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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-06『グラファイトの少女』
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第九章:ヴァルキュリア・フォーメーション/09

「ッ……」

 迫り来る金色のビーム、潤一郎の放った『アルビオン・フィニッシュ』を前に……遥は、動けない。

 避ける暇はないと彼女は判断していたのだ。距離もそう遠くない、避けるのは……どう考えても、不可能だ。

 だからこそ遥は左手のブレイズ・ランスを構え、それで以てどうにか防御するなり、可能な限り受け流してみせようと覚悟を決めていたが――――しかし、潤一郎の放ったそのビームが彼女を襲うことはなかった。

「でやぁぁぁぁ――――っ!!」

 アルビオンシューターから撃ち出された金色のビームと、それを防ごうとする遥。その間にセラが割って入ってきたのだ。

 飛び込んできたセラは瞬時に防御特化形態のガーディアンフォームへとフォームチェンジ。呼び出した巨大なシールドを……彼女の背丈を優に超える、二メートルはあるだろうという巨大なシールドを構えると、それで以て見事にビーム攻撃を防いでみせたのだ。

「……!? フェニックス、貴女……!!」

 自分を守ってくれたセラの背中を見つめながら、遥が驚いた顔で呟く。

「これでアンタへの借り、ひとつは返したわよ……!!」

 とすれば、見事に潤一郎の『アルビオン・フィニッシュ』を防いでみせたセラはシールドを構えたまま、遥にそう返す。

「ええ、助かりました……!!」

「アンタが居てくれないと、アタシも困るからね……!!」

 礼を言う遥の前で、セラはまた基本形態のガーネットフォームにフォームチェンジしつつ、小さく振り返ってニヤリと不敵な笑みを浮かべてみせた。

『DANGER』

「くっ……タイムリミットか、ちょっとマズいな……!!」

 そんな遥とセラ、二人の前で膝を突く潤一郎は……プロトアルビオンは、純白の装甲の節々から真っ白い蒸気を噴き始めていた。

 アルビオンシューターから無機質な電子音声での警告が響き、青かったプロトアルビオンの大きなバイザーも赤色に変色する。

 ――――時間切れ。

 焦燥感に満ちた声で潤一郎がひとりごちた通り、これは時間切れの合図だった。

 プロトアルビオン、いいやアルビオン・システムはバンディットの力を無理に利用しているという性質上、装着時間に制限が設けられているのだ。

 その制限時間は時々の状況や装着者の身体的なコンディション、或いは使用したBカートリッジによって変化するものの……タイムリミットは必ず存在する。

 無論、制限時間を超えても装着し続けることは可能だ。

 可能だが……その時間超過が長引けば長引くほど、装着者の生命(いのち)は危険に晒されることになる。

 そして、最悪の場合は――――死に至ることも。

「でも、引くに引けない状況だからね……!!」

 だからこそ、潤一郎は焦っていた。

 本当なら今すぐにでも装着を解除し、撤退すべき段階だ。アルビオン・システムが制限時間を迎えた以上、潤一郎の身体への負担は一秒ごとに大きくなり……最悪は死に至ってしまう。

 だが、今の状況がそれを許さないのだ。

 既に自分の率いていた軍勢、グラスホッパー・バンディット以外の再生バンディットは全て彼女たち神姫の手によって撃破されてしまっている。量産型のコフィン・バンディットたちは未だ健在で、ウェズらSTFヴァイパー・チームとの交戦を続けてはいるが……状況が潤一郎の不利へと傾き始めていることは事実だ。

 まして、今こうして自分が相手にしている二人は歴戦の神姫たちだ。ウィスタリア・セイレーンとガーネット・フェニックス、この二人が自分を逃がしてくれるとは思えない。

 だからこそ、潤一郎はこうも焦っていたのだ。逃げるに逃げられないこの状況下、この絶体絶命のピンチを突破するにはどうすればいいのか……と。

「どうやらその鎧、時間制限がおありのようですね」

 そんな焦る潤一郎の、プロトアルビオンの様子を見て。再び遠距離戦形態のライトニングフォームにフォームチェンジした遥が、右手に呼び出した聖銃ライトニング・マグナムを突き付けながら彼にそう言う。

「時限式だなんて、意外に情けないのね。……この辺でお遊戯もおしまい。神妙にお縄につくことね、此処がアンタの終着点(デッド・エンド)よ」

 更にセラもその隣で潤一郎に左手のショットガンを突き付けつつ、凄む。

 並び立つ二人の神姫、ウィスタリア・セイレーンとガーネット・フェニックス。

 二人に銃口を突き付けられながら、クッと潤一郎が歯噛みをしていると――――すると、三人の耳に何かが聞こえてきた。近づいてくる、何かの気配が。

「あれは……?」

 聞こえてくる甲高いエグゾースト・ノート。その気配を悟った遥がちらりと視線を向けてみると……彼女は目の当たりにしていた。こちらに向かって猛スピードで突っ込んでくる、紫色のスーパーカーの機影を。

「ッ!! セイレーン、アイツ突っ込んでくる!!」

「新手……でしょうか!?」

「さあね! とにかく避けるっきゃないわよっ!!」

 突っ込んでくる紫色のスーパーカー、二〇一九年式のマクラーレン・720Sスパイダーを見て、遥とセラは咄嗟にその場から大きく飛び退いていく。

 そうして二人が飛び退いていくと、そのマクラーレンはギャアアッと横滑りをしながら潤一郎の傍へと……膝を突く、制限時間を迎えたプロトアルビオンのすぐ傍へと滑り込んでくる。

 とすれば、派手に停まったマクラーレンの運転席から誰かが降りてきて―――足元の潤一郎を見下ろしながら、嘲笑の笑みを浮かべて彼にこう言う。

「無様ですわね、潤一郎」

 ――――篠崎(しのざき)香菜(かな)

 秘密結社ネオ・フロンティアの幹部たるその女、紫色を基調としたゴスロリ風のワンピースを揺らすその女が、無様を晒す潤一郎を見下ろしながらほくそ笑んでいた。

「ああ……本当にね。でもありがとう、姉さん。お陰で助かったよ」

「別に潤一郎、貴方を助けたワケではありませんわ」

 疲れた声で礼を言う潤一郎に言って、香菜は皆の前にサッと一歩踏み出し。合流してきたグラスホッパーが傍らに(かしず)く中、ゴスロリ風のワンピースの裾を摘まみながら……(うやうや)しくお辞儀をしてみせる。

「…………なあ坊主、あの気味の悪い嬢ちゃんはなんなんだ?」

 現れたネオ・フロンティア幹部、篠崎香菜。

 ペコリとお辞儀をするそんな香菜を目の当たりにして、ウェズは戒斗に……アンジェに支えられながら後方に下がってきた彼に問いかける。

「篠崎香菜、秘密結社ネオ・フロンティアの幹部……らしいぜ」

 そんなウェズの問いに、戒斗はアンジェに肩を預けた格好のまま、グロッキー極まりない声音でそう答えてみせた。

「おいおい、マジかよ……撃っちまうか?」

「いいや……無駄だろうな。無策で俺たちの前に現れるほど馬鹿とは思えない」

「ま……そうだろうな」

 後方で戒斗とウェズがそんな言葉を交わし合っていると、香菜は「お久しゅうございますわ、皆々様方」とまずは挨拶をし、

「本日は愚弟が大変お見苦しいところをお見せいたしまして、申し訳ありません」

 と、わざとらしいぐらいに芝居がかった調子で詫びを入れてきた。

「そのお詫び、といっては何ですが……ひとつ、私から皆様に素敵なサプライズをご覧に入れようと思いますの」

 続けて香菜はそう言うと、ニヤリと不気味な笑顔を浮かべ。とすれば自身が乗ってきたマクラーレンの助手席に向かって「さあ、降りていらっしゃいな」と声をかける。

 すると、開いたドアの向こう側から現れたのは――――――。

「そんな……っ!?」

「ちょっと、これって何の冗談よ…………!?」

「――――嘘、だよね………………?」

「どうして、どうして……どうして、君がそこに居るんだ――――真ぉっ!!」

 遥が戸惑い、セラが眼を見開き。アンジェが今にも泣きだしそうな顔でハッと口元を押さえ、そして戒斗の叫び声が木霊する中。篠崎香菜の愛車から、紫色のマクラーレンから降りてきたのは――――――あろうことか、行方不明になったはずの彼女、翡翠真だった。





(第九章『ヴァルキュリア・フォーメーション』了)

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