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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『復讐の神姫、疾風の戦士ジェイド・タイフーン』
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第五章:独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き/05

 そうして三人で電車に揺られること、およそ一時間。無事に家の最寄り駅で私鉄電車を降りた戒斗とアンジェは、そのまま徒歩で家まで美雪を送り届けていった。

 辿り着いた美雪の家は一軒家で、やっぱり戒斗たちの家から結構近い距離にあった。住所を打ち込んで貰った時点で分かっていたことだが……それでも、イザ実際にご近所さんだと改めて実感してしまえば、何とも言えない気分になる。

 そうして辿り着いた、彼女の家の前には……何故か、パトカーが二、三台ほど停められていた。

 そんな奇妙な光景に首を傾げつつ、ひとまず美雪を送り届け。彼女が恐る恐るといった風に家のインターフォンを押すと……ガチャリと開いた家の玄関から、彼女の母親と妹が泣きながら飛び出してきて。すると美雪はそのまま二人に抱き締められてしまっていた。

「お母さん……(りん)…………ごめんね、心配掛けて」

 (りん)、というのは状況から察するに、今まさに抱きついている彼女の妹の名前だろう。

 美雪がそんな風に母親と、そして妹の燐……風谷(かざや)(りん)に抱き締められている中。後から出てきた父親も美雪の無事な姿を目の当たりにして、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 その後、父親は戒斗とアンジェの姿を見つけると、二人に向かってペコリと深く頭を下げる。その後で母親や燐、そして美雪も含めた家族全員も戒斗たちに頭を下げた。

「この度は、娘が大変お世話になりました……!」

 そう言う母親に、アンジェはいえいえ、と照れくさそうな顔で言う。

「最初に声を掛けようって言い出したのは彼の方で、僕はそのお手伝いをしただけに過ぎませんから……」

「そうでしたか。……お二人とも、娘が本当にお世話になりました」

 アンジェが説明すると、続き戒斗の方にも改めて礼を言ってくるから、戒斗も戒斗で「アンジェが居てくれたからだ、俺は大したことはしちゃいない」と返す。

「仮に俺一人で声を掛けていたとしたら、ひょっとすれば美雪に不審者だと思われていたかも知れない。……アンジェが居てくれなかったら、流石に俺も躊躇したかもな」

 続けて戒斗がそんな自虐めいた皮肉を口にすると、隣に立っていたアンジェと、そして美雪がクスッと小さく笑う。

「お話中すみません、少しよろしいですか?」

 そうしていると、別の第三者が戒斗たち二人に声を掛けてきた。

 クリーム色のトレンチコートを羽織った、四〇代半ばぐらいの男だ。制服警官二名に付き添われているのを見るに……警察関係者だろうか。

「申し遅れました、わたくしこういう者で」

 そんな男に二人がきょとんと首を傾げていると、トレンチコートの男は懐から取り出した警察手帳を見せてくれた。

 どうやらこの男、刑事らしい。格好からして何となくそうかなと思っていただけに、戒斗もアンジェも別に驚かなかった。家の前にパトカーが停まっていた時点で、もう驚く段階は過ぎ去っている。

「実は、ご両親が美雪さんの捜索願を出されていまして。帰りが遅く、携帯も電源が入っていなくて繋がらない。帰ってくるはずの時間はとうに過ぎているから、きっと娘さんに何かあったに違いない……と心配されたために、捜索願を出されたそうです」

「そうでしたか」とアンジェが相槌を打つ。すると刑事の男は「はい」と頷いて、

「我々警察の方でも数十人単位で動員し、必死に美雪さんを捜索していたのですが……お二人のお陰で、大事に至らずに済みました。この度はご親切にありがとうございました」

 そうやって二人に改めて礼を言うと、刑事の男は続けてこんなことも二人に言ってきた。

「それで……お二人には大変申し訳ないお願いで恐縮なのですが」

「えっと、何ですか?」

「その、あくまで形だけなのですが。この後一応、署の方で事情聴取をさせて頂きたい」

「事情聴取……か」

 刑事の言葉を聞いて、戒斗が唸る。

「お二人が親切心でやってくださった、大変勇気ある行動だというのは重々理解しておりますが、書類上どうしてもそういった手続きが必要でして。大変申し訳ないのですが、もう少しだけお時間を頂戴したいのです」

 何処か恐縮した風な刑事の頼みを、二人は構わないと快諾した。

 すると、刑事は「ありがとうございます」と申し訳なさそうに頭を下げてくる。

 事情聴取――――この辺りは刑事も言っていた通り、お役所仕事の関係上どうしても必要なのだろう。二人ともその辺りを十分に理解していたから、別に刑事に対して文句を言うようなことはしなかった。

「では署の方までお送りしますので、こちらへ」

 言われて、戒斗とアンジェは傍に停まっていたパトカー…………180系のトヨタ・クラウン、いわゆるゼロクラウンの後部座席に乗り込もうとしたのだが。

「――――戒斗さん、アンジェさんっ!!」

 しかし後ろから美雪に声を掛けられて、立ち止まる。

 振り返ってみると、家族と一緒に並んだ美雪がこちらを見つめていて。そんな彼女は……自分を助けてくれた戒斗たち二人に向かって、改めてお礼を言っていた。

「今日は……本当に、ありがとうございましたっ!!」

「気にするな、俺たちが好きでやったことだ」

 戒斗はそんな風に礼を言う美雪に対して、ニッと笑みを浮かべながらこんなことを言う。

「充電切れには気を付けろよ。また店にも顔を出してくれ。俺がご馳走するから」

 続けてそうも戒斗が言うと、横でアンジェも美雪に向かって笑顔でこう話しかけていた。

「美雪ちゃんが無事で何よりだよ。僕らは……君の笑顔が見られただけで、それだけで十分だから。じゃあね美雪ちゃん、また近いうちに会おうねっ」

 最後にアンジェが微笑みかけながらそう言って、二人は今度こそパトカーに乗り込んでいった。

 …………戦部戒斗とアンジェリーヌ・リュミエール、美雪にとっての恩人二人を乗せたパトカーが、風谷家の前から走り去っていく。

 夜空の下、遠く離れていくパトカーの赤いテールライトを見送りながら、それをいつまでも見つめていた美雪の肩をポンッと叩いて、彼女の父親が美雪に呟いた。

「本当に、真っ直ぐな心の……優しいヒトたちだったな。美雪、良いヒトたちに助けて貰ったな」

 それに美雪はうん、と頷き返し、そして呟く。

「戒斗さんとアンジェさんは……本当に、テレビの中のヒーローみたいに真っ直ぐで、何処までも優しいヒトたちだったよ」

 と、遠ざかっていく赤いテールライトを見送りながら。去って行く二人を見送りながら……風谷美雪は、穏やかな笑顔とともに呟いていた。





(第五章『独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き』了)

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