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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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第五章:逡巡と告白、変化の訪れは突然に/02

 ――――数十分後。

 セラも一緒に乗り込んだ有紀のコルベットの先導に従いつつ、隣にアンジェを乗せた戒斗は戸惑いながらも、彼女たちの後を追う形でZを走らせていた。

 学園を離れ、市街の中心部へと向かっていく有紀のコルベット。幌屋根が開け放たれているから、有紀の羽織る白衣の襟やセラの真っ赤なツーサイドアップの髪が風に靡いているのが、真後ろを走るZのフロント・ウィンドウ越しに戒斗たちにもよく見える。

 そうして夕焼けに染まる摩天楼の間を縫うように、二台連れ添って市街を走ること更に暫く。向かった先は、市街の中心部にある……どうやら官公庁関係らしい高層ビルだった。

 有紀のコルベットに従い、戒斗もそのビルの地下駐車場へとZを滑り込ませていく。

 長く緩やかなスロープを降り、地下駐車場へ。停まっている車の数も疎らなその地下駐車場の一角に、二台を隣り合わせにして停めると、戒斗たちはそこで車を降りた。

「……此処が、俺たちを連れて来たかった目的地なのか?」

「一応はね」と、コルベットを降りた有紀がニヒルな笑みを湛えて戒斗に頷き返す。

「目的地には違いないよ。まあ付いてきたまえ、まずは落ち着いて話せる場所に行かないとね」

 続けて有紀はそう言うと、やはり皮肉っぽい笑みを浮かべつつ……セラとともに、白衣を翻しながら先に歩いて行ってしまう。

 遠隔でZを施錠した戒斗も、アンジェと一緒に二人の後を追って歩き出した。

「こっちよ、二人とも」

 地下駐車場からビルの内部へと入り、そこから更にエレヴェーターに乗って地下へ。更に入り組んだ廊下を……妙にツルッとした壁や床の、まるでSF映画のセットのような廊下を歩いた果てに二人が辿り着いたのは――――広々とした、司令室のような場所だった。

「此処は……一体」

「な、なんだろうねカイト……」

 シュッと自動的に開いたドアを潜った戒斗とアンジェ、二人の目の前に現れたその場所は……やはり、司令室としか呼べない場所だった。

 広さ自体は学園の体育館ぐらいか、それよりもう少し広いぐらいだろう。床面は戒斗たちの居る辺りを一番高い位置として、そこから階段状に段々と下に下がっていくような奇妙な形をしている。突き当たりの壁面には、かなり大きなモニタが三つほど吊り下げられていた。

 司令室の構造自体はある意味で段々畑のようで、どこか大学の講堂にも似ている。こんな感じの構造になっている広めな講義室が戒斗の大学にもあったはずだ。尤も、此処はその比ではないぐらいの広さだが。

 そんな司令室の中には、コンピュータのモニタやキーボードが埋め込まれたデスクが何十個も並べられていて。そこにそれぞれ着いた……オペレータ要員だろうか。皆一様に同じ制服を着た、人種や男女様々なオペレータ要員たちが耳に嵌めたインカムのマイクに囁きかけつつ、忙しなくキーボードを叩き続けている。

 …………本当に、司令室としか形容のしようがない場所だ、此処は。

 喩えるなら、空自の作戦指揮所だ。何かの映画で似たような一室を見たような気がする。まして正面のモニタのひとつに簡易的な日本地図が表示されているから、本当にそのテの司令室かと錯覚してしまいそうになる。

「ようこそ、我らがP.C.C.Sの本部司令室へ」

 そんな司令室の様相に戒斗とアンジェが揃って呆然としていると、二人の前に立った有紀が凄まじく芝居がかった、あまりにも大仰な仕草でそんなことを口走る。

「P.C.C.S……?」

 だが、有紀が口走ったその名前……恐らくは組織であろうその名には聞き覚えがなかった。

 故に戒斗がそんな風に首を傾げていると、するとその意を戒斗たちに説いたのは――――有紀ではなく、横から首を突っ込んできたガタイの良い男だった。

「超常犯罪対策班P.C.C.S。国連が秘密裏に組織した、対バンディット戦を専門とした超法規的な対策チーム……それが俺たちP.C.C.Sだ」

 横からぬるりと戒斗たちの前に現れてそう言ったのは、かなり大柄な男だった。

 年頃は……四十代半ば頃といったところだろうか。背丈はセラと殆ど変わらない一八六センチで、髪は茶髪でオールバック。彫りの深い顔付きは男らしいといった言い方が適切なぐらいにワイルドで、体つきはかなりマッチョだと一目で分かるぐらいには肩幅が広く、そしてガッチリとした体格だ。

 そんな男の格好は、ビシッと制服を着た他のオペレータ要員たちと異なり、袖を折って襟元を緩めたカッターシャツ一枚に、後はスーツパンツだけというかなりラフな出で立ちだった。

 こんな堅苦しい雰囲気の中では、些か気楽すぎるようにも思える格好の男。だが彼がそんな不作法を許されるだけの立場にあるということは、男の自信に満ち溢れた清々しい表情を見て戒斗はすぐに察していた。

「……アンタは?」

 現れたそんな男の顔を小さく見上げながら、戒斗が問うと。すると男は「おっと失礼、名乗るのが遅れてしまったな」と白い歯を見せながら、失敬失敬と言わんばかりに小さく笑んで。それから改めて、初対面の戒斗とアンジェに対し自らをこう名乗ってみせた。

「俺は石神(いしがみ)時三郎(ときさぶろう)。一応はこの超常犯罪対策班、P.C.C.Sの総司令官って奴をやらせて貰っている。君らのことはセラくんや有紀くんからよく聞いているよ。戦部戒斗くんに、そしてアンジェリーヌ・リュミエールくん……いいや、神姫ヴァーミリオン・ミラージュ。俺たち一同、君らを歓迎するよ」

 男は――――石神時三郎は爽やかにそう名乗ってみせると、握手を求めるように戒斗たちの方へスッと手を差し出した。

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