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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『復讐の神姫、疾風の戦士ジェイド・タイフーン』
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第十一章:哀しみは吹きすさぶ旋風とともに/01

 第十一章:哀しみは吹きすさぶ旋風とともに



 ――――数ヶ月後、P.C.C.S本部ビル、地下司令室。

 そこに集められた戦部戒斗とアンジェリーヌ・リュミエール、セラフィナ・マックスウェルの三人は、司令官の石神時三郎と篠宮有紀、そしてVシステム支援オペレータの南一誠も加えた面々と、その広い司令室の中でじっと顔を突き合わせていた。

「…………風谷美雪の失踪から、もう数ヶ月か」

 三人を前に、腕組みをする石神が神妙そうな面持ちで口を開く。

「風谷家を襲ったスコーピオン・バンディットの行方は、未だ分からずじまいだ。そして、戒斗くんの傍から消えた彼女の行方も」

「……美雪ちゃん」

「美雪の奴、一体何処行っちゃったのよ……」

「…………美雪」

 石神の言葉を聞きながら、心配そうな面持ちで俯くアンジェとセラ、そして戒斗。

 三人が三人とも、今日までの数ヶ月間ずっと美雪の行方を追い続けていたが……未だ、彼女は行方知れずのままだった。

 ――――風谷美雪の、失踪。

 一家惨殺直後、戒斗の前から忽然と姿を消した彼女の行方は未だ分からずじまいのままだ。数ヶ月が経った今も、美雪の行方は誰にも分かっていない。

 家族を皆殺しにされ、消息不明となった彼女は……色々あった末、少し前に神代学園は退学処分ということになっている。

 また、彼女の家族を皆殺しにしたスコーピオン・バンディットの行方もまた、未だ掴めていなかった。

 あの後アンジェがすぐに追撃したのだが、追いつけないままに見失ってしまった。そうして取り逃がしてしまったあの日以降、再びスコーピオンが出現することはなく。今日までずっと、その行方は美雪同様に分かっていなかった。

「……君らも知っていることだとは思うが、あの日を境に、不自然なぐらいにバンディットの活動が減っている」

 暗い顔で俯く三人を前に、石神がポツリと呟く。

「最初は俺もバンディットサーチャーの故障かと思ったが、サーチャー自体は正常だった。探知できていないというワケではない」

「とすると、何者かに狩られている可能性もあるね」

 石神の横で有紀がそう言うと、戒斗は「まさか」と呟く。

 すると石神が「ああ」と頷き、

「もしかしたら……そういうこと、かも知れん」

 と、含みを持たせた言い方で戒斗に言った。

「…………ヴァルキュリア因子の保有者が神姫に覚醒する条件は、未だ不明のままだ」

 その後で、石神は改まった調子で三人に向かってそう切り出す。

「しかし、アンジェくんの例を鑑みるに……風谷美雪もまた、アンジェくんの時と同様。セラくんやアンジェくん、複数の神姫と関わりを持っていたことが……ひょっとすれば、彼女が内に秘めていたヴァルキュリア因子に覚醒を促したのかもしれん」

 石神がそう言うと、横から有紀が補足めいたことを口にし始めた。

「確かに、その辺りの要素も覚醒の条件に含まれるだろうが……一番は、やっぱり感情の昂ぶりだろうね」

「感情の、昂ぶりですか?」

 首を傾げるアンジェに、有紀は「そうだ」と頷き返す。

「神姫は感情で動く存在だ。例えばアンジェくんの時のように……戒斗くんを守りたいという、強い想い。或いはセラくんや、その妹……キャロルくんが覚醒した時のように、バンディットに襲われた際に覚えた激しい抵抗心、恐怖心などなど」

「それが、美雪ちゃんの場合は……」

「そう、家族を殺された悲しみと絶望、そして怒りと激しい憎悪だったんだろうね」

 神妙な面持ちで呟くアンジェに対して有紀はそう言うと、羽織る白衣の懐からアメリカン・スピリット銘柄の煙草をスッと取り出して咥える。

 咥えた煙草にジッポーで火を付け、ふぅ、と一息つき。そうして一旦少しの間を置いた後で、更に有紀は続けてこんなことも呟いていた。

「……私は、神姫が神姫として覚醒する何よりもの条件は、激しい感情だと考えているんだ」

「激しい、感情……」

 反芻するみたく呟く戒斗に、有紀は「ああ」と頷き。

「故に……神姫は皆、君らのように女の身の上なのかも知れない。完璧な存在であるが故に、女にしか神姫の力は発現しない。

 …………心の赴くままに生きる、強く気高い存在。であるが故に、君らは神姫なのかも知れないね」

 有紀が呟いた、そんな含みを込めた言葉。それを最後に、この会合は暗い雰囲気のまま解散していった。


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