第六章:歪む心は深淵の底へと/01
第六章:歪む心は深淵の底へと
――――篠崎邸。
人里離れた場所に建つ、広大な敷地を有した絢爛豪華な洋館。その洋館の広間では、今日も今日とて秘密結社ネオ・フロンティアの幹部たち……篠崎一族の者たちが顔を合わせていた。。
組織の首領・篠崎十兵衛と、孫娘の篠崎香菜。今日は末っ子の篠崎潤一郎は不在だ。遊び人の潤一郎のこと、今日も何処かに出掛けているのだろう。
だから、今日この広間に集っているのは十兵衛と香菜の二人だけだ。
真っ白いテーブルクロスの掛けられた長テーブル、例によってその誕生日席に腰掛けた十兵衛と、そんな十兵衛の前に立ち、ゴスロリ風なワンピースの裾を摘まんで恭しくお辞儀をする香菜。
そうして祖父にお辞儀をした後、香菜はニッコリとした笑顔で……普段よりも幾分か上機嫌そうに見える笑顔で、十兵衛に対しこんな言葉を並べ始めた。
「お爺様もご存知の通り、被検体は確保致しました。間もなく改造実験を始めますわ」
「ふむ……香菜、本当に成功するのかね?」
小さく唸りながら、怪訝そうに問う十兵衛。
そんな十兵衛の質問に、香菜は正直にこう答えてみせた。
「死亡率は九割、改造手術の成功確率は……多めに見積もっても一割程度ですわ」
正直に報告した後、香菜は「ですが」と続け、
「彼女……翡翠真、でしたか。彼女は今まで実験に用いてきた被検体の中で最高の素材だと私は考えていますの。検査した結果、やはりヴァルキュリア因子の保有者ではありませんでしたが……しかし彼女は間違いなく逸材ですわ。実験成功の暁には、必ずやお爺様のお気に召す、優秀な手駒になることをお約束致しますの」
ニッコリと微笑んでそう言う香菜の言葉に、十兵衛は「ふむ……」と顎に手を当てながら暫し思案した後、柔らかな笑みを孫娘に向けながらこう言った。
「まあよい、香菜の思う通りにやってみなさい。成功すればそれはそれで良し、失敗したとしても構わぬよ。元より成功率一割の実験だ、失敗したところで当然のような話。香菜を責めたりはしないよ」
そう、まさに好々爺のように穏やかな笑顔で。
「ありがとうございます、お爺様」
香菜は笑顔の祖父に向かって再び恭しくお辞儀をした後「では、早速実験に取り掛かりますわ」と十兵衛に告げる。
うむ、と頷く十兵衛は、至極満足げな顔をしていた。