第九章:光の差す場所へ/04
戒斗たちの前に姿を現したのは、どう見ても軍人かそれに近しいような雰囲気を漂わせる、そんな長身の黒人男性だった。
頭はツルっとしたスキンヘッドで、彫りの深い顔立ち。マッチョな身体は一八六センチの背丈と、セラや石神と殆ど変わらない身長だ。少なくとも日本人的な感覚の戒斗やアンジェからしてみれば、かなり高く見える。
尤も……そんなマッチョな男二人とほぼ変わらない辺り、セラがいかに高身長な女の子かがより際立つというものだが。
そんな彼、石神に『クロウフォード隊長』と呼ばれていたその黒人の男の出で立ちだが、上は黒いタンクトップ一丁、下は紺色のカーゴパンツ……恐らくはP.C.C.S支給の戦闘服、コンバットスーツのズボン部分と思しき物を履いただけのラフな格好だった。
見た目からして、恐らくは戦闘要員の類だろう。ランボーもかくやといった筋肉質な見た目、重厚なM60機関銃を振り回すのが似合いそうな感じの、現れたのはそんな男だった。
「戒斗くんとアンジェくんは知らなかったな。二人には改めて彼のことを紹介しておこう」
現れた男を前に、きょとんとする戒斗とアンジェ。そんな二人に対し、石神は改まった調子で彼の紹介を始めた。
「彼はウェズリー・クロウフォード。STFヴァイパー・チームの隊長だ」
「そういうことだ。気軽にウェズって呼んでくれよ、ダチは皆そう呼ぶんだ」
石神に紹介されて、彼――――ウェズリー・クロウフォード、ウェズは屈強な体格に見合わぬ人懐っこい笑顔を見せると、一歩前に出て戒斗たちにスッと右手を差し出してくる。
どうやら、挨拶代わりの握手を交わそうという意図らしい。
「よろしく、クロウフォード隊長」
「えっと、よろしくお願いします……クロウフォードさん?」
差し出された彼の手、ゴツゴツとした大きくて太い手を握り返しつつ、戒斗とアンジェがそれぞれ彼に挨拶を返す。
「ハハッ、噂に聞いてたとおりだぜ。構いやしねえよ、俺のことはウェズでいい」
そんな二人の挨拶に、ウェズはまた笑顔を見せながらそう言う。
言った後、ウェズは戒斗の方へと視線を流し……暫しの間、値踏みをするような視線で彼をジッと見つめて。それから戒斗に向かって、改めてこう言った。
「お前さんが例のVシステムの装着員ってワケか。ははーん……ドクター篠宮が直々のご指名っつーから、どんな奴かと思ってたが。なるほどなるほど……確かに良い眼をしていやがる。ドクターが気に入るのも納得だぜ」
素直な気持ちで褒めてくるウェズの言葉に、戒斗は「お褒めにあずかり光栄だ」といつも通りに斜に構えた、皮肉っぽい言葉で返し。その後でこうもウェズに問いかけていた。
「ところで……STFってのは何なんだ?」
それは、アンジェも共通しての疑問だった。
ウェズがどんな人間なのかは何となく察せられたが、それでも肝心なところ……STFというのが何なのか、そこの説明が得られていない。
「なんだよ、知らねえのか? あーっとな……――――」
「そこは俺から話そう」
STFのことを把握していない二人に、ウェズはきょとんと驚いたような顔をした後、そのことについて説明しようとしたが……どうやら、彼の代わりに石神が話してくれるらしい。
「STFというのは、スペシャル・タスク・フォースの略称だ。日本語に直すなら『特殊任務部隊』。我々P.C.C.S内に存在する、直接的にバンディットと戦う為の実働部隊だ。少数精鋭、要は特殊部隊のようなものと解釈してくれればいい」
「ヴァイパー・チームとかいったか。他にも部隊はあるのか?」
戒斗の疑問を石神は「ああ」と頷き肯定し、
「他にもSTFオスカー・チーム、グレイブ・チームなどがこの本部には在籍している。その中でも最精鋭の部隊が、クロウフォード隊長の率いるヴァイパー・チームというワケだ」
石神曰く、そういうことらしい。
つまりSTFというのは、P.C.C.Sが保有する特殊部隊というワケだ。どうしても神姫頼りにならざるを得ない対バンディット戦の中で、数少ない生身の人間による実働部隊……それがSTFという存在らしい。
「今回の作戦に当たっては、彼らSTFヴァイパー・チームに君らの支援に当たって貰うことになった」
「そういうコトだ。よろしくな」
そして、例の対バット・バンディット作戦に於いて……ウェズの率いるヴァイパー・チームが、戒斗やアンジェたちの援護をしてくれるらしい。
「話が理解出来たところで、本題に入るとしよう」
そんな風にウェズの紹介と、そしてSTFが一体何なのかを戒斗たちが理解出来たところで――――石神はそう言って本題、即ち作戦説明に入っていく。