04 恩返し
おそらく虫の居所が悪かったのだろう。
彼らは宿に泊まる前にあった何かしらの、自分達ではどうにもならない問題へのうっぷんを、私という弱者を使って晴らそうとしているようだ。
彼等の刀の錆になってたまるものかと身構えるが、間に割り込む者がいた。
その影は、体格の良い武士だった。
けれど、あれくれ者という雰囲気がなくて、強者である事をうかがわせつつも、そのたたずまいからは理知的な雰囲気を感じた。
「暴力はいけません、武士の刀は弱い女性に振るうものではありませんよ」
どこか人ならざる気配のある、あやしげに笑う第三者。
振るわれた刀を親指と人差し指でぴったりと掴んでとめたその男は、意味深に笑った後、男たちはなぜか「ひぃっ!」と恐ろしい物でもみたかのように悲鳴をあげて、逃げて行った。
事態の行方を見守っていた客たちが、唐突な第三者へ拍手喝さいをあびせる。
「ありがとうございます」
「なに、恩を返しただけです。こちらこそ美味しいご飯をありがとうございました」
はたしてこのような、強く印象に残る者を宿に泊めたことがあっただろうか。
首をかしげながら、去っていく若者を見つめていると、彼の腰から紐でぶら下がっている巾着が布ではなく、あぶらあげだったのがみえた。
宿を出て通りを見るが、そこには人影などはなく、遠くを走っていく四つ足の獣の影が見えるだけだった。