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幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ  作者: 黒陽 光
Chapter-03『BLACK EXECUTER』
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第五章:逡巡と告白、変化の訪れは突然に/01

 第五章:逡巡と告白、変化の訪れは突然に



 ――――それから少しが経った、ある日のことだ。

「カイトーっ」

「……来たか」

 夕刻頃。放課後を迎えた神代学園の校門前にZ33を横付けして、それに寄りかかりながら戒斗がいつものようにアンジェの帰りを待っていると。すると校門の奥から……やはり普段のようにセラを引き連れたアンジェが、こっちに向かって手を振りながら小走りで駆け寄ってくる。

「おかえり、アンジェ」

「うんっ、ただいまーカイトっ」

 笑顔で駆け寄ってきた彼女を出迎えて、戒斗は寄りかかっていたボディから離れつつ助手席側のドアを開け、サッとアンジェを車に乗せてやろうとする。

「――――ちょっと待って」

 そうして開いたドアの向こう、車の助手席へと彼女が乗ろうとした時だった。一緒に付いて来ていたセラがそう、唐突に呼び止めたのは。

「ん、どうしたのセラ?」

 呼び止められて、アンジェはきょとんとしながら背にした彼女の方を振り返る。

「……?」

 戒斗も同じように、セラの方へと振り返ってみた。

 すると、何故かセラは凄く複雑そうな表情をしていて。いかにも何か言いづらいことを二人に話そうとして、その踏ん切りを心の中で付けている最中のような……今の彼女が浮かべているのは、そんな顔だ。

 でも、どうして彼女がそんな顔をしているのか、その理由まで二人には分からない。

 だからこそ、アンジェも戒斗もきょとんとした顔でセラの方を見ていたのだが――――。

「ねえカイト、あれってさ……」

「……間違いなく、先生の車だな」

 そうしていると、遠くから聞き覚えのある図太いV8サウンドが聞こえてきて。そんな音の聞こえた方にチラリと視線をやった戒斗とアンジェが目の当たりにしたのは……こちらに近づいてくる、凄まじく見覚えのあるスカイブルーの機影だった。

 …………一九七一年式、C3型シボレー・コルベット・スティングレイ。

 黒い幌屋根をバッと開けて、気持ちよさそうに走るコンバーチブル――――分かりやすく言い換えればオープンカー。あんな物凄く既視感のある車に乗っている人間なんて、敢えて運転席に座る白衣の女を見るまでもなく、二人には分かりきっていたことだった。

「やあ二人とも、元気そうで何よりだ」

 ボロボロと古めかしい音を立てて、戒斗たちのすぐ傍にまで滑り込んで来たコルベット。その左ハンドルの運転席から顔を覗かせ、普段通りニヒルな笑みを湛えながら二人を見る彼女は――――当然ながら、篠宮有紀だった。

「有紀さん、どうして此処に?」

 まるで見計らったかのようなタイミングで滑り込んで来たコルベットと、それを駆る有紀。唐突に現れた彼女を前に、アンジェは驚いた顔で首を傾げる。

 …………どうして、有紀がこんなところに現れたのか。

 普通に考えれば、まあセラに用事があったとか、そのついでに迎えに来たとか……その辺りだろう。どうやら二人は知人の間柄のようだし、戒斗がアンジェを迎えに来るように、有紀がセラを学園まで迎えに来たって……まあ不自然というほどではない。

「――――アンジェ、それに戒斗も。二人とも、今からアタシたちに付き合って貰うわ」

 しかし有紀がこの場に現れた理由がそういった類のものではないことは、意を決した顔で二人に告げるセラの言葉と、そのシリアスな語気と表情が何よりも物語っていた。

「セラと……有紀さんに?」

「付き合う分には構わないが、一体俺たちに何の用が……?」

「大事な話があるのよ、二人には。とても……とても大事な用が、ね」

 突然言われた戒斗とアンジェは戸惑い、そんな二人を前にセラは神妙な面持ちでそう言うが。しかし二人とも深刻な話であることは分かれども、どういった話なのかまではまだ理解していない風だった。

(ま、当然よね……)

 仕方のない話だ。二人ともまだこちら側の秘密は知らないのだから。セラフィナ・マックスウェルと篠宮有紀、二人の真なる顔を知らないのだから。戒斗たちが未だに理解が及んでいないような反応を示すのも、仕方のない話だった。

 だからこそ――――セラは意を決し、戸惑う二人へと更に一歩、歩み寄る。

「セラくん、百聞は一見に如かずという言葉がある。論より証拠って奴だよ」

「はぁ……仕方ない、か」

 ニヤニヤとしながら有紀が横から口を挟んでくる傍ら、小さく溜息をついた彼女はスッと軽く胸の前に右手を掲げると――――手の甲に出現させたフェニックス・ガントレットを、彼女が神姫である証を二人に見せつける。

「セラ、これって……!?」

「まさか……君があの神姫、なのか……?」

 短くも眩い閃光とともにセラの両手の甲へと現れた、赤と黒のフェニックス・ガントレット。

 それを目の当たりにして驚く二人に対し、セラは短く「そうよ」と頷き返す。至極神妙な面持ちで、鋭い金色の瞳で、二人の驚く顔を見据えながら……セラは続けて、やはりシリアスな声音で戒斗たちにこう告げた。

「これを見せた意味、分かるわよね? …………少し、アタシたちに付き合って貰うわよ」

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