第三章:迷い続けながら、生きられる限りを生きていく/01
第三章:迷い続けながら、生きられる限りを生きていく
アンジェと屋上で別れ、そのまま学園を早退したセラが学園の傍に隠していたバイク、真っ赤なゴールドウィングF6Cで向かった先は……戒斗の実家でもある純喫茶『ノワール・エンフォーサー』だった。
駐車場にドデカいクルーザーバイクを停め、カランコロンと来客を告げるベルの鳴る扉を潜って店内へ。店の中には珍しく誰も居らず、またカウンターの向こう側に立っているのも遥ひとりだけだった。どうやら戒斗の両親も、今は店に居ないようだ。
「セラさん、こんな時間にどうされたんですか?」
薄い笑顔で出迎えてくれる遥に、セラは「ちょっとね」と言う。
「悩みごとがあってさ、授業も手に付かないし……抜け出して来ちゃったのよ。だから此処に来たのは気分転換。遥なら、きっとこの時間も居るんじゃないかって思ってたんだけど、正解だったみたいね」
「悩みごと……ですか」
カウンター席に着いたセラに、ひとまずお冷やのグラスと温かいおしぼりを出しつつ、遥が反芻するように呟く。
「もしセラさんさえ良ければ、私に話してみてはくれませんか?」
「…………そうね。何気なく気分転換のつもりで来てみたけれど、ひょっとしたらアタシ、遥に話を聞いて欲しかったのかもね」
「私で良かったら、聞かせてください。セラさんの力になれるかどうかは分かりませんが……でも、誰かに話すだけでも少しは楽になるものですから」
「じゃあ、聞いてくれるかしら?」
確認じみたセラの言葉に、遥は微笑みながら「はい」と頷き返す。
「聞かせてください、セラさんの悩んでいることを」
「……その前に、珈琲を頂ける?」