第八章:深淵からの使者たち/02
一方同じ頃、いつものように純喫茶『ノワール・エンフォーサー』を手伝っていた間宮遥もまた、その気配を聡く感じ取っていた。
「……! この感覚は……!!」
あまりにも感じ慣れた、甲高い耳鳴りのような感覚。敵の出現を告げる、本能が訴えかける激しい警鐘。
その感覚を覚えると、ハッとした遥はすぐさま身に着けていたエプロンを脱ぎながら「すみません、急用が!」と戒斗の両親、厨房に立つ二人に叫びながら店を飛び出し、そのまま店の外に停めていた自分のバイクに跨がる。
二〇一九年式、カワサキ・ニンジャZX‐10R。
ステルス戦闘機のように鋭い黒のカウルが目を引くそのバイクに跨がれば、遥はすぐさまイグニッション・スタート。排気量一リッターの直列四気筒エンジンを叩き起こしながら、同時に黒いフルフェイス・ヘルメットを被り……すると遥は暖機運転の時間も待たぬまま、すぐさま公道へと全速力で飛び出していった。
(伊隅飛鷹、そして来栖美弥……この名が意味するところは、未だに私は分かっていない)
――――そして。
(そして……私が何処の誰で、何故この力を得たのか。どうして神姫と戦っていたのか……本当の意味で、私はまだ自分のことを何も知らない)
――――だとしても。
(だとしても……私のこの胸には、今も戦う理由がある。戒斗さんやアンジェさん、セラさん……皆の笑顔を守るために、私は!)
揺れる心の中、しかしブレない心を抱きながら、遥もまた疾走する。本能が告げる方向へと向かって、ただ一直線に。