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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-06『グラファイトの少女』
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第六章:歪む心は深淵の底へと/02

「ん…………?」

 ――――薄暗い部屋の中、横たわっていた翡翠真がゆっくりと目を覚ます。

「此処は、何処だ……? アタシ、どうしてこんなトコに……?」

 どうしてこんな場所に居るのか、そもそも自分はいつからいつまで気を失っていたのか。前後の記憶がまるで無い。すっぽりと抜け落ちてしまっている。

 まだ寝ぼけた眼で見回してみると、やはり自分が横たわっているのはまるで見覚えのない場所だ。

 薄暗く……それでいて、不気味なこの場所。窓もなく、時計もないから時刻なんて分からない。室内だということ以外、視界から得られる情報は何も無い……どうやら、そんな薄気味悪い場所で自分は眠りこけていたようだ。

 とにかく、自分が今置かれている状況を把握しなければ。

 そう思った真は、とりあえず起き上がろうとしたのだが――――。

「っ……!?」

 しかし、起き上がろうとしても動けない。

 よく見てみると、自分は台の上のような場所で両手足首に枷を嵌められ、大の字になるように拘束されているようだった。

「な、なんだよこれ……!?」

 自分が大の字に拘束されていることを知り、真は顔面蒼白になって慌てふためく。

 だが、そこにきて彼女は漸く思い出していた。自分が――――自分が謎の女と、そしてバッタの怪物に襲われたことを。

「どういうことだよ、どういうことだよこれってよぉ……っ!?」

 あの時、気絶させられた自分が攫われたのには間違いない。とすると……この場所は、あのゴスロリ女と怪物の支配する場所なのか。

 どうして自分は殺されていないのか、どうしてわざわざ生かした上で、こんな場所に拘束されているのか――――。

 それを真が不思議に思っていると、するとその時――――彼女の足の方にある扉がシュンッと開き。とすればその向こう側から、手術着に身を包んだ数名の人間と……そして、何故かゴスロリ衣装の女も一緒にこの部屋へと入ってくる。

(間違いない……! あのゴスロリ女、あの時の……!!)

 手術着の連中と一緒に入ってきたゴスロリ女の正体は、まさに篠崎香菜だった。

「なあオイ、此処はなんなんだよ!? アタシを……アタシをどうするつもりだ!?」

 真は香菜の姿を見るなり、完全に混乱しきった様子で声を荒げるが。それに対し、香菜はニッコリとした笑顔を浮かべてこう答えてみせた。

「翡翠真、貴女は選ばれましたの」

「選ばれた……?」

 ええ、と香菜は真のすぐ傍、顔の近くに近寄りながら笑顔で頷く。

 そうして、香菜は横たわる真の頬をそっと撫でながら……彼女の耳元に顔を近づけ、こう囁きかける。艶やかな声音で、心からの祝福を与えるかのように。

「我らネオ・フロンティアの誇り高き戦士として、貴女は選ばれたんですのよ」

「戦士……? ハッ! あんな化け物をけしかけといて、何が誇り高き戦士だ!! どうせ……どうせ例の怪物騒ぎも、オメーらが仕組んだことなんだろ!?」

「あら、意外に頭が回りますのね」

 ニヤニヤとしながら囁きかけてくる香菜に対し、真が虚勢を張ってそう怒鳴り返すと。すると香菜は素直に感心したような顔を浮かべて言った後、

「――――その通りですわ。貴女の仰る怪物、バンディットは我々の尖兵に相違ありませんわ」

 と、あっさりとそれを肯定してみせた。まるで当然のことを、当然のように認めるみたいに。

「だったら話は早い! 誰がお前らの手先になんかやってやるもんか……さっさとアタシを解放しやがれってんだ!」

「それは出来ませんの。だって、今から貴女に改造手術を施すのですから」

「改造、手術だって……?」

 ――――改造手術。

 その不穏極まりないワードを耳にすれば、真はサアッと青ざめてしまう。

「ば、馬鹿抜かせ……アホらしい、漫画じゃねえんだぞ!?」

 それでも真は強気に振る舞ってみせるが、しかし香菜は寧ろそんな真の強がりが気に入った様子で。ニコニコと微笑みながら、真の顔を上から見下ろしながら……彼女にこう語り掛ける。

「確かに馬鹿げていますわね。何せ実験の成功確率はたかだか一割程度。九割の確率で、貴女は改造実験中に生命(いのち)を落としてしまうのですから」

「ッ……!!」

「しかし、貴女は私が見つけ出した最高の逸材ですわ。知力はそこそこ、体力は文句無し。オマケに頭の回転も早く、度胸もある。我らネオ・フロンティアの尖兵として、これほど相応しい人材は早々見つかるものではありませんわ」

 真にそう言った香菜はニヤリとして、周りに控えていた手術着の連中にこう告げる。

「さて、お話はこれぐらいにしておきましょうか。……ではドクター、こちらをお渡ししておきますわ」

 と言って、香菜は傍らにぶら下げていたアタッシュケースを開く。

 そうして開かれたアタッシュケースの中には――――ガントレットのような装置が収まっていた。

 それこそ、神姫が手の甲に出現させるものと瓜二つなものだ。

 しかし、黒と紫という色合いで染められたそれは神姫のものよりもずっと大きく、それでいて禍々しい。見た目は似ていても、アタッシュケースに収まったそのガントレットは――――『ダークフラッシャー』という名のそれは、神姫には絶対に相応しくないぐらいに禍々しいものだった。

 香菜はそのガントレット、ダークフラッシャーを取り出すと、それを手術着を着ている連中の一人にスッと手渡す。

「では皆さん、改造実験を開始してくださいまし」

 そうしてダークフラッシャーを渡した香菜が号令を下すと、今まで静観していた手術着の連中が一斉に真へと群がっていく。

「おい、冗談だろ……? やめろって、やめろ……やめろーっ!!」

 部屋中に響き渡る、翡翠真の悲痛な叫び声。

 そんな真の悲鳴を背中越しに聞きながら、香菜は部屋を後にしていく。ニヤリとあくどい笑みを浮かべながら、翡翠真の悲鳴を聞きながら………………。





(第六章『歪む心は深淵の底へと』了)

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