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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-08『忘却の果て、蒼き記憶の彼方に』
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第四章:LOST UNION/03

 ――――来栖(くるす)美弥(みや)

 今は間宮遥という二つ目の名を持つ彼女は、元は由緒正しい神社に生まれた一人娘だった。

 そんな彼女の実家が、来栖大社。何千年もの歴史を有する由緒正しい神社で、小高い山の上に鳥居を構えたその神社は、太古の昔より女神を祀り続けてきた場所だった。

 だが――――その実は、代々神姫となる力を受け継ぎ続けてきた家系。即ちヴァルキュリア因子を色濃く受け継いできた家系だった。

 遥以外にも、彼女の実母である来栖(くるす)紫音(しおん)やその母、そのまた先代に更に先代も……来栖大社の家系に生まれた女性は、その全てが例外なく強力な神姫の力を有していたと言われている。

 また、そんな来栖大社そのものもまた、地球の抑止力、地球の意志が授けた力そのものたる神姫の存在と、その戦いを後世に伝えていく為に存在しているものだった。その目的の為に神社の(てい)を装い、伝承という形で妖魔――――という名で、バンディットのことも含めた事実を現代まで伝え、受け継いできたのだ。

 ――――そんな神聖なる家系に間宮遥は、いいや来栖美弥は生まれ落ちた。

 父親は婿養子で元神主、母親は前述の通り来栖紫音。父は早くに他界してしまったが、妻である紫音が遥を育てる傍ら、巫女として来栖大社を管理し続けていた。

 そして――――そんな家庭で育った遥が神姫の力に目覚めたのは、今から六年前のことだった。

 遥が神姫ウィスタリア・セイレーンとして覚醒すれば、すぐに飛鷹も……遥の親友だった彼女も力に目覚め。そうすれば、続けざまにもう二人の親友――――北條(ほうじょう)美桜(みおん)青葉(あおば)瑠衣(るい)もまた、神姫の力に目覚めていった。まるで、遥の目覚めに呼応するかのように。

 そうして遥と、遥の親友三人が神姫として覚醒すれば。遥の母である来栖紫音を後見人として、彼女たちは妖魔と……バンディットと戦うために『桜花(おうか)戦乙女(いくさおとめ)同盟(どうめい)』を結成する。

 ――――伊隅飛鷹、剛烈の神姫クリムゾン・ラファール。

 ――――青葉瑠衣、嵐の神姫エメラルド・イーグル。

 ――――北條美桜、友愛の神姫ブロッサム・フィクサー。

 ――――来栖紫音、慈愛の神姫オーキッド・キャリバー。

 そして、間宮遥――――来栖美弥、蒼の神姫ウィスタリア・セイレーン。

 この五人で、遥たちは長きに渡り妖魔と、バンディットと戦い続けてきた。

 そんな戦いの中で、遥たち桜花戦乙女同盟は敵の正体、秘密結社ネオ・フロンティアの存在を知り。加えて自分たちが妖魔と呼んでいた怪人たちが、バンディットという名の怪人で……ネオ・フロンティアの眷属であることを知る。

 過酷な戦いに身を投じる中で、遥たち桜花戦乙女同盟が知った事実。それは、来栖大社に太古の昔から伝わる伝承も含めれば……未だP.C.C.Sが知りえぬことばかりだった。

 ひとつ例を挙げるのなら、バンディットについてのことか。

 ――――遥たちが妖魔と呼んでいた敵、バンディットには幾つかのカテゴリが存在している。

 大きく分けて下級・中級・上級の三つだ。記憶を失った後の遥がP.C.C.Sの面々とともに戦ってきたものは、殆どが下級に分類される。

 ただひとつの例外は……一度戒斗に撃破された後に再生された、バッタ怪人グラスホッパー・バンディットか。

 アレに関しては篠崎(しのざき)香菜(かな)が自ら口にしていた通り、中級相当の力を得ているようだが……とにかく、今日まで戦ってきた敵は全てが下級個体。先刻遥が倒した五体とグラスホッパーを除けば、下級に分類される程度の力しか有していない、言うなれば雑魚ばかりだったのだ。

 また――――それ以外にも、ネオ・フロンティアは本命を隠し持っている。

 それは、首領たる篠崎(しのざき)十兵衛(じゅうべえ)、ソロモン・バンディットと……その近衛たる、七二体から成る特級バンディットだ。

 古の書物に記されし、ソロモン王が使役した七二柱の悪魔。その名を冠した特級バンディットたちこそが――――秘密結社ネオ・フロンティアの大幹部たるその存在こそが、遥たち神姫が打倒すべき本当の敵なのだ。

 その強さたるや、かなり強力な個体であるはずの上級バンディットすら足元にも及ばぬほど。一人一人が一騎当千の実力を有した、七二体の強敵。それこそが、遥たち神姫が本当に打ち倒すべき敵だった。

 だが、そんな強敵を前にしても、遥たちは――――桜花戦乙女同盟の五人は、一歩も引くことは無かった。

 正確な数は数えていないが、七二体の内の八割以上は撃破したはずだ。想像を絶する強敵である敵の大幹部、特級バンディットを相手に、遥たちは必死に戦って、戦って、戦い抜いた。

 だが――――そんな必死の戦いも空しく、願いは一歩届かず。今から一年半前、遥たち桜花戦乙女同盟は秘密結社ネオ・フロンティアの前に敗れてしまった。

 戦いの中で、瑠衣と美桜、そして遥の母……紫音は敵の毒牙に掛かり、亡くなってしまった。

 最後に残った飛鷹もまた、決死の覚悟で遥を逃がした後……篠崎隼人、バエル・バンディットと戦い重傷を負ってしまう。それでも飛鷹は辛くも生き延びたが……大切なものを守れぬまま、彼女は何もかもを失ったしまったのだ。

 加えて、遥もまた無傷とはいかず……飛鷹が決死の覚悟で逃がしてくれた際、その時に喰らった必殺技の衝撃か何かで、彼女もまた記憶を失ってしまっていた。

 あの時、飛鷹は目の前に立ち塞がる篠崎一族から満身創痍の遥を逃がすため、わざと彼女に自身の必殺技『ディバインシュート』を放った。全身全霊の一撃、猛烈な勢いで放った一撃は、確かに彼女を彼方へと吹き飛ばし、戦線離脱はさせることには成功したが……しかしその時の代償として、遥は技を受けた衝撃で記憶を失ってしまったのだ。

 きっと、その前の連戦に次ぐ連戦、激戦の最中で身体にダメージが刻まれていたこともあるだろう。記憶を失う最後のトリガーが飛鷹の放ったディバインシュートだっただけで、彼女のせいで記憶を失ってしまった……というワケではない。あくまで切っ掛けになっただけなのだ。

 ――――そんな風に飛鷹に逃がされた遥は、意識が朦朧とする中、雨の降りしきる街を彷徨い歩き。そうして力尽きた場所が、偶然にも彼らの家の前……純喫茶『ノワール・エンフォーサー』の目の前、即ち戒斗の実家の目の前だったのだ。

 そこで、遥は戒斗とアンジェに救われた。薄れゆく意識の中、抱きかかえる戒斗と心配そうに覗き込んでくるアンジェ、二人の顔を見つめながら……意識と記憶が途切れる寸前、遥は呟いていた。飛鷹の顔を思い浮かべながら、微かに涙粒を流しながら……雨の降りしきる中、遥は呟いていた。

「……ごめん、なさい。飛鷹、私は貴女を――――」

 その言葉を最後に、遥の記憶と意識は途切れてしまう。

 彼女の身体から力が抜け、意識は大切な記憶とともに、掛け替えのない思い出とともに失われ。最後に一粒流した涙粒は、頬を滑る雨粒の中に混ざって――――そして、流れ落ちていった。

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