――ホワイトエッジの刀身に真っ白い雪と、そして氷が纏わりつく。

「…………!」

 そんな雪と氷を纏ったホワイトエッジを、リュドミラは目の前のリザード目掛けて鋭く投げた。

 ひゅんっと風切り音がするぐらいの鋭さで投擲されたホワイトエッジは、そのまま真っ直ぐにリザードの胸部へと突き刺さる。

 そうすれば――――刃が刺さるのと同時に、リザード・バンディットは瞬く間に氷漬けにされてしまっていた。

「なっ……!?」

「一瞬で、凍っちゃった……」

「今のは、一体……?」

「まあ見ていろ。リューダの本領はここからだ」

 ほんの僅かな内に氷漬けにされ、身動きどころか声すらも上げられなくなったリザード・バンディット。

 それを目の当たりにして、戒斗とアンジェ、そして遥は驚き。そんな三人の傍らで飛鷹は腕組みをして見守りながら、フッと小さく笑んでそう言う。

Лебединое(リェベーヂナィェ) озеро(オーゼラ)……!!」

 三人が驚いている間にも、リュドミラはタンっと爪先で地を蹴って再びリザードの懐に飛び込んでいて。彼女は刺さったホワイトエッジの(つか)を握り締めると、深々とめり込んだ刀身を引き抜き……逆手に返した刃で一閃、振り向きながらの一閃をリザードに叩き込む。

 ――――くるりと、舞い踊るかのような動きで振り返ったリュドミラ。

 そんな彼女の背後で、今まさにホワイトエッジの刃に撫でられたリザードは……氷漬けのトカゲ怪人は、声すら上げずにその身体をバラバラに砕かれていた。

 断末魔の雄叫びも上げられぬまま、リザード・バンディットの砕かれた身体は崩壊し、氷とともに蒸発して消えていく。

「…………おしまい」

 しかしリュドミラは、砕けて散った背後のリザードに一瞥もくれぬまま……ただ一言、小さく呟いていた。

 ――――『リェベーヂナィェ・オーゼラ』。

 リュドミラ・ルキーニシュナ・トルスターヤ、神姫スノー・ホワイトの必殺技だ。雪と氷を纏わせたホワイトエッジで以て標的を凍らせ、バラバラに崩壊させる無慈悲な一撃。それこそが、今まさにリザード・バンディットを砕け散らせた技の正体だった。

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