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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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第十一章:クライシス・ポイント/01

 第十一章:クライシス・ポイント



 ――――市街の中心部から少しだけ外れた場所に、県警本部がある。

「撃て、撃て撃て! とにかく撃ちまくれ!!」

「構わん、射殺許可は既に出ている!」

「奴らの狙いは此処だ、一歩も通すな!」

「近づかれる前に仕留めろ! 近づかれたら終わりだぞ!!」

 普段なら大した騒ぎもない、人通りも緩やかな県警本部ビル周辺の一帯。しかし今この場にあるのは目の前の大通りを行き交う車の喧噪でもなければ、人々の賑やかな声でもなく。今此処を支配しているのは絶え間ない銃声と悲鳴、そして息絶える者の断末魔だった。

 ――――バンディットの襲撃。

 県警本部を今まさに大挙して襲っているのは、異形のバッタ怪人が率いる正体不明の大軍勢に他ならなかった。

 百体以上のコフィン・バンディットが群がり、各々手にした銃火器で警察部隊を一人、また一人と射殺していく。それを統率するように草色のバッタ怪人……グラスホッパー・バンディットは後方に控え、腕組みをしたまま今はジッと状況を見つめていた。

 それに対し、県警ビルの入り口近くに陣を築いて応戦するのは、拳銃を持った大量の制服警官と私服刑事、そして緊急出動してきた特殊部隊……SAT(サット)や銃器対策部隊などの面々だ。

 SATに関して言えば、通常のMP5サブ・マシーンガンやバリスティック・シールド、自衛隊と同じ折り畳み銃床タイプの89式自動ライフルの他、近年頻発している敵性不明生物……バンディットのことだ。それへの対抗手段として新たに導入されたHK416自動ライフルや、大口径のHK417自動ライフル。威力の高いAX‐50対物狙撃ライフルに、M320グレネード・ランチャーなどの強力な外国製銃火器を携えた完全武装で応戦している。

 だが、そんな過剰すぎる重武装を以てしても尚、彼ら警察部隊は劣勢を強いられていた。

 制服警官や私服刑事の撃つグロック19自動拳銃、ニューナンブM60リヴォルヴァー拳銃などはまるで効果がなく、コフィン相手にも弾かれてしまっている。自動ライフルになるとコフィンを撃破することは叶うが、それでも一体につき数十発から数百発単位で撃ち込んでやっとという始末だ。

 この場で最も有効な対抗手段は強力な五〇口径のAX‐50対物狙撃ライフルと、そしてM320グレネード・ランチャーだけだが……これらは二挺ずつしか持ってこられず。またバンディットたちもこれを一定の脅威と判断したのか、どちらの射手も真っ先に数十体のコフィンに群がられ、既に殺されてしまっていた。

 それでも、主に矢面に立つSATは異形の軍団相手にかなりの善戦をしていた。

「うぐ――――」

「畜生! 一人撃たれた! 早く来てくれ……うわっ!?」

「やめろ、来るな来るな来るな!! アァーッ――――!?」

「群がられてる……アイツを早く助けろ!」

「駄目だ、俺たちの武器じゃ歯が立たねえ!」

「撃ち続ければその内死にやがる! とにかく撃ち続けるんだ!」

 だが、相手が悪かったとしか言えない。例え厳しい訓練を潜り抜けた精鋭たちだとしても――――この異形の大軍勢を前にしては、あまりにも無力だった。

 あるSAT隊員はコフィン・バンディットの放ったライフルの凶弾に斃れ、それを救おうとしたもう一人は別のコフィンに飛びかかられてしまい、ナイフで喉笛を掻き斬られて事切れる。それ以外にも一人、また一人とコフィンの凶弾、或いは凶刃に斃れていく。

 制服警官や私服刑事、それにSATの支援に当たっていた銃器対策部隊の面々も同様だ。ある制服警官なんか、気まぐれに飛び出してきたグラスホッパーの強烈な飛び蹴りを腹に喰らって吹っ飛び、本部ビルの壁に背中を叩き付けて絶命してしまっている。

 ――――絶望。

 尚も生き残り、激しい抵抗を続けている警察部隊の彼らを支配していたのは、ただただ深い絶望だけだった。

 こんな化け物相手に敵うワケがない。撃っても撃っても平気な顔でこっちに来やがる。どんな武器も歯が立たない。助けてくれ。逃げたい。殺される。死にたくない――――!!

 それでも皆が退かぬのは、ここで退けば無辜(むこ)の人々までもが犠牲になるからだ。例え敵わぬ相手だとしても、一体でも多く数を減らさなければ……それだけ、犠牲者の数は増えてしまう。

 だからこそ、皆は必死に歯を食い縛り。恐怖に震える手で……それでも各々の銃把を握り締め、尚も踏み留まってバンディットたちと戦っていた。

「――――」

 そんな皆の必死の思いを知ってか知らずか、大きく飛んでまた後方へと下がったグラスホッパーがスッと腕を振るい、周囲のコフィンたちに命令を下す。

 すると、前に出ていたコフィンたちは一斉に各々の銃火器を構え、一斉射撃で残りの連中を全て血祭りにあげんと引鉄に指を掛ける。

 もう駄目か――――自分たちに向けられた数多の銃口を前にして、誰もが諦めかけていた、そんな時だった。

「ウーラー! 騎兵隊の到着だ!!」

 何台ものバン車両が猛スピードでこっちに突っ込んできて、停まったそれのリアハッチが開き……すると中から飛び出してきたのは、見たこともない黒ずくめの兵士たちだった。

 白人に黒人、アジア系にヒスパニック。人種も様々な彼らはバンから降りてくると、巨大な五〇口径の自動ライフルを一斉にバッと構え。そしてすぐさま陣形を整えれば、バンディットに対して発砲を開始。すると驚いたことに、彼らはさっきまでの警察部隊よりずっと効果のある攻撃を繰り出していくではないか。

「あれは……」

 突然現れた謎の部隊と、その銃撃で一気に数体が撃破され……グラスホッパーの指示で一時的に後退していくコフィンの群れ。

 そんな光景を目の当たりにしていたSAT隊員がうわ言のように呟き、そして現れたバンの方に視線をやってみると……すると、その黒いバン。シボレー・エキスプレスの黒いバン車両の側面には、アルファベットでこう記されていた。

 ――――『P.C.C.S』と。

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