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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『復讐の神姫、疾風の戦士ジェイド・タイフーン』
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第十七章:疾風転身、タイフーン

 第十七章:疾風転身、タイフーン



 戒斗の窮地を救ったのは、失踪していたはずの風谷美雪だった。

 しかも、彼女が漂わせる雰囲気は……とてもあの美雪と、明るくて可愛らしかった風谷美雪と同一人物とは思えないほどに暗く、そして重いもので。その表情も、何処かやさぐれているように見える。前に見た、あの純朴な少女の面影は……今の彼女には欠片も見受けられなかった。

「……中身、戒斗さんでしたか。あまりにどんくさいもので、誰かと思っていましたが」

 低い声で呟きながら、美雪はまるで戒斗を見下すような視線を眼下の彼に投げ掛け。そして、長い脚を翻してスッとバイクから降りる。

「ちょっと、どういうことよこれ……!?」

「……これは、一体」

 そうしている間にも、戦闘不能に陥った戒斗を守るべく、ガーディアンフォームにフォームチェンジしたセラが巨大なシールドを構えながらすぐ傍に合流していて。彼女もまたこの場に現れた美雪の顔を目の当たりにして驚き、困惑していた。

 そんな風に困惑するのは、尚もグラスホッパーとの交戦を続けている遥も同様だった。皆が皆、一様に美雪を目の当たりにして……驚き、戸惑っている。

「美雪ちゃん、一体今まで何処に……!?」

「アンジェさん、セラさん、それに戒斗さんと……もう一人は誰か分かりませんが。皆さんの戦いぶりは見させて貰いました。そちらの蒼い方は別として……他はお粗末なものですね。セラさんはまだマトモな方ですが、アンジェさんと戒斗さんはまるでなっていない」

「ちょっと、アンタ何よその言い方!!」

「今日は見物だけのつもりでしたが、あまりの体たらくに気が変わりました。……後は私が仕留めます。皆さんはそこで戒斗さんの盾にでもなっていてください」

「仕留めるって、美雪……!?」

 戸惑う戒斗をよそに、美雪はスッと眼を細めて呟く。

「……それに、今日は運がいい。ずっと探していた相手に、やっと巡り逢えたのだから」

 美雪は細めた翠色の双眸で、スコーピオンを……家族の仇を睨み付けながら、ボソリとひとりごちる。

 そんな美雪へと、さっきセラが撃ち漏らしたコフィンが一体、飛びかかっていくが――――。

「甘い!!」

 だが美雪は、それを無駄のない体術で軽くいなし。余裕の顔でサッとコフィンを受け流してみせる。

「とうッ!!」

 とすれば、大きな隙を見せたコフィンに対し、美雪は首元目掛けて強烈な回し蹴りを喰らわせた。

 あまりに鋭い美雪の蹴りを喰らったコフィンは、衝撃で頸椎をへし折られて即死する。

 その後も二体、三体と次々にコフィンが飛びかかってきたが……美雪はその攻撃全てを無駄のない動きで避けてみせ。ある者には顎へのキツい掌底を、ある者には先程と同じように首元を狙った即死級の回し蹴りを喰らわせ。またある者に対しては、合気道の要領で地面に叩き付けてしまう。

「美雪ちゃん、凄い……」

「何なの、どういうことなのよ、これって……!?」

 そんな美雪の見事すぎる戦いぶりを目の当たりにして、アンジェがうわ言のように呟き。その横で、セラはただただ困惑していた。

 同時に、グラスホッパーと交戦しながら見つめる遥は無言のままで。そして戒斗もまた……無言のまま、美雪のあまりの変貌に戸惑っていた。

「とうッ!! ……そろそろ、本気で行きましょうか」

 そうして、自身に襲い掛かってきたコフィン全てを生身で、しかも素手で倒してしまうと。美雪はバッとバック宙気味に飛び、近くに放置されていた、高さ八メートルの巨大なダンプトラックの上に飛び乗る。

 超人的な身軽さでダンプトラックに飛び乗った美雪は、その場で両手を身体の下側でバッとクロスさせる構えを取った。

 すると――――途端に、採石場に物凄い風が巻き起こり。砂埃が激しく巻き上がる中、彼女が首に巻いた白いスカーフが激しく靡く中。やがて美雪の右手の甲に…………あまりにも既視感のあるガントレットが現れた。

 ――――『タイフーン・チェンジャー』。

 疾風とともに出現した、緑と白のガントレット。それは遥やアンジェ、そしてセラの手にあるのと同じ……神姫たる証の、ガントレットだった。

「神姫……!?」

「ちょっと、何の冗談よこれって……!?」

「やっぱりそうなのか、美雪……ッ!!」

「そんな、嘘でしょ美雪ちゃん……!?」

 遥とセラ、戒斗とアンジェ。皆が驚く中、猛烈な風が吹き荒れる中で、美雪は静かに構えを取る。

「ふん……っ!」

 腕をクロスさせたまま、身体ごと両手を軽く左に振り……そのまま、勢いよく身体ごと右側に振り返す。

 すると、美雪はやはり腕をクロスさせたままで両手を反時計回りに大きく回し……頭上にやって来た両手を、バッと身体の左側に下ろした。

 最後にそのまま、立てた右腕を身体の左側に構え。その肘辺りに……手のひらを前に向けた左手を、添えるようにクロスさせる構えを美雪は取る。両手ともに、小指と薬指だけを折り曲げた格好で。

「――――――疾風転身、タイフーン!!」

 叫び声とともに、眼も開けていられないほどの強烈な風が彼女の周りに巻き起こり。同時に身体が眩い光に包まれれば……風が収まる頃にはもう、風谷美雪は全く別の存在へと変身を遂げていた。

 彼女の身体を包み込むのは、緑と白の神姫装甲。首元に白いマフラーを靡かせる彼女は……誰が見ても、神姫そのものだった。

「…………神姫ジェイド・タイフーン、お前たちバンディットを殺す女の名だ……ゆめゆめ刻んで、地獄に堕ちろ――――!!」

 グラスホッパーとコフィン、そしてスコーピオン。この場に集う仇敵たちに告げる、ドスの利いたその声に、嘗ての風谷美雪の面影は何処にも無く。そこに在るのは……復讐の鬼と化した、哀しき神姫の姿だった。





(第十七章『疾風転身、タイフーン』了)

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