第八章:深淵からの使者たち/05
港湾地区にある、横幅のかなり広い真っ白な大橋。
普段は観光客やカップルで賑わっているその橋の上に、今は人影はなく。あるものといえば、そこを横に広がって歩く大量のバンディットたちと……それらを率いるようにド真ん中、一歩先を歩く青年の姿。厚手の白いジャケットを潮風に靡かせる、篠崎潤一郎の姿だけだった。
潤一郎の率いるバンディットたちは、蜘蛛型のスパイダーに蛇型のコブラ、カマキリ型のマンティスにカブトムシ型のビートル、孔雀型のビーコックにサソリ型のトータスと、ゴリラ型のコングに蜂型のホーネットと……いずれも、過去に神姫たちが倒してきた個体ばかりだ。
それ以外にはサポート役で量産型のコフィンが二〇体ほどと、後は潤一郎の傍らにグラスホッパーが従者のように控えている。
合計で十体、コフィンも合わせれば三〇体――――。
それだけの数のバンディットが、潤一郎に率いられながら我が物顔で大橋の上を闊歩していた。
「ふふふ……」
白いズボンのポケットに手を突っ込みながら、潤一郎は笑顔で大橋を歩く。
「さあ来い、神姫たち。哀れにも悪の秘密結社に操られた乙女たちよ。この僕が解放してあげよう!」
そんな妄言じみたことを高らかに、何処までも大仰な……それこそ演劇のように叫びながら、潤一郎はバンディットを引き連れて悠々と歩き続ける。
まるで神姫たちをおびき出そうとするかのように、誘い出そうとしているかのように……バンディットたちは誰を襲うでもなく、ただ群れを成して橋の上を歩いていた。
(第八章『深淵からの使者たち』了)