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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
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第二章:紅蓮の乙女/05

 そうして時間は過ぎて、夕方。放課後の訪れを告げるチャイムの音色が鳴り響く中、戒斗はいつものように神代学園の校門前にオレンジ色のZ33を横付けし、アンジェの帰りを待っていた。

「…………」

 仄かに熱の籠もった、茜色の夕陽に照らされて煌めくオレンジ色のボディに寄りかかりつつ、無言のまま待つこと暫く。戒斗がふとしたタイミングで伏せていた眼を上げ、視線を校門の方に向けてみると……すると校門の向こう側から、手を振りながら歩いて来るアンジェの姿が彼の眼に映った。

「あの()は……?」

 だが、いつもと異なっている点がひとつ。手を振って笑顔で歩いて来るアンジェの隣に、まるで彼女に付き従うようにして、一際目立つ容姿をした……やたらと背の高い、物凄く綺麗な女の子の姿があったのだ。

 あの背丈、どう見ても一八〇センチ級だ。一七五センチの戒斗よりも明らかに大きい。

 アンジェと親しそうにしている辺り、彼女の友達だろうか。しかしアンジェにあんな友達が居た覚えは無いし、それにアンジェを毎日この学園まで送り迎えしているのに、戒斗は彼女の顔に全く見覚えがなかった。あんなに目立つ容姿をしていたら、否が応でも記憶に残りそうなものだが…………。

「カイトっ、ただいまっ!」

「ああ、おかえりアンジェ。……その()は?」

「ん、セラのこと? セラならこの間戒斗にも言った、僕のクラスの転入生だよー。今日転入してきたんだ♪」

 満面の笑みで嬉しそうに駆け寄ってくるアンジェを、こちらも薄い笑顔で出迎えつつ。戒斗が何気なく問うてみると、アンジェは隣に立つ長身の彼女――――セラのことを戒斗にそう説明してくれた。

 とすれば、戒斗もセラを見ながら「ああ、君が例の」と納得する。そうするとセラの方も見慣れない戒斗の顔を小さく見下ろしつつ、彼にこう訊き返してくる。

「……セラフィナ・マックスウェル。貴方は?」

 訊き返された戒斗はセラに名乗ろうとしたのだが、しかし戒斗が答えようとするよりも早く、アンジェが何もかもを笑顔でセラに説明してくれた。

「彼は戦部戒斗っていうんだ。この学園の卒業生で、僕とは家が隣同士で幼馴染み。さっき見せた屋上の合鍵をくれたのも、カイトなんだよー」

「……そう、アンタが噂の不良さんってワケね」

 アンジェの説明を聞いて、セラが呟きながら肩を竦める。

 戒斗はそんな彼女に「光栄だ」と皮肉で返しつつ、寄りかかっていたオレンジ色のボディから離れ、すぐ傍にあった助手席側のドアを慣れた手つきで開けた。

「さてと、乗ってくれアンジェ」

「ん、ありがとカイト」

 そうすれば、アンジェがいつものようにZの助手席へと乗り込む。

 アンジェの華奢な身体がちゃんとシートに収まったのを確認してから、戒斗は外側からドアを閉じ。そうしつつ、すぐ傍に立ったままのセラの方に向き直り。彼女の顔を小さく見上げながら、戒斗は改めてセラに話しかける。

「セラ、だったか君は」

「ええ」

「これからもアンジェと仲良くして貰えると、俺としても嬉しい。アンジェのこと、改めてよろしく頼むよ」

 戒斗に言われて、セラはフッと小さく笑みを浮かべつつ。「言われなくても、よ」と薄い笑みで返し、続けて戒斗に向けてこう言った。

「アタシも結構気に入ってるからね、アンジェのことは」

「……そうか、安心した」

 セラの好意的な反応を見て、戒斗は言葉通りに安堵した顔で彼女に小さく笑み。それから運転席の方に回り込むと、ドアを開けてボディと同色の本革パワーシートに身体を滑り込ませた。

 キーは差しっぱなし、大排気量のV6エンジンは掛かったままだ。後はサイドブレーキを下ろし、ギアを入れるだけで走り出せる状態の愛機へと乗り込み、戒斗はシートベルトを締めつつで助手席越しにセラの方をチラリと見る。

「じゃあねセラ、また明日」

「ええ、また明日ね」

 開いた窓越しに手を振るアンジェと、小さく屈んで彼女に手を振り返すセラ。そんな二人を横目に眺め、戒斗は小さく表情を緩ませると……隣のアンジェに「行こうか」と告げ、ハザードランプを切ったZ33を走らせ始めた。

 何処か古めかしくも思えるエグゾーストノートを響かせ、走り去っていくオレンジ色のZ33。去って行くそのテールライトの描く軌跡を見送りながら、校門前に独り立ち尽くすセラはふと、何気なくこう思っていた。

 確かに普通の学生生活……というのも、思っていたよりは悪くないのかも知れない――――と、アンジェの笑顔を思い浮かべながら。

「ふふっ……」

 たった今別れたばかりの彼女の顔を思い浮かべる自分の顔に、いつしか自然と柔らかな笑みが浮かんでいたことに気付かぬまま――――セラは、遠ざかっていくテールライトを見送っていた。





(第二章『紅蓮の乙女』了)

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