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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-08『忘却の果て、蒼き記憶の彼方に』
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第九章:祈りのアムネシア

 第九章:祈りのアムネシア



「やったな、美弥」

「ええ……」

 ――――特級バンディット、撃破。

 モラクス、アイム、ナベリウス、フォルネウス。四体の強敵、篠崎十兵衛の近衛騎士たる特級バンディット四体を全て撃破し終えた後、飛鷹は遥の傍まで歩み寄りながら、そう彼女に声を掛けていた。

 歩み寄ってくる彼女に、遥はそっと微笑み返す。昔と変わらぬ親友に微笑み返しながら、遥は激戦が終わったことを実感し。ふぅ、と小さく息をつく。

「っ…………!?」

 だが――――その直後のことだった。遥が突然、物凄い頭痛を覚え……思わずその場にがっくりと膝を折ってしまったのは。

「!? どうした、美弥っ!?」

「あ、頭が……頭が、割れるように痛い……っ!?」

 頭を抱えてその場にうずくまる遥と、そんな彼女の尋常ならざる様子を見て、心配そうに彼女の肩に手を置く飛鷹。

 目を見開いた遥の瞳は忙しなく揺れていて、額には冷や汗が滲んでいて。頭を抱えながら、声とともに身体までも激しく震わせる彼女の様子は……どう見ても、尋常ではない。

 そんな遥の様子に、飛鷹が珍しく狼狽えていると。すると、そうしている内にも遥の変身は解除されてしまい。とすれば、次の瞬間には――――。

「あ、れ……? 私は、私は今まで、一体何を…………?」

 ――――次の瞬間にはもう、再び記憶は封印されてしまい。来栖美弥は再び奥底へと沈み込み、今魔の記憶喪失の乙女・間宮遥が戻ってきてしまっていた。

「えっと、私は一体……?」

 震えの止まった遥は、きょとんとして辺りを見回し。今までのことがまるで何もなかったかのように、何も覚えていないかのように、呆然とした顔で首を傾げている。

「――――やはり、そうなってしまうのか」

 そんな遥を見つめつつ、飛鷹は哀しそうな顔をして呟く。

 哀しげな顔でポツリと呟きながら、飛鷹もまた神姫への変身状態を解除した。

「っ!? 伊隅飛鷹……どうして私が、貴女と一緒に……っ!?」

 すると、そのタイミングで彼女の存在に気が付いたのか……遥は飛鷹の方に振り向きながら、どういうことか分からないといった顔で激しく驚く。

「ついさっきまで、お前は記憶を取り戻していた。だが、その様子だと……やはり、再び元に戻ってしまったのか」

「私の、記憶が……!?」

 戸惑う遥に、飛鷹は「ああ」と頷いて肯定してやる。

「……やはり、まだその時ではなかったということか」

 そうすれば、続けて飛鷹はそう、悟ったような顔でひとりごちていた。

「貴女は、一体何、を――――」

 そんな彼女の言葉の意味するところが分からず、遥が問い返そうとした時。急激に遥の身体から力が抜け、まるで電池が切れたように彼女は気を失ってしまった。

 突然意識を失い、無防備に倒れ込みそうになった彼女の身体を、飛鷹がどうにか抱き留めて支えてやる。

「――――師匠っ!!」

 そうした頃、来栖大社の長い石階段を駆け上がってきたらしい彼女が……風谷美雪が、息を切らして飛鷹の元に駆け寄ってきた。

「物凄い気配を感じて、慌てて来てみたんですけれど……一体、何が……!?」

 どうやら彼女も特級バンディットたちの強烈な気配を感じ取り、馳せ参じてくれたらしい。

 だが、もう戦闘は終わっている。だからか美雪は戸惑い、荒れ果てた境内を見渡しながら、困惑した様子でそう呟く。

「美雪、丁度良かった。手伝ってくれるか?」

 そんな戸惑う彼女を見上げながら、遥を抱きかかえたままで飛鷹は美雪にそう言う。

 すると美雪は「は、はい。それは構いませんが……」と頷くと、

「遥さん、どうしたんですか……?」

 と、飛鷹の腕の中で眠る遥を見下ろしながら、至極困惑した様子で問うていた。

 そんな戸惑う美雪からスッと目を逸らしつつ、飛鷹が呟く。

「美弥は――――再び、記憶を失ってしまったんだ」

「そんな……」

「薄々そうじゃないかとは思っていたが、やはりまだ思い出すべき時ではなかったようだ。でなければ……こうは、ならんよ」

 飛鷹は哀しそうな顔で呟きながら、自分の腕の中にある彼女の、遥の顔にそっと視線を落とす。

 腕の中で、遥は眠っていた。安らかな寝顔で、今までの戦いなんて何もなかったかのように――――。

「それで師匠、遥さんはどうしたら……」

 そんな風に遥を見つめる飛鷹に、美雪が恐る恐るといった風に問いかける。

 飛鷹はそれに対し「家に帰してやろう」と言い、

「手伝ってくれ美雪、お前なら詳しい場所も知っているだろう?」

「あ、はい。それなら大丈夫です。でも……遥さん」

 困惑した顔で見つめる美雪の視界の中、遥は眠り続けていた。

 そんな彼女の顔を、自らが腕に抱く遥を見つめつつ、飛鷹はひとりごちる。また遠く離れ離れになってしまった、唯一無二の親友に呼びかけるように……伊隅飛鷹は、哀しくも優しげな顔で呟いていた。

「美弥……いずれ、また会おう」





(第九章『祈りのアムネシア』了)

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