第十四章:Through the Fire/02
「でやぁぁぁぁっ!!」
セラが両手のショットガンで援護する中、腰のスラスターを吹かしたアンジェが一気に敵の懐へと潜り込む。
目標はスコーピオン・バンディットだ。三体の中で一番厄介と思しきスコーピオンをまず真っ先に仕留めようと、アンジェはその懐へと飛び込んでいく。
「取った……!!」
その速度で翻弄し、アンジェは懐へと容易く潜り込み。そのまま脚のストライクエッジで何度も腹を斬り裂いてやれば、スコーピオンは腹から激しい火花を散らす。
続けて腕のアームブレードも駆使しつつ、何十もの斬撃を一気に喰らわせていく。スコーピオンは苦悶の声を上げ、後ろに何歩も後ずさる。
「ッ! アンジェ!!」
「くっ……!!」
このまま、勢いに任せて一気に押し切る――――。
そう思っていたのも束の間、セラの警告する声が響き渡り。同時に殺気を感知したアンジェもまた、猛攻を喰らわせていたスコーピオンの傍を離れ、咄嗟に後ろへ大きく飛ぶ。
すると――――次の瞬間にはもう、今までアンジェが立っていた場所は激しい土煙に包まれていた。
――――毒針攻撃。
飛翔したホーネットが劣勢に追い込まれたスコーピオンを救うべく、上空から放った毒針の掃射が、つい一瞬前までアンジェが立っていた辺りに降り注いでいたのだ。
その勢いは、まさに重機関銃が如し。毒針一発の威力は大したことなさそうだが、しかしああも大量に喰らってしまえば……どれほどのダメージを負うことになっていたのやら。
自身で気付けはしたものの、セラが声を掛けてくれなければ……コンマ何秒か反応は遅れていただろう。だとすれば、多少は喰らってしまい、手痛いダメージを負っていた可能性もある。
「ありがと、セラ!」
だからこそ、アンジェは警告してくれた彼女の元まで飛び退きつつ、そうやってお礼を言っていた。
「お礼なら後で幾らでも! それより……」
「二対三……流石に、ちょっとキツいかもね」
合流した二人の周囲を、三体のバンディットが取り囲む。
――――劣勢。
現状、やはり数的不利の状況は否めない。
それでも、セラのストライクフォームの火力を駆使すれば、この程度の劣勢は簡単にひっくり返せるのだが……組んでいる相棒がアンジェとなると、おいそれとあの重砲撃形態を使うワケにはいかない。
何せアンジェはまだまだ経験不足。アンジェの動きにセラが上手く呼吸を合わせることは出来ても、その逆はまだ難しいと言わざるを得ない。
だとすれば、必然的にアンジェを前衛に出し、セラが彼女の動きに合わせる必要がある。
だが……アンジェの特性はスピード特化だ。この三体を相手にするには、些か不利と言わざるを得ない。
だったら攻撃特化のスカーレットフォームを使えば良い……話なのだが、今度は飛行型のホーネットへの対処が難しくなってしまう。あのホーネットはアンジェの速度があってこそ対応出来る相手だ。
この間は狭い立体駐車場だったから、ホーネットはそれこそ瞬殺ぐらいの勢いでウィスタリア・セイレーンに……遥に撃破されていたが。しかし今は屋外、即ち飛行型の奴にとっては有利な環境だ。アンジェの圧倒的な速度抜きで戦う相手でないのは間違いない。
…………とはいえ、セラがストライクフォームになってしまえば全て解決するのも事実だ。
街ひとつを消し飛ばしかねないあの威力なら、スコーピオンの攻撃力にもコングの硬さにも十分に対抗出来る。加えて飛び道具であるから、飛行型のホーネットに対しても対等以上に立ち回ることが出来るはずだ。
(いっそ、賭けに出てみるしかない、か…………)
――――もしも相棒がアンジェでなく、嘗て背中を預け合った戦友なら……シャーロット・オルブライトなら、神姫コバルト・フォーチュンなら、と思う節はある。
だが、それは無いものねだりという奴だ。アンジェと二人で戦うしかない現状、彼女よりも実戦経験に富んだ自分がどうにか劣勢を打破せねばならない。
ならば――――いっそ、賭けに出るか。
そう思い、意を決したセラがストライクフォームにフォームチェンジしようとした――――その時だった。
「――――チェンジ・セイレーン!!」
何処からか凛とした乙女の声が木霊したかと思えば、採石場の崖の上から……蒼の流星が落ちてきたのは。
「………………大丈夫ですか、お二人とも」
それは、蒼と白の神姫。間宮遥の変身した姿、神姫ウィスタリア・セイレーンが……セラたちの前にどこからともなく姿を現していた。