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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-06『グラファイトの少女』
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第四章:ファインダー越しの空

 第四章:ファインダー越しの空



 そうして戒斗とキャンパスで別れた後、午後の講義を受けた後で真は大学を出て、そのまま写真撮影の為にバイクを走らせていた。

 向かったのは山の峠道。頂上からの見晴らしが凄く良く、自然も豊かだから、写真を撮るには絶好のスポットなのだ。

 曲がりくねった峠道でGSX‐R400のバイクを飛ばし、赤黒のレーシーなカウルで風を切って突っ走る。

 峠道を抜け、頂上に辿り着いた真は駐車場にバイクを停め、愛用のニコン・D850のデジタル一眼レフカメラを片手に色々と写真を撮りまくる。

 山の頂上から望む雄大な景色だったり、駐車場の片隅に停めた自分のバイクだったり、たまたま近くに居た可愛らしいリスを接写してみたり……。

「――――――翡翠真さん、ですわね?」

 そうして真が色々と写真を撮っていると、ふとした拍子に真はある女に声を掛けられていた。

 …………欠片も、気配を感じなかった。

 突然後ろから話しかけられ、驚いた真が振り向くと。すると彼女の真後ろには、謎のゴスロリ女が立っていた。

 紫色を基調としたゴシック・ロリータ風のワンピースを身に纏う、なんというか薄気味悪い女だ。格好は少なくとも山に来るには不適切な感じだし、それ以前に話し方や雰囲気、何もかもが気色悪い。一五七センチの小柄で華奢な体格に、焦げ茶色のショートボブの髪だったり、整った顔立ちだったりと、見た目は可愛らしいが……しかし言い知れぬ不気味さを、真はこのゴスロリ女から本能的に感じ取っていた。

 ――――篠崎(しのざき)香菜(かな)

 真は知らぬことであったが、そのゴスロリ女こそ世界を我が物にせんと暗躍する闇の一党、秘密結社ネオ・フロンティアの幹部に相違なかった。

(コイツ、いつからそこに居たんだ? 気配が全くしなかった……)

「そうだけど……ええと、オタクはどちら様で?」

 振り向いた真は香菜を見つめつつ、怪訝に思いながらも……一応は自分が翡翠真であると肯定してみせる。

「わたくしですか? そうですわね……貴女を迎えに来た、とでも言っておきましょうか」

 そんな風に真が答え、そして逆に問うてみると。すると香菜はクスクスと笑いながら、真に向かってそんなことを言ってみせた。

「迎えにって、アタシを……?」

「そうですわ。貴女を我々の、秘密結社ネオ・フロンティアの元に迎え入れる為に。その為にこの私がわざわざ馳せ参じたのですわ」

「はぁ? 秘密結社? ちょっとさ……こんな言い方すんのは悪いんだけどよ。オタクさ、ちょっとした頭の病気でも抱えているのか?」

 ――――秘密結社ネオ・フロンティア。

 当然、真がその名を知るはずもなく。故に真は香菜の言葉を何かの悪い冗談か、それとも頭のおかしい人間の誇大妄想か何かだと思い。ただただ困り果てながら、真は呆れ顔で香菜に対して強気な言葉を返してしまう。

 だが、香菜はそんな真の強気な言葉も意に返さぬまま、ふふっと不敵に笑い。すると――――香菜がスッと小さく手を掲げた途端、どこからともなく草色の怪人が真の前に現れていた。

 ――――グラスホッパー・バンディット。

 嘗てヴァルキュリア・システム、戦部戒斗に倒され、そして再生したバッタ怪人だ。以前の採石場での戦いで風谷美雪、神姫ジェイド・タイフーンに吹き飛ばされた左腕は再生されたようで、再び両腕が揃った格好でグラスホッパーは真の前にどこからともなく現れていた。

「ひっ……!?」

 突然現れた異形のバッタ怪人を前にして、真が恐怖の声を上げながら後ずさる。

「これで、お分かりになられたでしょう?」

「か、怪物……!! ま、まさかお前が……お前が、お前たちがこの怪物を操ってんのか……!?」

「あら、流石に察しが早いですわね」

「やめ、やめろ……!!」

「捕らえなさい」

 香菜に命じられ、グラスホッパーはスッと間合いを詰め。後ずさっていた真の首をガッと片手で鷲づかみにすると、彼女の首を締め上げながら……そのまま、右腕一本で軽々と真の身体を持ち上げてしまう。

「う、ぐ、あ……っ!?」

 首を掴まれたまま持ち上げられて、足が地面から離れ、そのまま真はもがき苦しむ。グラスホッパーの強靱な握力と腕力を前に、ただの女の子でしかない真は抵抗することも出来ず……首を鷲づかみにされる痛みに、圧迫されて呼吸が思うように出来ない不自由さに、ただただ苦しみ喘ぐことしか出来なかった。

「壊さないよう、丁重に扱いなさい。彼女は貴重な被検体なのですから」

 そうして真を締め上げるグラスホッパーを見て、苦しむ真を見て……香菜がそう、グラスホッパーに釘を刺す。

 するとグラスホッパーは黙ったままコクリと頷くと、そのまま力任せに真の身体を放り投げた。

 バンッと背中から落下し、そのまま地面を転がる真。彼女が取り落としたカメラも……愛用のニコン製の一眼レフもまた、彼女の手を離れて地面に転がっていた。

「――――」

 落下した衝撃で、そのまま真は気を失ってしまう。

 香菜はそんな気絶した真を見て、またクスクスと笑い。そうすれば、目配せだけでグラスホッパーに指示をし……気絶した彼女を運ぶように命じる。

 気を失った真の身体を乱雑に持ち上げると、グラスホッパーは彼女の身体をまるで米俵のように肩に担いだ。

 そんな風に真を担いだ、草色のバッタ怪人の傍らで。篠崎香菜は至極嬉しそうに、邪悪な笑みを湛えながら呟いていた。

「さあ、共に参りましょうか…………♪」

 ――――――この日を境に、翡翠真は世界から姿を消してしまった。





(第四章『ファインダー越しの空』了)

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