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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『復讐の神姫、疾風の戦士ジェイド・タイフーン』
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第八章:亡者たちの影

 第八章:亡者たちの影



 ――――篠崎邸。

 世界規模の影響力を誇る、日本屈指の財団と名高い篠崎財閥。その財閥を取り仕切る篠崎家の本邸が、高い塀に囲まれた広大な敷地を有するこの迎賓館のような洋館だった。

 人里離れた場所に建つ洋館。豪華絢爛な屋敷の広間に、今日も今日とて二人の人間の姿があった。

 片方は白髪頭の老人、もう一人は紫色を基調としたゴシック・ロリータ風のワンピースを身に纏う、焦げ茶の髪をショートボブに切り揃えた可愛らしい風貌の女だった。

 ――――篠崎(しのざき)十兵衛(じゅうべえ)、そして孫娘の篠崎(しのざき)香菜(かな)

 どちらも篠崎財閥を牛耳る篠崎家の人間であり、同時に秘密結社ネオ・フロンティアの幹部でもある二人だった。

 今日は珍しいことに、香菜の弟……末っ子の篠崎(しのざき)潤一郎(じゅんいちろう)の姿は見当たらなかった。道楽者の末っ子らしく、今日は何処かに出掛けていて留守らしい。

 だから、今日は祖父の十兵衛と孫の香菜の二人きりだった。

 広間の中、白いテーブルクロスで覆われた長テーブルの一番奥。いわゆる誕生日席に深く腰掛けた十兵衛に、香菜は恭しい態度で語り掛ける。

「以前お爺様にお話ししました通り、既にバンディットの再生産実験を進めていますわ。先の交戦で倒されてしまったグラスホッパーの方は調整に少々手間取っていますが……それに先行して、まずは先日の交戦で神姫に撃破されてしまいましたコング、及びホーネットを再生していますわ」

 そう言う香菜の言葉に、十兵衛は「面白い」と言って興味を示す。

「撃破されたバンディットの再生産が出来れば、我々の戦力も更に盤石なものとなる。……構わんよ、香菜の思うように続けてみなさい」

「ありがとうございます、お爺様」

 微笑む十兵衛に、香菜は恭しい態度でお辞儀を返し。その後で祖父の十兵衛に対して、こんな言葉も投げ掛けていた。

「そういえば……一体ほど、面白い動きを見せているバンディットが居ますの」

「面白い動き?」

 十兵衛が首を傾げ、思案するように小さく唸る。

「……ふむ、興味深い話だ。香菜や、詳しく聞かせておくれ」

 それに香菜は「はい、お爺様」と頷いた後で、その面白いバンディットとやらについて十兵衛に説明し始めた。

「……面白いというのは、スコーピオンのことですわ。先日の交戦に際し、再生中のコング、及びホーネットとともに行動していた、あの下級バンディットですの」

「続けたまえ」

「どうやら……あの個体は捕食に際し、ある決まりごとを自ら取り決めているようですの」

「と、いうと?」

「わざわざ在宅中の住居に侵入し、居合わせた物を毒針で毒殺する方法を取っているようなのですわ。その行動の意図は、私にも分かりかねますが……行動そのものは興味深く感じましたの。ですので、継続してスコーピオンの観察を続けていますわ」

 香菜の説明を聞いた十兵衛は「ふむ」と唸り、

「或いは、中級ぐらいまでは進化するやも知れぬな」

 と、期待の眼差しとともに香菜にそう言った。

「可能性はありますわ。惜しくも先日倒されてしまったグラスホッパーと同様、あの子には可能性を感じます」

「ふむ……何にせよ、スコーピオンの観察とデータ収集を続けたまえ。我らの悲願を成就させる為にも、強く可能性に満ち溢れたバンディットが一体でも多く必要になる」

「ええ、分かっていますわお爺様。全ては我らネオ・フロンティアの為に」

 ペコリと恭しくお辞儀をする香菜に、十兵衛はニッコリと笑いかける。世界を覆わんとする闇の一党、秘密結社ネオ・フロンティアの首領とは思えぬほどに……まるで可愛い孫を見守る好々爺(こうこうや)のように優しげな微笑みを、篠崎十兵衛は浮かべていた。





(第八章『亡者たちの影』了)

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