第八章:深淵からの使者たち/04
――――その頃、現場に移動中のVシステム支援トラック、四トン規格のいすゞ・エルフ。
側面に『P.C.C.S』と書かれたそのトラックの荷台、キャビンの内部では戒斗と有紀、そして随伴してきた南一誠とが神妙な面持ちで顔を突き合わせていた。
「――――おい、それってバンディットサーチャーの誤作動じゃないのか?」
怪訝な顔をする戒斗に、デスクに座る南は「間違いないッス」と頷き返す。
「間違いなく、反応は数十体規模……いずれも過去に戒斗さんたちによって撃破された個体ばかりッス」
「どういうことだ……?」
「いわゆる再生怪人、ってことだろうね」
南の報告に戸惑う戒斗に、有紀が煙草を吹かしながら皮肉っぽく口を挟む。
「よくあるだろう? 番組の後半になって、今までの怪人を使い回すアレだよ、アレ」
「冗談キツいぜ……コイツは現実なんだぞ?」
「そうは言ってもね戒斗くん、事実なんだから仕方ないよ。こういう同種の個体が出現するというのは、以前にもタイプ・コングやタイプ・グラスホッパーで確認されていることだ。何も初めての事例じゃない、こうした事態は予測の範囲内だ」
「っつってもよ、いきなり全部乗せってのはな……」
「ま、君の気持ちは分かるよ。だがSTFヴァイパー・チームも我々に随伴、セラくんたちもこちらに向かってくれている。決して勝ち目のない戦いってワケじゃない」
「ああクソ、全く最高だね」
「全く以て同意見だ。……さてと戒斗くん、もうすぐ現着だ。Vシステムの着装を頼むよ」
「了解だ、畜生め」
毒づきながら、戒斗はフルオート・ハンガーの中に立つ。
「助手くん、Vシステム着装開始だ」
「了解ッス。……ヴァルキュリア・システム、着装シークエンス開始」
有紀が指示をすれば、南が目の前のキーボードを手早く叩き。そうすればフルオート・ハンガーのロボットアームが独りでに動き始め、Vシステムの……疑似神姫型強化外骨格『ヴァルキュリア・システム』の着装シークエンスが開始する。
動くロボットアームが、戒斗の身体に漆黒の装甲を次から次へと装着していく。腕に肩、脚部に胴体、そしてヘルメット。
着装シークエンスが始まって暫く、短い時間の間に戒斗の身体は普通の人間から、異形と戦う漆黒の重騎士の姿へ……黒いボディに真っ赤な眼、ヴァルキュリア・システムの姿へと変貌を遂げていた。
「さてと戒斗くん、今回の装備はどうする?」
「フルアーマー、全部乗せだ!」
「全部乗せ、ッスか?」
きょとんとする南に「ああそうだ!」と戒斗は強く頷き返す。
「今回は連中の規模が規模だ、例のアサルトアーマーとやらを使うにはうってつけの機会だろ?」
有紀はそんな戒斗の言葉に「ふむ……確かにね」と唸って理解を示し、
「分かった、アサルトアーマーの装着を許可しよう」
と、フルアーマー装備……増加装甲システム、アサルトアーマーの追加装備を許可してくれた。
「助かるぜ、先生」
「それはいいとして、装備の方はどうするんだい?」
「いつものガトリングを背中のハードポイントに二挺、スティレットも二挺にエクスカリバー、それにレギュラスも持っていく! 予備の弾も持てるだけだ!!」
「…………エラく重装備だね、一応理由を聞かせてくれるかな?」
「さっき言った通り、相手の規模が桁違いすぎる。手数は多い方が良いだろ?」
「ま、その通りか。……よし、それも許可しよう。助手くん、彼のオーダー通りにアサルトアーマーと、ありったけの武器を用意してあげてくれ」
「りょ、了解ッス! アサルトアーマー、装着シークエンス開始!!」
戸惑いながら南が再びキーボードを叩けば、戒斗の立つフルオート・ハンガーのロボットアームが再び動き始め……彼の身体に、身に纏う漆黒の装甲の上に更なる装甲を取り付け始める。
Vシステム本体と似たような色合い、マットブラックで塗装された分厚い増加装甲だ。それが戒斗の胴体と肩、二の腕と下腕、腰部と両脚に手早く取り付けられていく。
当然、既に着装しているVシステム本体装甲の上からだ。
そうしてアサルトアーマーの着装が終われば――――戒斗の身体は更に重厚で、そして頑丈なものへと変貌を遂げる。
――――XVS‐01FA、フルアーマー・ヴァルキュリア・システム。
「アサルトアーマー、装着シークエンス完了! ウェポンコンテナ、開きます!」
「やっぱり重いな……」
「伊達にフルアーマーじゃないさ。こればかりは諦めてくれ、戒斗くん」
「頑丈さとトレードオフ、ってか……!」
戒斗は増加装甲のせいで普段より何割増しにも重くなった身体を動かし、フルオート・ハンガーから出て。そうすればキャビンに搭載されている大きな鋼鉄の箱の方へと歩いていく。
ガシャンと開いたその箱――ウェポンコンテナの中から戒斗は次々と兵装を取り出すと、それを身体の各所……正確に言えばアサルトアーマーの各部ハードポイントへと取り付ける。
まずは両太腿にHV‐250スティレット自動拳銃を一挺ずつ、合計二挺を装着。予備弾倉は両腰のハードポイントに括り付けた。
また、格闘戦用のKVX‐2コンバット・ナイフ……普段なら左腰に着けているそれは、グリップを左に向ける形で後ろ腰に装着する。
それ以外には愛用のMV‐300E2レッドアイ大型機関砲は背中に背負うバックパック、その左右にそれぞれ一挺ずつ……こちらも二挺を固定しておく。更に予備のARV‐6E2エクスカリバー自動ライフルに関しては、スリングで斜め掛けにする形で直に背中に背負ってみる。
そうして各種装備を身に着けた後、最後にSV‐X2レギュラス大型狙撃ライフルを左手に握り締めた。こちらは中の両側面に五連カートリッジホルダーを装備した仕様だ。
――――こうした重装備のVシステム、簡単に纏めるとこんな感じの装備内容になっている。
手には大型狙撃ライフル、背中にはガトリング機関砲が二挺と五〇口径の自動ライフルが一挺。更に自動拳銃が二挺に、後ろ腰には予備のナイフまで。
加えて、下腕部の増加装甲には四〇ミリのグレネード発射機まで備えている始末だ。
故に今の戒斗は、まさに人間武器庫と呼ぶに相応しいだけのとんでもない重装備っぷりだった。それこそ、セラのストライクフォームではないが……比喩抜きに単独で街ひとつを壊滅させられるだけの火力を、今の戒斗は全身に纏っている。
そうして戒斗がフル装備を終えた頃、有紀が彼に向かって言う。
「そろそろ現着だ。Vシステム、出動準備は?」
「見ての通り、いつでも!」
「よろしい。いつも通り支援は我々に任せてくれ。戒斗くん、君は君の思う通り、好きに暴れるといいさ。背中は我々とSTFヴァイパーに任せたまえ」
「了解!!」
XVS‐01FA、フルアーマー・ヴァルキュリア・システム――――出撃。