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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-07『黒い勇者、その名はヴァルキュリアXG』
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第一章:伸ばした手のひらが繋ぐモノは/02

「――――トっ、カイトっ!!」

 自分の名を呼ぶ少女の声に導かれ、戒斗が深い眠りの中から目を覚ますと。すると、そこには見覚えのない真っ白な天井があった。

 どうやらベッドに寝かされているらしい戒斗は……何故か、虚空に向かって左手を伸ばしていて。そんな彼の左手を、両の手のひらでぎゅっと握り締めながら――――アイオライトの瞳に大粒の涙を溜めた彼女は、アンジェリーヌ・リュミエールは戒斗の顔を覗き込みながら、必死に彼の名前を叫んでいた。

「俺は……」

「よかった……! 目が覚めて、本当によかった……っ!!」

 目覚めたばかりで状況がイマイチ掴めていない戒斗がうわ言のように呟くと、アンジェは泣きながら、そんな彼をぎゅっと抱き締める。強く、まるで彼の存在を……彼が生きていることを確かめるかのように。

「此処は……病院か? なあアンジェ……俺は、一体どうして……?」

 戒斗はアンジェに抱き締められたまま、妙に力の入らない左手でそっと彼女の背中に触れる。

 その段階で漸く、戒斗は自分が寝かされているこの場所が病院で、個室の入院病棟だと理解していた。

 見ると、自分の右腕には点滴の針が刺さっていて。そこから伸びる透明な細い管は……栄養剤だろうか、何かの点滴液のパックに繋がっている。

「カイト、もう三日も眠り続けてたんだよ……?」

 自分が置かれている、そんな今の状況。それを不思議に思った戒斗が細い声で問いかけると、すると抱き着いていた格好から一旦離れたアンジェが、やはり泣き腫らした瞳で見つめながらそう言う。

「三日もって、なんで――――っ!?」

 アンジェにそう言われた直後、戒斗は自分の身に何が起こったのかを思い出した。

 ――――翡翠真が、秘密結社ネオ・フロンティアに攫われた彼女が……神姫として、敵として現れた。

 思い出した途端、血相を変えた戒斗はバッとベッドから起き上がろうとするが……しかしフラッと目眩がして、そのまま倒れそうになってしまう。

「駄目だよカイト、まだ寝てなくちゃ!!」

 そのままベッドに急降下しそうになった上半身を、アンジェがどうにか支えてくれた。

「でも……でも、真がっ!!」

「無理だよ、そんな身体じゃっ!!」

「俺が助けてやらないと駄目なんだ! 俺が……俺がっ!!」

「――――彼女の言う通りだよ、戒斗くん」

 と、尚もベッドから飛び出そうとするのをアンジェに止められながら、尚ももがく戒斗だったが……そんな彼の動きを止めたのは、病室の壁にもたれ掛かって腕組みをする彼女、篠宮(しのみや)有紀(ゆき)の言葉だった。

「先生……アンタまで、どうして此処に……?」

 ひとまずもがくのをやめた戒斗は、上半身をベッドから起こした格好で……フラつく身体をアンジェに支えて貰いながら、不思議そうな視線と声を有紀に向かって投げかける。

「此処はP.C.C.Sが息を掛けている病院でね。戦闘中に重傷を負い、意識を失った君を運び込んだのがこの病院なんだ。私はたまたま様子を見に来たら、たまたま君が目覚めたタイミングと合致した……といったところかな」

 そんな彼に有紀は簡潔に答えて、小さく肩を竦めてみせる。

「あの後、俺は一体どうなって……?」

「美雪ちゃんが助けてくれたんだよ?」

 戸惑う戒斗の身体を支えたまま、アンジェはそっと彼に囁きかける。

 そのまま、アンジェはあの後の経緯を――――戒斗が意識を失った後の経緯を説明してくれた。

 乱入してきた美雪が助けてくれたこと、その後で現れた、美雪の師匠という謎の女――――伊隅(いすみ)飛鷹(ひよう)が場を収めてくれたこと。戦闘が終わった後で、ウェズと一緒に戒斗をこの病院に担ぎ込んだこと…………。

「…………そうか、美雪が」

 アンジェが説明してくれた後、美雪が助けてくれたということを聞いた戒斗は、小さく表情を綻ばせながら呟く。

 やはり、美雪は美雪のままのようだ。変わってしまった彼女だが……それでも、根本のところは何も変わらない。例え神姫になってしまったとしても、風谷美雪はその優しさを失ってはいなかった――――。

 彼女が自分を助けてくれたという事実から、それを感じていたからこそ。美雪の話を聞いて、戒斗は思わず表情を綻ばせてしまっていた。

「……ちょっと待ってくれ、Vシステムは……Vシステムはどうなったんだ!?」

 そうして美雪の話を聞き終えた後で、戒斗はハッとして。有紀の方に視線を向けながら、青ざめた顔で彼女に問いかける。

 すると、有紀は白衣の裾を小さく揺らしながら……僅かな溜息とともに、残酷な事実を彼に突き付けた。

「Vシステムだが――――完全に、壊れてしまったよ」

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