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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-05『オペレーション・デイブレイク』
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第六章:飛び去る影は未だ掴めぬまま

 第六章:飛び去る影は未だ掴めぬまま



 そうして遥と美雪が戦っていた頃、逃げたバット・バンディットを追ったセラと戒斗はどうにかこうにかバットに追いつき……今まさに追い詰めたところだった。

「後ろは任せろ! セラ、行けッ!!」

「任せたわよ! ――――でやぁぁぁっ!!」

 構えたM727カービン・ライフルのフルオート掃射で戒斗がバットの動きを封じる中、彼の援護射撃を受けつつセラが一気に飛びかかっていく。

 左手のナイフを振りかぶり、斬り掛かっていくセラ。だがバットはひょいひょいと身軽な動きでセラの斬撃を避けてしまい、思うように当たってくれない。

「チィッ……!」

 そんな風にちょこまかと逃げるバットに歯噛みをしつつ、セラは右手のショットガンを発砲する。

 至近距離からの発砲だ。バットはこれにも上手く対応したが……しかし広範囲に広がる散弾、全て避けきることは出来ずに、散った内の数粒が命中。身体から小さな火花を上げながら、バットは僅かに苦悶の声を漏らしていた。

「セラ、奴の動きを抑えてくれ!!」

「ちょっと、それってどういう……!? なるほど、オーケィ分かった!」

 そうした時に背後から聞こえた戒斗の叫び声に、セラは一瞬きょとんとしたが。しかしすぐに彼の意図を汲み取ると、ニヤリとしながら右手のショットガン、左手のナイフを放り捨てる。

「任せなさいな! 制圧射撃はアタシの十八番(おはこ)なのよッ!!」

 両手の武器を投げ捨てれば、即座にセラはフォームチェンジ。今までの基本形態、ガーネットフォームから……人間武器庫のような重砲撃形態、ストライクフォームへと姿を変えた。

 強烈な火力の代償に、動きがかなり重くなるストライクフォーム。俊敏に動き回るバット・バンディットに対し、普通ならこの形態は不利にも思えるが……しかし戒斗の意図がセラの考え通りなら、寧ろこの姿がうってつけだ。

「ミサイルコンテナ、オープンッ! ……避けてみなさい、避けきれるものならッ!!」

 そんなストライクフォームに姿を変えるや否や、セラは太腿のミサイルポッドを解放。すぐさまマイクロミサイルを全弾掃射する。

 白い尾を引きながら、四方八方より殺到するマイクロミサイルの雨あられ。

 バット・バンディットは両腕の翼をはためかせ、低空飛行をすることでそんなミサイルの豪雨を上手い具合に回避してみせた。

「まだまだァッ!!」

 だが、これだけがセラの武器ではない。

 マイクロミサイルを斉射してから数秒後、今度は両手に握り締めたガトリング機関砲の斉射を始める。

 高速回転する六銃身から放たれる対空砲火。低い高度を滑空するバットは右へ左へと旋回することで、これも回避してみせるが……しかしこれだけ景気の良い斉射、全て避けきれることは出来ない。何発か貰えば、またさっきのように身体から火花を散らし、低くくぐもった苦しげな声を上げる。

 そんなセラの機銃掃射を受け、低空を飛ぶバット・バンディットは海沿いの岸壁から……やがてコンテナヤード、貨物船から下ろされたコンテナの群れが積み重なる一帯へと追い詰められていく。

「シューッ……」

 よろめきながら、一度地面に着陸するバット・バンディット。

 赤いコンテナを背に闇夜に佇む、そんなコウモリ怪人の前に……セラと戒斗、追撃してきた二人が躍り出る。

「とっておきだ、よく味わえよ!!」

 駆けてきた戒斗はすぐさまM727を構えると、ニヤリと不敵な笑みを湛えながら……その下部に搭載していたM203グレネード・ランチャーを躊躇いなくブッ放す。

 グリップ代わりに弾倉を握り締めた右手が引鉄を引けば、ポンッと存外間抜けな発砲音がコンテナヤードに木霊する。

 だが――――そんな間抜けな音とは裏腹に、威力の方はとんでもなかった。

「ググ、グゲーッ――――!?」

 戒斗の放った四〇ミリ口径のグレネード弾は、普通の榴弾ではない。何せ対バンディット戦用の特殊グレネード弾だ。そんなものが胸に直撃したバット・バンディットは、着弾の衝撃で背後のコンテナに背中を叩き付けながら、それこそ今にも死にそうなぐらいの苦しげな声を上げる。

「よし、締めはアタシが決める……!!」

 戒斗が放ったグレネード弾の直撃を受け、明らかに弱ったバット・バンディット。それをセラは今がチャンスと言わんばかりに、トドメを刺そうと全身の重火器をガシャンと構える。

 ――――『アポカリプス・ナゥ』。

 神姫ガーネット・フェニックス、重砲撃形態ストライクフォームの必殺技。全身の重火器をフルパワーで、雷撃を纏わせた上で一斉射撃する大技だ。加減を誤れば街ひとつ丸ごと焦土と変えかねないその威力は、まさに地獄の黙示録(アポカリプス・ナゥ)と呼ぶに相応しいほどの破壊力を有している。

 そんな一撃を、セラは今まさにバットに対して放とうとしていたのだが――――。

「っ、まだ逃げる体力が残ってたの……!?」

 だが今まさにセラが撃とうとした瞬間、バット・バンディットは気力を振り絞って再び飛び上がると、間一髪のところで射線上から逃れてみせる。

 撃つのを止めはしたが、しかし狙いを定め直すのは間に合わない。

「そう簡単に逃がすものかよ……!!」

 動きの重いセラが照準を定めきれない中、戒斗は飛び上がったバットに向かってM727を発砲する。

 上空に向かってフルオートで掃射するが、しかし飛び回るバットには一発も当たることはなく。今までの戦いでかなり撃っていたこともあり、戒斗が撃っていたM727は数秒で弾切れを起こしてしまった。

「チィッ!!」

 予備弾倉はもうない。かといって、グレネード弾も予備は使い切って在庫切れだ。

 つまり、もうこのM727は無用の長物。デッドウェイト、文鎮代わりにもならない役立たずに変わり果てたというワケだ。

 そう判断すると、戒斗は激しい舌打ちとともにM727を投げ捨て。そのまま懐に左手を突っ込み、ショルダーホルスターに収めていたシグ・ザウエルP226、マーク25の自動拳銃を抜き放つ。

「グルルルル……!!」

「来いよ、コウモリ野郎!!」

 そうして拳銃を抜いた頃には、バット・バンディットは戒斗目掛けて空中から襲い掛かろうとしていた。

 自分に向かって滑空してくるバットに向かってP226を構えると、戒斗は引鉄に指を掛けつつ……同時にウェポンライト、拳銃の下部に装着してあるシュアファイア・X300Uのライトを灯す。

「グゲ、グゲゲゲッ――――!?」

 そうしてライトを灯した瞬間、強烈な明かりに照らされた瞬間……何故か苦しみだしたバットは、そのまま地面に墜落してしまう。

 バタンと鈍い音を立てて墜落したバット・バンディットが、地面に転がった格好のままでもがき苦しむ。

「なんだ……?」

 豹変したバットの様子に戒斗は困惑しつつも、しかしこの好機は逃さず。地面でのたうち回るバットに向かってP226を構えると、続けざまに何発も発砲する。

 タンタン、タンタンタンと連射してやれば、その度にバットの身体に九ミリパラベラム拳銃弾が突き刺さり。身体から激しい火花を上げながら、バットが上げる苦悶の声は更に音量を増していく。

「よし、今度こそ……!」

 向き直ったセラもまた、今度こそトドメを刺すべく追い打ちを仕掛けようとしたが……しかし、もがき苦しんでいたバット・バンディットは戒斗のP226が弾を切らした一瞬の隙を突き、また両腕の翼を広げて飛び上がる。

 そうすれば、バットは戒斗たちに目もくれずに空の彼方へと飛び去っていく。

「待ちなさいっ!!」

 空を飛んで逃走するバット・バンディットに対し、セラは両手のガトリング機関砲を撃ちまくる。

 だが、当然ながら彼女の機銃掃射が命中することはなく。コウモリの形をした異形の怪人は、やがて夜空の彼方へと消えていった。

「チッ、逃がしたか……!」

「……野郎、何か様子がおかしかった」

「なによ戒斗、どうかしたの?」

 バットが飛び去って行った夜空の彼方を見つめながら、悔しそうな顔で変身を解除するセラがそう、神妙な面持ちで唸っていた戒斗の方に近寄りながら声を掛けてくる。

 そんな彼女に、戒斗は「いいや」と首を横に振り。続けて「なんでもない」とだけ答えた。きっと気のせいだと、抱いた違和感を拭い去れないまま……自分自身に言い聞かせるように。

「ま……とにかく、今日のところはこれでお開きみたいよ。どうやら向こうも向こうで、ひとまず決着は付いたみたいだしね」

「どういうことだ?」

「ジェイド・タイフーン……美雪が撤退したみたい。もうセイレーンも何処かに行っちゃったわね」

「そうか……」

 うーんと伸びをしながら言うセラ曰く、遥と美雪も一応は決着を付けたらしい。

 ならば、この場に留まる理由はもうない。幸いにして、遥も上手い具合に姿を消してくれたみたいだし……彼女の正体がセラにばれることを気にする必要はなさそうだ。

「だから、アタシたちも帰りましょう。ホラ戒斗、さっき貸したキー返してよ」

「あ、ああ……」

 そう思いながら、同時に別のことを思案していた戒斗はセラにそう言われると、ハッと我に返り。さっき彼女から投げ渡されたチャージャーのキーを、本来の持ち主であるセラにひょいと投げ返した。

 セラはそれをパッと空中でキャッチしつつ、歩き出し。立ち尽くしたままな戒斗の横をすれ違い、通り過ぎていく。

「何ボサッとしてんのよ、置いてくわよ?」

「…………分かった、行こうかセラ」

 すれ違いながらも、尚も立ち止まったまま。神妙な顔でジッと夜空を見上げていた戒斗はセラに言われると、頷きながらクルリと踵を返して歩き出す。

 そうして、少し先を行くセラの背中を追う形で歩きながら。コツコツと足音を立てて歩きながら、戒斗はまた夜空を見上げてみた。

「………………アレは、一体どういうことだったんだ?」

 最後にバット・バンディットが見せた謎の挙動に、何処か不思議なまでの奇妙さを覚えながら。





(第六章『飛び去る影は未だ掴めぬまま』了)

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