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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-07『黒い勇者、その名はヴァルキュリアXG』
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プロローグ:黒に染まりし少女

 プロローグ:黒に染まりし少女



 ――――篠崎邸。

 人里離れた場所に建つ、高い塀で囲まれた広大な敷地を有する大きな洋館。その広間で――今日も今日とて、秘密結社ネオ・フロンティアの幹部たる二人が顔を突き合わせていた。

 篠崎(しのざき)十兵衛(じゅうべえ)、そして篠崎(しのざき)香菜(かな)

 世界を影から支配せんと目論む闇の一党、その首領たる老人と、彼の孫娘……そんな二人がこの広間の中、笑顔で言葉を交わしていた。

「例の人工神姫、性能は私が想像していた以上のものでしたわ」

 広間に据えられた長テーブル、その誕生日席に腰掛ける十兵衛に対し、香菜が笑顔でそう報告する。

 十兵衛は「そうかそうか」と、そんな孫娘に優しく微笑みかけると、その後で彼女にこんな質問を投げかけていた。

「ところで香菜、この娘……翡翠(ひすい)(まこと)といったか。明らかに自我が無いように見えるが、どのようにして我々の眷属(けんぞく)としているのだね?」

 そう、香菜の傍らに控えた少女を――――無表情で控える黒髪ウルフカットの少女、翡翠(ひすい)(まこと)に視線を向けながら。

 十兵衛の言う通り、香菜の傍に控えた真の瞳からは完全に光が失われている。その人形のような無機質な表情も何もかも、どう見ても自分の意志というものを持っているようには思えない。

 実際――――今の翡翠真から、自我というべきものは完全に消え去っていた。

 言うなれば、今の彼女は操り人形(マリオネット)といったところか。

 人工神姫として改造された真にはもう、自我というべきものは欠片も存在していない。光の消えた瞳で虚空を見つめ、あまりに無機質な無表情のままで(たたず)む彼女は……文字通りの、生きた人形でしかなかった。

 そんな彼女の様子を見て、十兵衛も疑問を覚えていたのだ。こんな状態の彼女を、孫娘は一体全体どうやって使いこなす気でいるのだろうと。

「種を明かしてしまえば、簡単なことですわ」

 香菜は問うてきた祖父にニッコリと微笑み返しながらそう言うと、続けて傍らの真に小さく目配せをする。

「…………」

 すると、真は無言のままにコクリと頷いて、右腕をスッと小さく掲げてみせる。

 ダークグレーのブラウスの上から羽織る、フード付きの黒革ロングコート。肘下で袖を折っている、そんな格好で彼女は右腕を掲げ……素肌を晒す右手の甲、そこに取り付けられた禍々しい黒と紫のブレスを十兵衛に見せつけた。

 ――――ダークフラッシャー。

 そのブレスは、彼女が神姫グラファイト・フラッシュであることの何よりもの証明。右手の禍々しいブレスは、真を無理矢理に神姫へと仕立て上げる為に篠崎香菜が用意した……いわば、(かせ)のような人工の装具だった。

「以前にもお爺様にお話ししたとは思いますが……彼女、翡翠真の身体には改造手術を施してありますの。

 まず初めに、神姫が神姫である為の絶対条件、ヴァルキュリア因子を遺伝子レベルで後天的に植え付け、神姫としての能力を付与してありますの。それと同時に……改造手術によって身体能力も強化してありますわ。故に今の彼女はグラファイト・フラッシュに変身せずとも、現状のままで常人を遙かに凌ぐ身体能力を有しておりますの」

 そんな真を傍らに控えさせつつ、香菜は笑顔で十兵衛に説明する。

 十兵衛は説明する香菜に対し「続けたまえ」と笑顔で言う。すると香菜はニッコリと笑顔を浮かべて、翡翠真の――――自らの生み出した人工神姫、グラファイト・フラッシュの説明を続けていった。

「また、改造手術時に彼女には洗脳処置も施してありますわ。それと同時に、こちらの変身補助装置『ダークフラッシャー』を移植。初の人工神姫であるが故に低くなってしまっている、神姫としての絶対的なスペックを底上げすると同時に……ダークフラッシャーは洗脳装置としても機能していますわ。ですので、彼女が自我を取り戻し、我らネオ・フロンティアに反旗を翻すことは万に一つもあり得ません」

「ふうむ……なるほど、理屈は分かった。しかし香菜、その人工神姫……改造の成功率がたったの一割というのは、やはり頂けないな」

 思案するように唸りながら言う十兵衛に、香菜は「ご心配なさらず」と笑顔を浮かべる。

「人工神姫第一号、神姫グラファイト・フラッシュ……翡翠真の実験成功で得られたデータを元に、更に安定した改造方法を見出せましたわ。既にモスクワ支部の方にも、第二号の実験を開始するように指示を出してありますわ」

 続く香菜の言葉に十兵衛はうむ、と満足げに頷き、

「概ねは理解した。構わんよ、香菜のやりたいようにやってみなさい」

 と、好々爺(こうこうや)のように穏やかな笑みを浮かべながら、十兵衛は目の前に(うやうや)しく立つ孫娘に向かってそう言っていた。

「現に彼女はP.C.C.Sの切り札、あの黒いパワードスーツを圧倒している。人工神姫……十分に有意義な試みじゃあないか」

 続く十兵衛の上機嫌そうな言葉に、しかし香菜は少しばかり曇り気味の表情でこう返す。

「…………ですが、気掛かりなのはクリムゾン・ラファールですわ。東南アジア支部を壊滅させられたのも、つい先日のこと……なのに、もう日本に戻ってきているなんて」

「はっはっは、相変わらず香菜は心配性なようだ」

「ですが、お爺様」

 曇りっぽい表情の中、僅かに不安の色を滲ませる香菜に十兵衛は「なに、心配することはない」と余裕の笑顔で言って、

彼奴(あやつ)程度に遮られてしまうほど、我らネオ・フロンティアは脆くないよ」

 と、あくまで香菜を諭すように穏やかな口調でそう続けた。

「……ええ、お爺様の仰る通りですわね」

 それに香菜は、ほんの僅かな不安の色は見せながらも……納得したように小さく頷く。

「何にせよ、人工神姫の件は香菜に一任する。好きなようにやってみなさい」

「はい、お爺様」

 紫色を基調とした、ゴシック・ロリータ風のワンピース。その裾を両手で摘まみながら、(うやうや)しくお辞儀をする香菜。

 ペコリと上品に頭を下げる孫娘に十兵衛はニッコリと微笑みかけ、そして同時に胸の内ではこうも思う。

(遂に我らが宿敵、神姫の力までもが我が手中に収まった。私が、私のネオ・フロンティアが世界の全てを手に入れる日も……そう、遠くはなかろう)

 微笑みを交わし合う、十兵衛と香菜。

「………………」

 そんな二人の傍ら、広間の中で直立不動のまま動かない翡翠真は……光の消えた瞳で、ただ虚空をじっと見つめ続けていた。





(プロローグ『黒に染まりし少女』了)

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