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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
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第二章:紅蓮の乙女/01

 第二章:紅蓮の乙女



 ――――それから少し経って、週末は花の金曜日のことだ。

「おはよ。今日もいい天気だねー」

 早朝の私立神代学園は三年A組の教室。ガラリと後ろ側の引き戸を開いて、アンジェが慣れ親しんだクラスへといつものように足を踏み入れていた。

 挨拶をしてきてくれる他のクラスメイトたちに笑顔で挨拶を返しながら、アンジェはそのまま自分の席……窓際列の最後尾という良い位置にある席に歩いて行き。左肩に掛けていた重いスクールバッグを机の上に置くと、彼女自身もそのまま席に腰掛けた。

「んー、数学の宿題? やってあるけど……あー、琴音ってばまた僕の写す気? もうっ、駄目だよー? ちゃんと自分でやらなきゃ。まあ今日のところは別に良いけどさ。数学の先生、宿題やってこないと怖いもんねー」

 とまあ、こんな風に話しかけてくるクラスメイトたちの相手をしつつ。スクールバッグの中から取り出した、今日の宿題がキッチリやってある自分の数学用ノートを友達に貸してやったりしつつ……彼女らが去って行ったタイミングで、アンジェはふぅ、と息をつき。スクールバッグの中から小さな文庫本を取り出すと、スッとそれを開いて読み始めた。

 本のタイトルは『幻想遊撃隊ブレイド・ダンサーズ』。戒斗から貸して貰った……いわゆるライトノベルという奴だ。今アンジェが手に持っているそれにはブックカバーが被せられているものの、その下には登場キャラクターの美麗なイラストが描かれた表紙がある。

 内容の方は……有り体に言えばSF作品、全長八メートルのロボット兵器が出てくるような作風だ。どうやら戒斗が昔読んでいた作品らしく、彼にオススメされる形でアンジェもこうして読んでいる。彼曰く『主人公が他人とは思えない』だそうだ。……確かに、分かる気はする。

 まあその辺はともかくとして、アンジェも楽しんで読めていた。ヒロインの中にフランス出身の()も居て、戒斗ではないが……アンジェもどうにも他人とは思えないような、変な錯覚を抱いてしまっている。

 ――――こうして戒斗に何かを勧められるのは、別に初めてのことではない。

 寧ろ、アンジェにとってはいつものことだ。彼女が朝の特撮ヒーロー番組にドハマりしているのも、元はといえば幼少期から彼がそのテの番組をずっと好んでいて、子供の頃から戒斗がアンジェと一緒に観ていたからだったりする。

 尤も、アンジェ自身にはそれ以上に強い切っ掛けとなった、また別の理由があったりするのだが――――。

 とにもかくにも、そうしたように戒斗の影響で存在を知り、楽しんでいる作品がアンジェは多いというワケだ。

 彼自身が映画マニアということもあり、映画を勧められて観ることが一番多いか。

 それ以外にも戒斗は結構多彩なジャンルに強く、映画の他にもアニメ番組だったり、漫画だったり、ちょっと渋めのドキュメンタリー番組だったり……と。彼がアンジェに勧めてきて、そしてアンジェが気に入ったものは数知れずだ。

 その内のひとつが、こうした読書趣味だったりする。

 今でこそ戒斗は文庫本の類は全くと言っていいほど読まなくなってしまったようだが、昔は……中学とか高校の頃はよく読んでいたらしい。尤も、授業時間の暇を潰すために授業中、延々と読んでいたからだそうだが。

 だから、この作品以外にもアンジェは色々と勧められて、そして読んでいた。

 幾つか例を挙げると……『オービタル・エクリプス』シリーズに『SIX RULES』、他には『CODE:CHASER ‐コード・チェイサー‐』という作品もあったか。

 これらは全て銃火器でドンパチするような、要は洋画チックな内容の作品で。最初こそアンジェは自分には合わない作風かな……? と思って躊躇していたのだが、読んでみたら意外にもハマってしまったという経緯がある。

 何だかんだと、戒斗のオススメに外れは少ない。外れがゼロというワケではないが、しかし彼はアンジェと感性がよく似ているのか……彼が勧めてくれたものは、アンジェも結構気に入ることが多かったのだ。

 ――――そういう経緯もあり、アンジェはこうして独り読書に耽っているというワケだった。

「…………」

 半分だけ開けておいたすぐ傍の窓から、涼しい朝風がふわりと教室に吹き込んでくる。

 風に揺れる、アンジェの金糸より透き通ったプラチナ・ブロンドの髪。煌びやかな東の朝日に透き通る金色の髪を揺らしながら、アンジェはそのアイオライトのような青い瞳でじっと手元の本を見つめ、静かに活字を追っている。

 スラリと長くて華奢な、黒のオーヴァー・ニーソックスに包まれた両脚を組みながら、静かに読書に耽る彼女の横顔は、その姿は――――あまりにも絵になりすぎていた。

 それこそ、偶然彼女の姿を視界に入れたクラスメイトたちが言葉を失い、息を呑んで見つめてしまうぐらいに。それほどまでに、読書に耽る彼女の……アンジェリーヌ・リュミエールの姿は、あまりにも可憐で美しかった。

「ん……もうこんな時間か」

 そうして本を読みながら時間を潰していると、いつしかチャイムが鳴り響き。その聞き慣れた音色とともに、朝のホームルームが始まろうとしていた。

 アンジェは読みかけの本にそっと(しおり)を挟み、パタンと閉じたそれを机の中に収める。物語の続きは後のお楽しみだ。

「あれ……あの()って」

 そうして本を机に仕舞い、教壇の方に視線を向けてみると。すると丁度そのタイミングで、いつものように二十代後半ぐらいの優しそうな顔つきをした若い男性教師。目元に掛けた黒縁眼鏡がトレードマークの、このクラスの担任が教室に入ってきて……と、ここまでは普段通りの光景だ。

 しかし、ここから先がいつもとは少しだけ違っていた。

 ――――担任に連れられて、見慣れない女子生徒が三年A組の教室に入ってきたのだ。

「誰……?」

「もしかして、この間言ってた転入生かな」

「外国人かあ、私初めて見たかも」

「すっごいスタイルいい……憧れちゃうなあ」

「ちょっ、めっちゃ可愛くねえ? あの()……」

「ヤベえ……俺ちょっと鼻血出てきたわ」

「アホか?」

「お前だって鼻の下マリアナ海溝並みに伸びてんじゃねーかこのタコ助」

「うるせえ、男の(さが)だ畜生」

「わかる……いいよね…………」

「はいはい、お前たち静かにしなさい」

 突然現れた見慣れない彼女に、当然ながらクラスメイトたちはざわつく。どうやら皆、彼女が噂の転入生かと騒いでいるようだ。

(そうか、あの()が……っていうか今日だったんだ)

 話には入らず、ただ不思議そうに首を傾げていたアンジェも……周りの女子たちがひそひそと話す噂話を小耳に挟み、黙ったまま内心で納得する。

 どうやら――――彼女が噂の外国からの転入生のようだった。

「…………」

 黙ったまま、仏頂面で教壇に立っている彼女。クラスメイトたちが噂しているように……そのスタイルは抜群で。それに物凄い美貌も相まって、下手なモデルなら泡を吹いて卒倒してしまうぐらいの……そんな美少女だった。

 背丈はそこいらの男子よりよっぽど高く、一八五センチはあるだろう。物凄く綺麗な、燃え滾る焔のように真っ赤な髪は長いツーサイドアップの形に結っていた。後ろ髪は腰辺りまで垂れている。

 どうやらアンジェと同じく白人のようで、肌は陶磁よりも真っ白い肌。ほっそりとした切れ長の瞳は黄金のように煌めく金色。そして……詳しい数値は当人しか知らぬことだが、スリーサイズが上から九二・六〇・八四という、出るとこはズドンと出て引き締まるべきところはキュッと引き締まった、凄まじくグラマラスな体格をしていた。

 ――――そんな彼女、当然のようにこの学園のブレザー制服を着ているのだが。しかし彼女はそれを随分とラフに着崩していて、それがまた彼女の鋭い棘のある赤薔薇のような雰囲気に合わさって……不思議なぐらいに、似合っていた。

 転入生の彼女、ブレザージャケットの前は閉めずに開き、肘下で袖を折っていた。加えてその下にある白いブラウスの襟は開け、赤いネクタイは緩めている。物凄く長い華奢な両脚にはガーターベルト付きの黒いニーソックスを履いていた。

 …………これは余談だが、この神代学園の女子制服は首元に着ける装飾品を彼女のようにネクタイにするか、或いはリボンにするかを選べたりする。

 ちなみに、アンジェは可愛らしい青色のリボンを付けていた。こっちの方が似合うと入学時に戒斗に言われて、それからずっと青色のリボンを付けている。

「ええと、今日は皆に転入生を紹介する」

 そんな風にアンジェが凄まじくグラマラスで綺麗な彼女を眺めていると、ざわつく教室内をひとまず鎮めた担任が口を開き。転入生の彼女を皆に紹介し始めた。

「今日から皆と一緒に勉強することになる、セラフィナ・マックスウェルさんです。ご両親の仕事の都合で、アメリカは西海岸のロス・アンジェルスからやって来た留学生だ。生憎と卒業までの短い期間になってしまうけれど……どうか皆、仲良くしてやってくれ」

 どうやら彼女、セラフィナ・マックスウェルという名前らしい。

 担任が今ザッと説明してくれた通り、彼女は合衆国からの留学生のようだった。

 それを聞いて、教室がまたざわめき出す。アンジェに続いて二人目の……とかなんとか、男子たちがにへらにへらと鼻の下を伸ばしながら話しているのが、アンジェ本人の耳にも届いてくる。

「……セラフィナ・マックスウェル、よろしく」

 そんな風に皆が噂話をする中、転入生の彼女はさっきから変わらない仏頂面、無愛想な顔で短くそれだけを名乗った。

「席は、ええと……あああそこだ。窓際から数えて二番目の列、一番後ろの空席が君の席だね。リュミエールさんのすぐ隣だから、分かりやすいと思う」

「……ええ、分かったわ」

 ぐるりと教室の中を見渡した後で担任にそう言われ、彼女はやはり無愛想な顔のままで小さく頷き。そしてそのまま、スクールバッグを抱えて教室内をコツコツと足音を立てて歩き始める。

 そんな彼女にクラスメイトたちは好奇の視線を向け、その一挙一動をじぃっと見つめていた。まるでハリウッド・スターが目の前に居るかのような、そんな熱の籠もった視線でだ。

 だが彼女はそんな皆の好奇の眼差しを意にも返さぬまま、スタスタと無言で教室内を歩き。そうすればアンジェの右隣―――今朝から急に増えていた空席に着く。

「よろしく」

 そんな彼女の方に視線を向けながら、薄い笑顔で挨拶をするアンジェ。

「…………ええ、よろしく」

 すると彼女は――――セラフィナ・マックスウェルは金色の瞳で横目の視線をアンジェに向けながら、ぶっきらぼうな調子で頷き返してくれた。

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