第七章:少女は風に誘われて/06
CQB訓練終了後、隔壁を潜って元の部屋に戻ってきた戒斗は、身に着けていたVシステムをやはり手作業で外していた。
「お疲れ様だ」
丸椅子に腰掛けた戒斗が右腕の装甲を傍らのテーブルに置く中、横から紙コップに入った珈琲を彼に差し出しつつ、有紀がそう言って労ってくれる。
戒斗は彼女の差し出してくれた紙コップを「ああ」と頷きつつ受け取り、中途半端にVシステムを身に着けた格好のまま、温かい珈琲に口を付けた。
「それにしても――――」
珈琲をちびちびと飲みながら、横で一緒になって珈琲を飲む有紀の顔を小さく見上げつつ、戒斗は彼女にこんな言葉を投げ掛けてみる。
「今にしろ、トラックに積んであるフルオート・ハンガーにしろ。イチイチひとつずつ着けたり外したりせにゃならんのは、どうにも面倒だな」
そんなことを言ってみると、有紀は「はっはっは」とおかしそうに乾いた高笑いを上げ。続いて「確かにね」と頷き、今の戒斗の言葉に同意の意を示す。
「でも、今はこれが精いっぱいなんだ。君や私の好きな特撮のように、アイテムひとつで簡単にシステムを着装……というのは、少なくとも今日の時点では無理だね」
「主任もホントに好きッスよねえ、そういうヒーロー番組っていうの? 俺にはちんぷんかんぷんッスよ」
続いて有紀が呟けば、少し離れた場所にあるデスクで忙しなくキーボードを叩いていた南がボソリとそんなことを口走っていて。それに有紀は「だろうね」と肩を竦めて返す。
「君はそういうの、あんまり得意じゃなさそうだ」
「そうッスよー。だから主任に話振られてもよく分かんないんスよ。子供の頃は観てたっちゃ観てたんですけどね……内容なんか殆ど覚えてないッスよ」
「……ま、無理強いはしないさ。気が向いたときにでも観てみるといい。その時になったらオススメを教えてあげようじゃあないか」
「期待せずに待っててくださいッスよ」
二人がそんな会話を交わす傍ら、戒斗は身に着けていた残りの装甲も全て外し終えていて。ふぅ、と息をつきながら左手首に巻いた腕時計、銀色に光るステンレス製のそれにチラリと視線を落としてみる。
三本の針が刻む時刻は、何だかんだと良い頃合いになってしまっていた。もう少ししたら……一息ついたぐらいのタイミングで、また学園に行かなきゃならない。
「悪いな先生、それに南も。もう少ししたらアンジェを迎えに行かなきゃならないんだ。悪いが、今日は焼肉には付き合えそうにない」
「なあに、構わないさ」
戒斗の言葉に、有紀はフッと笑んで答える。
「それにしても、君も本当に律儀な男だね…………」
続いて有紀はそうも言うから、戒斗も戒斗で小さく肩を竦めつつ。ただ一言「違いない」とだけ返していた。