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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-04『復讐の神姫、疾風の戦士ジェイド・タイフーン』
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第二章:もっと君を知れば/06

 ――――それとほぼ同じ頃、私立神代学園の校舎屋上。昼休みを迎えた学園の中、例によって施錠されている扉をピッキングで解錠して……セラは屋上の一段高いところに昇り。普段のように貯水槽にもたれ掛かりながら座り込んで、ぼうっとしながら遠くの景色を独り眺めていた。

「…………」

 そうしていると、真下で扉がキィッと軋む音がする。

 セラがその音にも構わないでいると、次に聞こえてくるのはカンカンカン、と誰かが梯子を昇る音。

 その音が止んだ頃、下からひょっこりと顔を出したのは……案の定というべきか、アンジェだった。

「あーっ、セラってばやっぱり此処に居た」

 どうやらセラを探しに来たらしいアンジェは、貯水槽にもたれ掛かっている彼女の姿を見るなり、小さく頬を膨らませながらそうやって声を掛けてくる。

「……別に良いでしょう。私が何処でお昼を食べようが、私の自由よ」

 セラはそんな彼女に、やっぱり朝と同じように素っ気ない態度で返す。

「それはそうだけどさー。お昼休みになってすぐに何処かに行っちゃうから、流石に心配したよ」

「心配してくれたことにはお礼を言っておくわ。でも……ごめんなさい、独りになりたい気分だったの」

 視線を向けないまま、遠くの空を眺めながら呟いたセラに、アンジェは「そうだったんだ」と頷き。

「ねえセラ、隣いいかな?」

 と、次に彼女は笑顔でそんな問いかけをセラに投げ掛けていた。

「…………アンジェ、今の話聞いてた?」

「えへへ、独りで食べるのも寂しいからさ。人肌恋しいっていうのかな? 別に僕と話したくないのなら話さなくたっていいし、傍に居させてくれないかな?」

 遠慮がないというか、何というか。

 妙に押しの強いアンジェに結局は押し負ける形で、セラは「はぁ……負けたわ。好きになさいな」と溜息交じりに言って、何だかんだと折れてしまう。

「うんっ♪」

 諦めてセラが折れると、笑顔を浮かべたアンジェは梯子を昇りきり、貯水槽の傍……セラのすぐ隣にちょこんと腰を落とす。

 座ったアンジェは持ってきていた自分の弁当の包みを開き、そのまま暫くの間……アンジェは何も話さずに、ただセラの隣で自分の弁当の中身に箸を付けていた。

「……やっぱり、昨日のことを気にしてるの?」

 そうして自分の弁当を食べ終わった頃、アンジェはボソリと呟いてみる。

 セラはその問いかけに対し「……まあね」と彼女の方を見ないまま、遠くの空を眺めながらで呟き返す。

「…………悔しいけど、アイツの言う通りよ。アタシの考えがあまりにも浅はかだった。あのまま無鉄砲に撃ってたら……あの子たちは、アタシのせいで死んでたのよね」

「セラ……」

「正直、セイレーンのことは今でも認めたくないのよ。アンタ以上に、アイツを認めたくない気持ちは強い」

 その後でセラは「でも」と続けて、

「――――でも、確かにアイツは強いわ。多分……いいえ、間違いなくアタシ以上に強い。どれだけの間、どれだけの敵と戦い続ければああも強くなれるのか……アタシには、想像も付かないぐらいだわ」

 そんなセラの言葉に、隣のアンジェは「まあね」と頷き、

「遥さ……んんっ、セイレーンはすっごく強い神姫だよ。あのヒトは、多分誰よりも何よりも強くて、そして何処までも気高いヒト。神姫になりたての僕じゃあ足元にも及ばないほどに、セイレーンは強くて高潔な神姫だと僕は思うな」

「実力はともかくとして……気高さって意味では、アンタも十分負けてないと思うけどね」

「えへへ、褒めてくれるの?」

 嬉しそうに微笑むアンジェに「そんなんじゃないわよ、馬鹿」とセラは肩を竦め、

「でも、それに比べてアタシは…………」

 そう呟くと、(うつむ)くセラは悲しそうな表情を浮かべる。

 (うつむ)いて、悲しげな顔でひとりごちて。そしてセラは急に立ち上がると、そのまま貯水槽の傍から下にタンッと飛び降りてしまう。

「セラ、どうしたの?」

 一段高い場所から身を乗り出し、下方を見下ろしながらアンジェが問いかけると。するとセラは頭上のアンジェの顔を見ないままで、

「体調悪くなってきたから、今日は早退させて貰うわ」

 そう言うと、アンジェの返す言葉も聞かないまま……独り、屋上を出て行ってしまった。

「…………いっぱい考えちゃうんだよね。セラもカイトと同じで、とっても優しいから」

 彼女の消えた屋上、彼女の残り香に鼻腔をくすぐられながら……貯水槽にもたれ掛かりつつ、アンジェが小さくひとりごちる。

 ――――結局のところ、後のことはセラ自身が解決すべきことなのだ。

 少し心配には思うが……でもきっと、セラなら自分で乗り越えてくれるとアンジェは信じている。だって自分は、誰でもない彼女の……セラフィナ・マックスウェルの友達で、そして同じ敵と戦う使命を帯びた神姫なのだから。





(第二章『もっと君を知れば』了)

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