第五章:独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き/03
その後、美雪は戒斗のスマートフォンを使って自宅に電話を掛け。戒斗たちが想像していた以上に心配していた美雪の両親に、美雪自身の口から無事を知らせていた。
こんな風に――――だ。
「……うん。色々あったんだけれど、親切なヒトたちが助けてくれたんだ。これから家に連れて行って貰うところ。うん……分かった。それじゃあね」
そうして、これから家まで連れて行って貰うことを美雪が電話で説明した後。さっきの約束通り、戒斗とアンジェは彼女を連れ、最寄り駅の近くにあるファストフード店に入って行った。
さっきの戒斗の台詞ではないが、腹が減っては戦が出来ぬという奴だ。実際アンジェの見立て通り、美雪はお腹が空いて動けなくなったという感じだったらしく。移動する前にひとまず空腹を満たすべきだということで、まずは彼女に何か食べさせてやることにしたのだった。
「美雪ちゃん、何がいい? 好きなの食べていいよ?」
「えっと……どうしよう」
「うーん、だったらこれとかどう?」
「あ、はい……でしたらそれでお願いします」
入ったファストフード店で美雪はアンジェに勧められるがまま、チーズバーガーのセットを注文する。
かたやアンジェといえば、さっきファミレスで夕飯を摂ってしまったからお腹いっぱいだということで、ジュースだけを注文。そして戒斗はといえば…………。
「カイト、本当に君はよく食べるね……」
注文の品を受け取り、それぞれトレイを持って着いた四人掛けのテーブル席。アンジェはそこで紙コップに入ったジュースを飲みながら、隣に座る戒斗の……彼の前にあるトレイを見つめながら苦笑いを浮かべていた。
「まあな」
というのも、戒斗が注文したのは美雪のものよりも更に分厚いダブルチーズバーガーのセット。中身が二段重ねになった……要は普通の二倍サイズのものだ。
さっき一緒に夕飯を食べたばかりだというのに、更にこれだけ食べようとしているのだから、アンジェが苦笑いを浮かべてしまうのも納得というものだろう。
まあ、よく食べることは決して悪いことではない。だからアンジェの苦笑いは困惑というよりも、どちらかといえば子供を見るような……食いしん坊の小さな子供を見つめているような、そんな感じのものだった。
とにもかくにも、そんな風に三人で席に着き。隣り合う二人とテーブルを挟んで対面に座る美雪と一緒に食事を摂りながら、三人でこんな会話を……主に美雪のことに関しての話をしていた。
「美雪ちゃん、こっちに越してきたのはつい最近のことなんだよね?」
「はい。お父さんの仕事の関係で、お母さんと私と、それに妹も一緒に引っ越してきたんです。まだ一週間ぐらいですね、こっちに住むようになって」
「そうだったのか……」
「今日は学園で出来た友達とこっちまで遊びに来て、皆と解散した後に迷子になっちゃったんです。ですから……お二人に声を掛けて貰わなかったら、私どうなってたのか」
「そっかそっか。美雪ちゃんも神代学園なんだよね?」
「はいっ。その制服……アンジェさんも同じ学園なんですか?」
「だねー。僕は三年A組だけど、美雪ちゃんは?」
「えっと、一年D組です」
「ふふっ、やっぱり一年だったんだ。どうかな、学園は?」
「まだ、よく分かりません。けれど、制服が凄く可愛いんで……そこは気に入っています」
「分かるなー、美雪ちゃんの気持ち。神代学園の制服ってとっても可愛いもんね。僕も好きなんだ」
とまあ、こんな風な取り留めのない話を交わしつつ……食事の時間は過ぎていき。ひとまず美雪は空腹を満たすことが出来たようだった。