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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-06『グラファイトの少女』
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プロローグ:蒼き記憶の欠片

 プロローグ:蒼き記憶の欠片



「ハァッ――――!!」

 真夜中、誰もが眠りに就いている深夜の頃合い。広い川に渡された赤い水門、徒歩で渡ることが出来る橋のような構造の、そんな水門の上で――――間宮(まみや)(はるか)、神姫ウィスタリア・セイレーンは大柄な怪人と刃を交わしていた。

 ――――エレファント・バンディット。

 遥が対峙しているのは、そんな名の……やはり文字通り、象のような見た目をした異形の怪人だ。

 灰色の体色で、長い鼻と牙を有した見た目はまさに象といった感じ。それこそ象が人間のように二足歩行しているような見た目、と言えば分かりやすいだろうか。

 だが、その背丈は二メートルを軽く超えている。一七七センチの……女性にしてはかなり長身なはずの遥でさえ、普通の小柄な女の子に見えてしまうぐらいの身長差だ。ましてエレファントは肩幅が広く、がっしりした体格ということもあり……その威圧感は凄まじい。

「ふっ……!」

 しかし遥は、そんな威圧的な見た目のエレファントに対しても怖じ気づくことはなく。互角、いいや互角以上の圧倒的な戦いを繰り広げていた。

 太い丸太のような腕や脚を使っての殴打はひょいと身軽に避けてみせ、長い鼻を絡ませて拘束してこようとする攻撃に対しては、これも最小限の動きで回避。牙を銃弾のように飛ばしてくる遠距離攻撃には……手にした聖剣ウィスタリア・エッジで斬り払うことで難なく対処してみせる。

 そうして攻撃を躱す度に、遥は隙を見てエレファントの懐に飛び込めば、やはり右手のウィスタリア・エッジで手痛い斬撃を何発も喰らわせていく。

 遥はそんな風に、強力な敵であるはずのエレファント・バンディットに対して……一方的とも言えるぐらいに圧倒的な戦いぶりを見せていた。

「手加減はしません……!!」

 ウィスタリア・エッジで更に何閃か追撃を喰らわせた後、遥はあるタイミングでバッと後ろに大きく飛んでエレファントと距離を取る。

 そうして間合いを大きく取れば、遥は今まで右手で握り締めていたウィスタリア・エッジを投げ捨て。とすれば右手の甲にある装具……セイレーン・ブレス。その下部にあるエレメント・クリスタルを紫色に光らせた。

「これで……決める!」

 ブレスのクリスタルが光った瞬間、遥の身体が一瞬だけ空間ごと歪み。その歪みが収まった頃……彼女の身体は今までの基本形態、セイレーンフォームとは異なる姿へと変化を遂げていた。

 ――――ブレイズフォーム。

 左腕を紫の鋭角な神姫装甲で包み込み、コバルトブルーだった瞳も左側だけが紫色に変色。そんなオッドアイ状態に変化した瞳の色と合わせるように、左の前髪にもまた同様に紫色のメッシュが入っている。

 そんな今の姿こそが、彼女の近距離特化形態……ブレイズフォームに他ならなかった。

「…………」

 ブレイズフォームへのフォームチェンジを遂げた遥は、そのままバッと左手を掲げ。そうすれば虚空から新たな武器を……細い槍を召喚し、華奢な指で掴み取る。

 ――――聖槍ブレイズ・ランス。

 遥は掴み取ったそれ左手の中でグルグルと何度も回した後、バッと左脇に抱え……同時に右手を前に突き出した構えを取ってみせた。まるで、間合いを計るような……そんな隙の無い構えを。

「ハァッ……!!」

 そうすれば、遥はバッと地を蹴って一気に踏み込んだ。

 一瞬だけ小さく屈み、足裏のスプリング機構を圧縮。それを一気に解放させた勢いに任せて、遥はエレファントの懐へと猛スピードで飛び込んでいく。一見すると隙が無い……しかし遥の目から見れば隙だらけな、そんなゾウ怪人の懐へと。

「懺悔とともに――――」

 そうして踏み込みながら、同時に遥は左手のブレイズ・ランス、その切っ先に蒼の焔を纏わせていた。海よりもずっと蒼い、そんな燃え滾る蒼の焔を。

「――――眠りなさい!!」

 物凄い速さで懐に飛び込んだ遥は、そんな蒼の焔を纏わせた聖槍ブレイズ・ランスをエレファントの腹に突き立てた。

 蒼い焔を纏った細槍の切っ先が、灰色の腹に食い込み……そして、内部からゾウ怪人の身体を焼き尽くす。

 そうすれば、遥はブレイズ・ランスをエレファント巨体から引き抜き……その勢いのまま、バッと後ろに振り返る。

 瞬間――――遥の背後で、爆発するように真っ青な焔が弾けた。

「グオオオオオ――――ッ!?」

 真夜中の水門に木霊するのは、まさに象の鳴き声のような野太い断末魔。

 身体の内側を焼き尽くした蒼の焔が、そのまま身体を突き破り外部へと溢れ出て……エレファント・バンディットの巨体を丸ごと包み込む。

「…………」

 蒼の焔と、それに焼かれて倒れるエレファント・バンディットを背に、間宮遥は無言のまま一歩も動かない。まるで残心するように、彼女は槍を振り抜いたままの構えを取っていた。

 ――――『ハートブレイク・ブレイズ』。

 それこそが今まさに遥が放った一撃、近距離特化形態ブレイズフォームの必殺技だった。

 蒼の焔を纏わせた聖槍ブレイズ・ランスで直接刺し貫き、相手を内側から丸ごと焼き尽くす……それがあのゾウ怪人、エレファント・バンディットの巨体を焼き払った技の正体だった。

「これで……終わりましたか」

 そんな必殺技を放った後、残心を終え……青白い焔が陽炎を揺らす中。変身を解除した遥は独りその場に立ち尽くす。

 立ち尽くしたまま、遥はふぅ、と小さく息をつき。その後で右手の甲に……そこにある蒼と白のセイレーン・ブレスに視線を落とした。

 自分の手の甲にあるブレス、神姫たる証の、蒼と白の装具。

 遥はそんなセイレーン・ブレスを見つめながら、月明かりに照らされる真夜中に――――間宮遥は独り、呟いていた。

「私は何処から来て、そして何をしようとしていたのか…………」

 その問いの答えを持つ者は居らず、ただ彼女の背後では青白い焔が揺れ続けていた。

伊隅(いすみ)飛鷹(ひよう)、そして来栖(くるす)美弥(みや)……私は、一体」





(プロローグ『蒼き記憶の欠片』了)

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