第十三章:呼び声に誘われて/03
それと全く同時刻。例によって純喫茶『ノワール・エンフォーサー』の手伝いをしていた遥も、やはり頭の中にアンジェたちが覚えたのと同じ、耳鳴りのような甲高い感覚を覚えていた。
「くっ……!?」
(この感覚……現れたようですね)
笑顔で接客をしている最中、急に覚えた甲高い感覚に小さく顔をしかめつつ。遥は内心で冷静にそう判断する。
久方振りの感覚だ。最近ではバンディットと戦う機会も、不思議とめっきり減ってしまっていた。
勿論、それ自体は喜ばしいことだ。本来なら神姫の力なんて、使わないに越したことはないのだから。
しかし――――束の間の平和は長くは続かない、というワケか。
「すみません、急用が!」
誰かが助けを求めているというのであれば、神姫としてその呼び声に応えなければ。
だから遥は頭の中に鳴り響く警鐘を感じ取った瞬間、すぐに戒斗の両親に……今は厨房に立っている二人にそう告げて、身に着けていたエプロンを外しながら店を飛び出し。そのまま、店の入り口近くに置いていた自分のバイク。ニンジャZX‐10Rに飛び乗る。
黒いフルフェイス・ヘルメットを被り、キーを差し込みイグニッション・スタート。排気量一リッターの直列四気筒エンジンに火を入れると、暖機運転の時間も待たずに遥はスタンドを蹴り飛ばし、ギアを繋いで一気に走り出す。
一速、二速、三速……加速するに従って一段、また一段とギアを叩き上げる。それに呼応し、遥の内側の昂ぶりも強まっていく。右手の甲が、今日はいつにも増して熱い。
「もう、誰にも悲しい顔をさせたくない……だから、私は!」
黒いカウルで風を切り、真っ青なストレートロングの髪を激しく靡かせながら、遥は走り抜ける。警鐘の告げる方へと、呼び声の聞こえる方へと向かって。ただ……真っ直ぐに。
(第十三章『呼び声に誘われて』了)