エピローグ:Ride Out/01
エピローグ:Ride Out
――――篠崎邸。
人里離れた場所に建つ大邸宅。広大な敷地と高い塀に囲まれた中にポツンと建つ大きな洋館の中、その広間には……やはり今日も今日とて篠崎十兵衛と、孫娘の香菜に弟の潤一郎が集っていた。
「そうそう、アルビオン・システムは中々に良かったよ」
「そうかそうか。お前が気に入ったのなら何よりだ。のう、香菜?」
「……ええ、そうですわね」
長テーブルの誕生日席に着く祖父に上機嫌な顔で報告する潤一郎と、それに嬉しそうな顔で微笑み返す十兵衛。そして、いつも通りに不機嫌な調子で潤一郎の言葉を聞き流しつつ……祖父には一応の相槌を打つ香菜。
そんな、ある意味で普段と変わらない様子の会話の中……十兵衛はふと思い出し、香菜にこんな質問を投げ掛けていた。
「ところで香菜、結局十分なデータは取れたのね?」
祖父の問いに対し、さっきとは打って変わってニッコリとした笑顔で「ええ」と香菜は頷き返し、
「これだけ多くの神姫のデータを収集できたのですもの。例の実験を進めるのには十分ですわ」
と、至極満足げな顔で祖父にそう言った。
「人工神姫……か」
そんな香菜の答えを聞いて、潤一郎がボソリと呟く。
「姉さん、そんなことが本当に可能なのかい?」
続けて潤一郎が疑念を姉にぶつけてみれば、香菜はやはり不機嫌そうな顔で「当然でしょう」と頷き返す。
「死亡率は九割、しかし実験そのものは現実的ですのよ」
「それで……香菜、誰を被検体に選ぶのかな?」
「目星は付けてありますわ」
香菜は十兵衛の質問に笑顔でそう答えて、
「今までコフィン用の素体となるクローンを流用しつつ、実験自体は続けていましたから……被検体に相応しい人物の条件は出揃っていますの。勿論、その候補も既に見つけてありますわ」
続けてそう言うと、十兵衛の傍まで歩み寄り。彼のすぐ目の前、長テーブルの上に懐から取り出した写真をスッと置いた。
「ほう……この娘を使うのか」
「ええ。そのつもりですわお爺様」
「ん、どんな娘なんだい?」
「潤一郎も見てみるといい。……ほれ」
スッとテーブルの上を滑らせるようにして十兵衛が寄越してきた写真。それを手に取って眺めてみた潤一郎もまた、祖父と同じようにニッコリとした笑顔を浮かべる。
「へえ、中々に可愛い娘だね」
「構わんよ、香菜のしたいようにしたまえ」
「ええ、そうさせて貰いますわ」
写真に写る少女を見て、満足げに笑む潤一郎。その傍らでは十兵衛もニヤリとしながらそう言っていて、それに対し香菜は恭しいお辞儀で答えてみせる。
そうしてお辞儀をしながら、不敵に笑む香菜の視線の先。潤一郎が手放した、長テーブルの上に置かれている写真。そこに写っていたのは――――黒髪の少女、翡翠真だった。