表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-07『黒い勇者、その名はヴァルキュリアXG』
282/374

第四章:正義に燃えよ烈火の拳、剛烈の神姫クリムゾン・ラファール/04

 戦場と化したオープンモール、そこに飛鷹たちから一歩遅れてやってきた遥は、バイクを横滑りさせて停めながら……飛鷹と美雪の戦いぶりを目の当たりにしていた。

「凄い……」

 バイクに跨ったまま、黒いフルフェイス・ヘルメットのバイザーを上げた遥は、二人の――――特に飛鷹の戦いぶりを見て、思わずそんな声すら漏らしてしまう。

 ――――圧倒的。

 遥が目撃した彼女の、伊隅飛鷹の戦いぶりは……まさに圧倒的と言わざるを得ないほどのものだった。

 見た目の割に俊敏で、そして重いライノセラス・バンディットの攻撃を一撃ずつ丁寧に、的確に……そして必要最小限の動きで受け流し。そして大振りの攻撃によってライノセラスの懐に出来た隙を見逃さず、強烈な一撃を次から次へと叩き込んでいく。

 そうして怯んだライノセラスが頭の角で反撃を仕掛けてくれば、片腕で容易く受け流し。体勢を立て直すべく一旦大きく飛び退いたライノセラスに対しては……焔を纏わせた手刀を素早く振るい、そこから放つ焔の刃で以て追撃する。

 飛鷹が放ったその焔の刃……彼女の有する技のひとつ『バーニングスライサー』を喰らったライノセラスがよろめいた隙に、今度は背後から忍び寄っていた美雪が追撃の蹴りを何度も喰らわせていく。

 …………飛鷹が圧倒し、息つく間もない猛攻撃を仕掛けてライノセラスの体力と集中力を削ぎ。それによって生まれた隙を美雪に突かせ、更なるダメージを与えてやる。

 研ぎ澄まされた美雪の脚もそうだが、それ以上に飛鷹の仕掛ける戦術と……何よりも、洗練されたその技に。まさに拳法の達人と呼ぶに相応しい洗練された彼女の動きに、遥は思わず見とれてしまっていたのだ。

 とはいえ、彼女たちだけに任せているワケにもいかない。

 あのライノセラス・バンディットが明らかに強力な敵であることも確かだし……それに何より、飛鷹たちだけに任せて自分は見ているだけ、なんて選択肢を遥が取れるワケもない。彼女もまた、飛鷹たちと同じ力を有した乙女……神姫なのだから。

「…………!」

 だからこそ、遥はヘルメットを脱ぎながらバイクを降り。自分も加勢すべく走り出しながら……胸の前に構えた右手の甲へ、輝きとともに青と白のブレス『セイレーン・ブレス』を出現させた。

「チェンジ・セイレーン!!」

 走りながら、遥は叫び……そして変身する。青と白の神姫、ウィスタリア・セイレーンに。

「はぁぁぁぁっ!!」

 そうして神姫に変身した遥は――――基本形態セイレーンフォームに変身した彼女は、虚空から出現させた聖剣ウィスタリア・エッジを右手で掴み取りつつ、彼女もまたライノセラス・バンディットへと飛び掛かっていく。

「ッ!? セイレーン、どうして……!?」

「来たか、美弥! 待っていたぞ、お前がやってくるのを!」

 ウィスタリア・エッジを振りかぶり、ライノセラスに勢いよく斬り掛かる遥。

 突然現れたそんな彼女を前にして、美雪は眼を見開いて驚き……そして飛鷹は勇ましく、そして何処か嬉しげな声でそう叫ぶ。

「伊隅飛鷹……クリムゾン・ラファール、貴女は私の何を知っているのですか!?」

 ライノセラスを斬りつけ、吹き飛ばし。そうして着地しながら遥は傍らの飛鷹に対して……明らかに自分を知っている様子の彼女に対して叫んだ。

 それに対して飛鷹は「何もかも、だ!」と即座に返し、

「お前が忘れてしまったお前自身のことも、私はよく知っている!!」

 と、やはり覇気のある声で続けて遥にそう言った。

「だが、その話は後だ! 今はコイツを仕留めることが先決……合わせろ、美弥ッ!!」

「合わせる、といっても……!!」

「大丈夫だ、お前なら出来るはずだ!! 記憶は消えてしまったとしても……身体が覚えているッ!!」

「……自信はありませんが、やれるだけやってみます!!」

 合わせろ、と言う飛鷹に対し、遥は戸惑いつつもコクリと頷き返す。

 確かに彼女の言うことには……ライノセラスを倒す方が先決だというのには一理ある。遥とて自身の素性、自分の知らない自分のことは気になるが……それ以上に、今やるべきことが目の前にあるのだ。

 だからこそ、遥は飛鷹に頷いていた。

 すると飛鷹は、そんな遥の反応を見て嬉しそうにニッと笑み。

「その意気だ! 美雪も合わせろ! 行くぞぉっ!!」

「分かりました、師匠! とうッ!!」

 頷き合った後、飛鷹は美雪とともにバッと地を蹴って飛び掛かり、怯んでいたライノセラスまで一気に距離を詰めていく。

「ふっ……!」

 同時に遥も足裏のスプリング機構を圧縮。踏み込むと同時に開放し、勢いをつけて飛びながら……飛鷹たち二人に続く。

「はぁぁぁぁぁっ!! たりゃぁぁぁぁぁっ!!」

「でやぁぁぁぁ――――ッ!!」

 懐に飛び込んだ飛鷹が、雄叫びとともに拳を……目にもとまらぬ速さで、それこそ拳が幾つも重なって見えてしまうほどの神速でライノセラスの腹に叩き込み。その傍らでは美雪が、やはり同じようにとんでもない速度で蹴りを次から次へと喰らわせている。

 ――――烈火、そして疾風。

 師弟二人の猛攻は、まさにそう表現するに相応しいだけのものだった。

 雄々しい叫び声の通りに熱く滾る飛鷹の拳と、そんな彼女の燃え滾る焔を煽り、更に強めるような疾風が如き美雪の脚。二人の仕掛ける猛烈なコンビネーション・アタックは、まさにそんな表現が打ってつけなぐらいに息の合った攻撃だった。

「ハァッ!!」

 ただでさえ飛鷹と美雪、師弟二人の攻撃だけでも熾烈なものなのに。そこに遥の研ぎ澄まされた斬撃も加われば……ライノセラスが反撃はおろか防御すら間に合わず、ただただ手傷を負わされ続けるだけなのも仕方のない話だった。

「ギュ、ギュルルルル……!!」

 当然、そんな猛烈な攻撃を三人の神姫から一斉に仕掛けられれば、ライノセラスは大きな隙を晒してしまう。

「――――美雪ッ!」

「はい、師匠ッ!!」

 そんな隙をライノセラスが晒したのを逃さず、飛鷹は美雪とともにライノセラスの頭に……そこに生えた、ご自慢の角に強烈な蹴りを二人同時に叩き込んだ。

「でやぁぁぁっ!! ディィィィバインッ!! シュゥゥゥ――――トッ!!」

「喰らえぇっ! 必ぃっ殺……タイフーンシュートッ!!」

「ギュルルルル――――ッ!?」

 飛鷹の赤熱化し、紅蓮の焔を纏った左脚と……そして美雪の、風の力を纏わせた右脚が同時にライノセラスの角に炸裂する。

 ――――『ディバインシュート』。

 ――――『タイフーンシュート』。

 伊隅飛鷹と風谷美雪、神姫クリムゾン・ラファールとジェイド・タイフーンの必殺技だ。

 そんなものの直撃を喰らえば、幾ら強靭なライノセラスの角といえども耐え切れず。二人の脚に蹴り飛ばされた角は……いとも簡単にへし折られてしまっていた。

「ギュル、ギュルルルル……ッ」

 角をへし折られ、苦しげな声を漏らすライノセラス。

 そんなライノセラスの、明らかに弱った様子を見て。飛鷹はこれを最大の好機と捉えれば、美雪と遥に向かって「行くぞ皆、トドメだ!!」と叫んでいた。

「サイクロン・コンバート……フルパワーッ!!」

「ハァァァ……ッ!!」

「天竜活心拳が奥義、受けてみろ!!」

 そうすれば、三人は横並びになってそれぞれ必殺の一撃の構えを取る。

 美雪は小太刀のような刀剣『サイクロンエッジ』を召喚すると、それを右手で逆手持ちに握り締め。そうすれば次に身体の下で両手をクロスさせ、吹き荒れる疾風の力を右手のブレスに……タイフーン・チェンジャーの風車のようなエナジーコアに集め、そこからサイクロンエッジの刀身へと注ぎ込む。

 遥は腰を低く落とした構えを取り、深く気を練って……右手に(つか)を握り締める聖剣ウィスタリア・エッジ、その細身な刀身にバッと青の焔を纏わせていく。

 そして飛鷹は以前のように脚……ではなく、今度は左腕を赤熱化させ。そうして太陽のように左腕が真っ赤に染まれば、更に激しく燃え盛る紅蓮の焔を拳に纏わせた。

「懺悔とともに――――眠りなさい!!」

「喰らえ、必ぃぃっ殺!! サイクロンッ!! パニッシュメントぉぉぉぉっ!!」

 極限まで気を練った遥がウィスタリア・エッジを振るい、青の焔を纏った光の刃を放つ。

 ――――『セイレーン・ストライク』。

 神姫ウィスタリア・セイレーン、基本形態セイレーンフォームの必殺技だ。

 遥がそれを放つと同時に、美雪も雄叫びとともに右手のサイクロンエッジを振るい。とすれば同じように光の刃を……こちらは風の力を宿した緑の光刃を放った。

 ――――『サイクロン・パニッシュメント』。

 風谷美雪の、神姫ジェイド・タイフーンのもうひとつの必殺技だ。風の力を極限まで集めた刃で敵を斬り裂く一撃。今回はそれを応用して……隣の遥と、セイレーンと合わせる形で光の刃として放ったというワケだ。

「はぁぁぁぁっ!! てゃぁぁぁぁっ!!」

 そうして二人が必殺の一撃たる光の刃を放つのと同時に、飛鷹はバッと地を蹴って飛び出していた。

 背中と足裏の補助スラスターを吹かして加速しながら、構えた左拳を……赤熱化し、紅蓮の焔が燃え盛る拳を振りかぶりながら、飛鷹は二人の放った光の刃とともにライノセラス・バンディットへと突っ込んでいく。

「貫くッ!! 天竜活心拳の誇りに賭けてッ!! 我が奥義……止められるものなら、止めてみろぉぉぉぉっ!!」

 更に飛鷹は左肘の補助スラスターにも点火。弾丸のような勢いで飛ぶ自身の身体と、そして左腕を更に高次元の速度まで叩き上げる。

「喰らえッ! 劫火(ごうか)爆砕(ばくさい)……クリムゾンッ!! ブラスタァァアア――――ッ!!」

 遥の放った『セイレーン・ストライク』と、美雪の放った『サイクロン・パニッシュメント』がほぼ同時に到達し、青と緑の光刃がライノセラスの強靭な身体を斬り刻む。

 そうして二人の光刃がライノセラスを斬り裂いた一瞬後、懐に潜り込んだ飛鷹はバンッと着地しながら力強い一歩を踏みこみ……スラスターを吹かして加速させた左拳、焔に包まれた拳を全力でライノセラスの腹に叩き込んだ。

 例え強靭な皮膚を有するライノセラス・バンディットといえども、この一撃には耐え切れず。光の刃に斬り裂かれるのと同時に飛鷹の拳を喰らったライノセラスは、最早声にならないほどの叫び声を上げながら、燃え盛る拳の自身の腹への侵入を容易く許してしまう。

 ぐちゅり、と肉を裂く感触が飛鷹の左手に伝わってきたのは、ほんの一瞬。

 その気色の悪い僅かな肉感も、拳に宿した焔が肉を焼くことですぐに消える。

 そうすれば、ライノセラスの腹の奥深くへと到達した飛鷹の左拳から……ライノセラスの内側へと、多大なエネルギーが送り込まれていく。

 ――――時間にして、僅か一瞬。

 たった一瞬の間に体内に送り込まれた、伊隅飛鷹の……神姫クリムゾン・ラファールの膨大なエネルギー。それはすぐさま暴走を始めると、ライノセラス・バンディットの身体を内側から焼き尽くしていく。

「ギュルルルルルゥゥッゥウッ!!」

 身体が内側から焼けていく激痛に、苦しみの雄叫びを上げるライノセラス。

 だが飛鷹はそんな苦しげなサイ怪人に一切の情け容赦を与えることはなく、一瞬だけスッと眼を細めると……ライノセラスの腹に埋まった左拳をグッと力強く握り締めた。

「―――――成敗ッ!!」

 握り締めるとともに、飛鷹が雄叫びを上げる。

 そうした瞬間――――遂にライノセラス・バンディットの身体は限界を迎え、焔に焼かれたサイ怪人の巨体が内側から派手に爆裂した。

「ギュルルルルルゥゥゥウウ――――ッ!?」

 ――――紅蓮の焔。

 ライノセラスが爆発した瞬間、異形のサイ怪人の断末魔の雄叫びが昼間のオープンモールに木霊した瞬間、その身体は飛鷹とともに焔の中へと消えていった。

 ――――『劫火(ごうか)爆砕(ばくさい)クリムゾンブラスター』。

 それこそが、今飛鷹が放った必殺技。剛烈の神姫クリムゾン・ラファールが有する、二つ目の必殺技だった。

 赤熱化させ、紅蓮の焔も纏わせた拳を叩き込み、拳を通して暴走させたエネルギーを送り込み……それで以て敵を内側から焼き尽くし、爆散させる強力無比な必殺技。それこそが今まさに飛鷹がライノセラス・バンディットに叩き込んだ一撃、劫火爆砕クリムゾンブラスターだった。

 技の原理的には、アンジェがスカーレットフォーム時に放つ『スカーレット・インパクト』と酷似している。だがその威力は彼女のものの比ではない。これは彼女が、伊隅飛鷹が拳法の達人……一子相伝の暗殺拳、天竜活心拳を極めた者だからこそ放てる一撃といえよう。

(伊隅飛鷹…………貴女は)

 ――――飛鷹は、どうなったのか。

 少し離れた場所からそんな飛鷹を、焔の中に消えていった彼女を目の当たりにしていた遥は、思わずそんなことを考えてしまったが……しかし、どうやらそれは杞憂だったようだ。

「…………」

 飛鷹がサイ怪人とともに爆炎の中に消えてから数秒後、コツンコツンという足音が聞こえてくる。

 そうすれば――――燃え盛る紅蓮の焔の向こう側から、伊隅飛鷹が無傷で現れていた。

「戦い続けることが運命なら、私はこの拳を振るい続ける。天竜活心拳の、桜花戦乙女同盟の誇りに賭けて――――弱き者を、力なき者を守るために」

 そうして焔の向こう側から現れながら、そのサファイアの瞳に静かな闘志を燃やしながら……飛鷹はそう、力強い意志とともに呟いていた。





(第四章『正義に燃えよ烈火の拳、剛烈の神姫クリムゾン・ラファール』了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ