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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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エピローグ:すべては君を愛するために/04

「カイトーっ」

 一方、同じ頃。いつものように学園の校門前へオレンジ色のZ33を横付けして待ち構えていた戒斗の元に、アンジェが早足で駆け寄ってきていた。

「おかえり、アンジェ」

「うんっ! ただいまー、カイトっ」

 走った勢いのまま胸に飛び込んでくるアンジェを抱き留めながら、戒斗はやれやれといった顔で彼女を出迎える。

「今日は珍しく、セラは一緒じゃないんだな」

 そんな風に出迎えた後、珍しいことにセラが同伴していないことに気が付いた戒斗が何気なしに問うてみると。すると胸に飛び込んだままの格好なアンジェは「えへへー」と微笑みながら戒斗の顔を小さく見上げ、そうしながらアンジェは彼にこう言った。

「セラ、今日は少し独りになりたいんだって。だから先に帰ってて欲しいって言われてさ」

「そうか……」

 アンジェの言葉に、戒斗は薄い笑みを浮かべながら頷き返す。

 ――――実を言うと、何故セラがそこまで他の神姫を敵視しているのか、ある程度の事情は戒斗もアンジェから聞かされている。

 といっても、彼女が過去に何か抱えていること、凄く重い事情を抱えて生きているのだということぐらいだ。

 その話を戒斗にした時、アンジェは言っていた。セラは戒斗に負けず劣らずの優しさを持っている、本当に優しい女の子だと。だからあそこまで思い詰めちゃっているんだと思う……と。

 当然、戒斗もそれを納得していた。

 セラはああいう風に物怖じしない、ド直球な性格だからか……人当たりこそどうにもキツいものの。しかし心の奥底には深い優しさがあるのだと、戒斗とて前々から感じていたのだ。

 だから、アンジェがそう言った時に色々と腑に落ちていた。

 故に二人は、今はセラのことは出来る限りそっとしておこうと決めたのだ。

 セラが敵視しているウィスタリア・セイレーン……遥のことや、それにアンジェが神姫に覚醒してしまったこと。加えてVシステムを預けられた戒斗のこともある。セラ本人にしてみれば、色々と複雑なのだろう。だからこそ、彼女はあそこまで思い悩んでいるのだ。

 こればかりは、本人が解決するしかない。どうやったって本人しか解決出来ないことで、解決すべきことで。周りの立場でしかない戒斗もアンジェも、今はただセラのことは見守るしか出来ないのだ。

「…………」

 そんな意図を、言葉を介さず互いにアイ・コンタクトのみで交わし合った後、戒斗とアンジェはまた柔な笑みを互いに向け合い。そのまま戒斗はアンジェを一旦離すと、寄りかかっていた助手席側のドアを開け。乗ってくれと彼女に促す。

「ん、分かった」

 彼女が無事にZの助手席へと乗り込んだのを見て、戒斗はバタンとドアを閉じ。自分もまた運転席に滑り込むと、キーを捻ってエンジンを始動させる。

 電装系に火が入るのを一瞬だけ待ってから、一呼吸置いてイグニッション・スタート。暫しのうたた寝をしていた大排気量のV6エンジンが長いボンネットの下で目を覚ませば、エンジンの奏でる低く獰猛な唸り声が振動とともに戒斗の耳にまで届く。

 そんな甘美な音色を耳で愉しみつつ、ふぅ、と一息つきながら戒斗は慣れた動作でシートベルトを締める。

「そういえば、カイト?」

 戒斗がそんな風にシートベルトを締めていると、アンジェが何気なく戒斗に問うてきた。

「ん?」

「結局、あのすっごい奴……ええと、なんだっけ」

「ヴァルキュリア・システムのことか?」

「そうそう。それって結局、カイトだけの物になったの?」

 訊かれた戒斗はうーんと唸った後「どうやら、そうらしいな」と言って、首を傾げるアンジェに答える。

「なんでも、俺しか使えないように生体認証とやらを登録しちまってるらしい。一応、強奪対策って名目で付けた機能らしいが……ホントのところの意味は俺にもよく分からん」

「そ、そうなんだ……?」

「まあでも、あのヒトなりの信念があってやったことだ。先生がそうした方が良いと思ったのなら、俺もそれで良いと思う」

 遠くを見つめながら呟いた戒斗の言葉に、アンジェは「そっか」と小さく頷いた後、

「じゃあ、これからはカイトも僕と一緒に戦えるってことなんだよね?」

 と、続けて隣の彼に問いかけた。

「そうなるな」

「そっかそっか♪ じゃあ改めてだけど、これからよろしくね……カイトっ?」

「お手柔らかに頼む」

 隣のアンジェが悪戯っぽく向けてくる笑みに、肩を揺らして返した後。戒斗はまた遠い目をしながら、チラリとアンジェの方に横目の視線も向けつつ……細い声音で、彼女にこう呟く。

「俺……アンジェの隣に立ててるかな。アンジェと同じ場所で、アンジェを支えられる場所に立ててるのかな」

「そんなの、最初から君はそこに居たよ?」

 アンジェは戒斗の左手をそっと両の手のひらで包み込み、ぎゅっと握り締めながら……柔な笑顔で彼に囁きかける。

「神姫の力も、P.C.C.Sも、Vシステムも。何もかも関係ない。そんなものが無くたって、君は最初から僕の隣にずっと立っていたよ。僕の一番近くで、僕と同じ道を……手を繋いだまま。君はずっとずっと、一緒に歩いていてくれていた。それはこれからも変わらない。君は僕にとって、確かな支えなんだよ、カイト?」

「……そうか、そうだったよな」

「そして、僕も君にとっての支えでいたい。そうであると嬉しいな」

 微笑む彼女の言葉に、戒斗は薄い笑顔を浮かべながら「当然」と返す。

「アンジェが居てくれなかったら、俺は此処には居なかった。

 …………君が傍に居てくれるから、俺は生きていられるんだ。君が道を照らしてくれているから、迷う俺を導いてくれるから。だから俺は、自分の道を迷わずに真っ直ぐ歩いていられる」

「カイト……」

「だからさ…………アンジェには感謝してるよ、心の底から」

「……そっか」

 小さく頷く彼女の表情は、とても穏やかで……心の底から安心したような顔で。そんなアンジェの顔を見ていると、何だか見ているこっちまで幸せな気分になってきてしまう。

 アンジェが見せてくれる笑顔には、不思議な魅力があった。とても安らかな気持ちにさせてくれる、そんな魅力が。アンジェはやっぱり……笑顔で居てくれるのが、一番似合っている。

「俺はもう迷わない。アンジェが神姫として戦うと決めたのなら、俺も何処までだって付いていく。俺はもう無力なんかじゃない、確かな力を手に入れたんだ。君の隣に立っていられるだけの、そんな大いなる力を」

「……うん」

「俺たちで、歩いて行こう。真っ直ぐに、俺たちだけの道を」

「――――うんっ!!」

 満面の笑みを、太陽のような笑顔を向けてくれるアンジェに、戒斗もまた薄い笑みを向け返し。そうしてから、戒斗はZを発進させる。

 真っ赤なテールライトとともに遠ざかっていく、重厚なエグゾースト・ノート。その音色は旅立ちの祝福にも似ていて。全てのキャスティングが完了し、役者が出揃った今。物語は新たな局面を迎えようとしていた――――――。





(Chapter-03『BLACK EXECUTER』完)

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