第七章:少女は風に誘われて/05
『Vシステム、CQBトレーニング・プログラム開始』
「了解。トレーニング・オペレーション、開始する」
淡々とした調子の南の声に頷き返しながら、戒斗はエクスカリバーを携えて目の前のキルハウスへと駆け出していく。
簡素な作りのドアを蹴破り、室内へと転がり込む。
「まずは、二匹……!」
そうして転がり込めば、バタンと標的が起き上がる。人型を模った鋼鉄の標的、マン・ターゲットという奴だ。簡素な鉄板にはバンディットっぽい何かの絵が描かれている。
戒斗は転がった格好から膝立ちに起き上がりつつ、左手で銃把を握るエクスカリバーをサッと構える。
瞬時にセレクターを弾き、安全装置を解除しつつ発射状態をフルオートへ。左の人差し指で引鉄を絞り、エクスカリバーを撃つ。
――――銃声。
轟く五〇口径の銃声は凄まじく、ベニヤ板で出来たキルハウスの壁を容赦無く反響する。
襲う反動もそれに見合うだけの強烈なもののはずだが……しかしVシステムを身に纏う戒斗は反動を毛ほども感じないまま、正確な射撃で一気に二枚の標的を撃ち抜いていた。
「次!」
二枚の標的がまた倒れたのを見て、戒斗は入った部屋からキルハウス一階の廊下へと飛び出していく。
そうして、目に付いた部屋という部屋に飛び込み。一枚、また一枚と標的を撃ち抜いてやる。
撃ち抜いていけば、丁度一階にある部屋全てを探索したところで弾が切れ。戒斗は階段を昇ってキルハウスの二階へと進みつつ、エクスカリバーの弾倉を交換する。
随分と軽くなった樹脂製の空弾倉を足元に落とし、新しい二〇発フルロードの弾倉を装着。訓練開始前にしたのと同じようにガシャンとボルトを引き、弾倉から拾い上げた五〇口径の初弾を薬室に送り込む。
そうして再装填を終えた頃、戒斗は二階に到達していて。廊下に足を踏み入れると、そのまま一番手近な部屋へと飛び込んでいく。
「ッ――――」
飛び込めば、起き上がってくる標的は五つ。
しかし……その内の二つに描かれているものは、バンディットの絵柄ではなく。それに描かれていたのは、明らかに人間を模した絵だった。
――――人質。
バンディットが人質を取るシチュエーションというのは実際には考えにくいが、とにかく人質だ。相手が人間である以上、撃ってしまうことは許されない。
(実際やってみると、危うく撃っちまいそうになるな)
戒斗は内心でそう思いつつ、撃つべき相手とそうでない相手を即座に判断し……人質役の標的を避けながら、それ以外を素早く的確に撃ち抜く。
「クリア」
人質以外の三枚を倒したところで、戒斗は呟き。今の部屋を出て、また別の部屋へと足を踏み入れていく。
そうしてひとつ、またひとつと部屋を制圧し、時には人質を避けつつ……二階も制圧完了。最後の弾倉も半分ほど使い切ったところで、戒斗は階段を使ってキルハウスの三階に昇っていった。
『その部屋を制圧すれば訓練終了だ』
「了解だ」
三階も次々と部屋を制圧し、最後に行き当たった廊下の突き当たりにある部屋。戒斗は有紀からの通信に小さく応答を返しつつ、その部屋の扉を蹴破った。
Vシステムの脚力で派手に吹っ飛んだ扉を踏みつけながら、部屋の中へ突入。すると例によって標的が……今度は九つ同時に起き上がってくる。
それに加えて、四つの人質もだ。戒斗は瞬時にどれを撃つべきかを判断しつつ、エクスカリバーを構え。素早く滑らかな照準でズドン、ズドンと次々に標的を撃ち倒していくが――――。
「ッ!」
だが五つ目を倒そうとした瞬間、撃鉄が空を切った。
――――弾切れ。
予備の弾倉はもう無い。あったとしても、再装填している余裕なんて無い。
「チッ……!」
故に戒斗は舌を打ちつつ、弾切れになったエクスカリバーを即座に投げ捨て。左太腿のハードポイントから大型拳銃、HV‐250スティレットを抜いて連射する。
その間、僅か数秒。戒斗は瞬く間に残りの標的をスティレットの連射で撃ち倒した。
そうして全ての標的を撃破すれば、最後の標的が倒れるのと同時にビーッと再びブザーが鳴り響く。訓練終了の合図だ。
『――――トレーニング・オペレーション完了。中々悪くない成績だよ、戒斗くん』
「ソイツはご機嫌だな」
『訓練終了。戒斗さん、戻ってきてくださいッス』
南の指示に、戒斗は「了解だ」と頷き返し。再びスティレットを左太腿に装着すると、投げ捨てたエクスカリバーを拾い上げ。ドデカい自動ライフルを片手にぶら下げつつ、未だ色濃く硝煙の香るキルハウスを後にしていった。