第九章:ヴァルキュリア・フォーメーション/02
「撃ち漏らしは俺に任せろ。君らは思う通りに暴れてくれ」
「うん……! 僕の背中、預けたよカイトっ!!」
「預かったぜ」
「オールウェポン、セイフティ・リリース!! ……セイレーン、合わせなさい!!」
「分かりました……!!」
仁王立ちのままレギュラス大型狙撃ライフルを構えた戒斗が次から次へとバンディットたちに深手を負わせる中、アンジェたち三人もそれぞれ敵との交戦を開始する。
まずはアンジェが戒斗の援護射撃を受けながら、一番手近な敵の懐に……サソリ怪人、スコーピオン・バンディットの懐に飛び込んでいく。
「でやぁぁぁぁっ!!」
両腰のスラスターを吹かして加速し、猛スピードで懐に飛び込み……腕のアームブレード、脚のストライクエッジで連続攻撃を仕掛け。四つの刃から繰り出される目にも止まらぬ猛攻でスコーピオンの勢いを一気に削いでやる。
「無駄だよ――――僕のスピードには追いつけない!!」
そんな猛攻撃を仕掛ける彼女の背中を、ゴリラ型のコング・バンディットが後ろから殴り付けようとするが……しかしアンジェは目にも止まらぬ超加速でそれを回避してみせる。
空を切ったコングの拳が、アンジェを捉え損なったゴリラ怪人の拳がスコーピオンの顔面にめり込む。
完全に同士討ちだ。流石に狙ったものではないが……こんな偶然もアリだろう。同士討ちで更にダメージを負ってくれるのなら儲けものだ。
「ッ!!」
味方を全力で殴ってしまったことに困惑するコングと、凹んだ顔面で苦しみの声を上げるスコーピオン。
そんな二体の隙を見逃さず……戒斗は戸惑うコングの背中をレギュラス大型狙撃ライフルのセンサースコープでロックオン。三〇ミリ砲弾でゴリラ怪人の背中を狙撃する。
撃ち放たれた三〇ミリ砲弾は、コングの背中を貫通することは叶わなかったものの……しかし強烈な手傷を、それこそ瀕死に近いレベルの手傷を負わせていた。
「今だ――――決めろ、アンジェ!!」
「ありがとう、カイト!! はぁぁぁぁっ!!」
アンジェが猛攻撃で怯ませたスコーピオンと、戒斗が背中にアツい一撃をお見舞いしてやったコング。
そうして瀕死のバンディットが二体出来上がれば、戒斗は叫び。するとアンジェは腰のスラスターを吹かして再び超加速を敢行。目にも止まらぬ速さでスコーピオンとコング、二体のバンディットを斬り刻んでいく。
その斬撃の数は、何十……いいや、何百という数。彼女が両手足の刃を振る速度があまりにも早すぎて、戒斗の目には数十もの斬撃が一度に叩き付けられているようにしか見えていなかった。
「これで、チェック・メイトだ……!!」
そうして更なる手傷を二体に負わせれば、コングの頭を踏み台にして高く飛び上がったアンジェは一度超加速を解き。そうすれば空中でバッと構えを取って、両手足のブレードに深紅の焔を纏わせる。
腕のアームブレードと、脚のストライクエッジ。煌めく四本の刃に、真っ赤な焔が纏わり付く。
情熱の赤色、灼熱の赤色。それはまるで……彼女の、アンジェの熱く滾る想いを体現するかのような色だった。
「グ、グゴゴ……」
「シュ、シューッ……!!」
四本のブレードに深紅の焔を纏わせる彼女の姿、頭上のアンジェの姿を目の当たりにして、コングとスコーピオンは恐れ慄く。
だが、逃げようとしたところでもう遅い。どのみちその瀕死の身体じゃあ逃げ切るコトなんて不可能だ。それに、例え万全のコンディションだったとしても――――彼女の速さに、ヴァーミリオン・ミラージュの速さに敵うものか!!
「やっちまえ、アンジェ!!」
「君たちの罪を今、その身を以て購わせる――――!!」
戒斗の叫び声が木霊する中、アンジェは両腰のスラスターを再点火。更に足裏の補助スラスターも吹かし、再びの超加速を敢行。目で追いきれないほどの速さで急降下すれば――――眼下で怯える二体のバンディット、その両方ともをアンジェは斬り刻んだ。
腕のアームブレードでコングの胴体を横薙ぎに叩き斬り、宙返りしつつ身体を捻り……バク転気味に脚のストライクエッジでスコーピオンの身体を真っ二つ叩き斬る。
そうして真っ赤な焔を纏わせた刃で斬り裂けば、遠くに着地したアンジェは激しく火花を散らしながら滑走し。そして彼女が静止すれば……アンジェの後ろで、二体のバンディットがド派手な爆炎を上げていた。彼女が刃に纏わせた焔の色と同じ、灼熱の如き真っ赤な爆炎を。
――――『ミラージュ・ジャッジメント』。
神速の神姫、ヴァーミリオン・ミラージュは基本形態、ミラージュフォームの必殺技。その断罪の刃によって、コングとスコーピオン、二体のバンディットは爆炎の中に姿を消していった。煉獄の焔に身体を焼かれ、自らの罪をその身で以て購うかのように。
「……まずは、ふたつ」
ヴァーミリオン・ミラージュは慈愛の神姫。無限の愛を光として胸に宿した彼女は、しかし背後の爆炎には無慈悲なまでに一瞥もくれることはなく。彼女の意識はただ、次なる敵影へのみ向いていた。ひとえに未来を、明日を掴み取るために。胸の内で燃え滾る輝きを、無窮の愛を貫くために――――。