第08話 尾行する少女
(眠い――)
後日。学校の自分の席で大きなあくびをする。
昨日、結局寝れたのは三時半頃だった。
眠い。
「――大きなあくび、昨日寝れなかったの?」
「ん、あぁ、蒼。色々あってな」
蒼が心配して声を掛けてくれた。
「珍しいな。またオカ研関係か?」
「そんなとこだな……」
中村は俺がオカ研で何をしているのか知っている。
だから、事情を察している。
「あはは、霧島さんって強引なんだね」
「そらな。こいつを折らせるくらい強引なんだ。この学校一だろ」
「霧島さんってもっと、大人しくて本を読んでるイメージだったよ」
「そうか? 去年のスポーツ大会とか凄かっただろ。陸上部全員抜いてリレー1位だったぞ」
蒼と中村の会話を静かに聞いている。
確かに、あの人はオカルトが絡まなければ完璧と言える。
容姿は……あの瓶底メガネでよくわからないが、期末模試の首席でスポーツ万能、その上お金持ちだ。
ホント、なんであの人はオカルトが絡むとあんなにダメ人間になるのか不思議で仕方ない。
「さて、この話はここまでとして……」
「ん、どうした中村」
中村が俺に顔を近づける。
「なんで、芦屋さんがあんな遠くからお前を見てるんだ?」
「いや、それなんだが本当に分からん」
「教室の扉の後ろからこっそり見てるけど……バレバレだね」
蒼は苦笑い気味に言った。
そう、今日来た時から芦屋が見てくる。
今は教室の扉から顔を半分だけ出して、こちらを覗いている。
昨日までは後ろをくっついて来てたのに、なんであんな所から見てくる。
「何かしたのか?」
「いや、なにも……あっ」
昨日の夜を思い出す。
「えっ、何かあったの!?」
「い、いや、何もなかった……事もなかったが、芦屋は寝てたし」
「芦屋さんが寝てる間に何したの!?」
蒼の大きな声に周りの奴らが、こちらを見る。
あぁ、本当に何もしていないのに、軽蔑した目を向けられるのはごめんだ。
ここは皆に聞こえるように弁明しておかなければ。
「ちょ、蒼! 誤解を招くような言い方をしないでくれ!」
「最低だな。だけど、安心しろ生命。お前が刑務所に行っても俺は友達だ」
「なっ、違うって! 本当に何もなかったんだよ。それに、黒先輩も一緒に居た」
「お、おい、まさか三人で……」
おい中村、それ以上言ったら殴るからな!
周りの女子が一歩引いたのを感じる。
違うからな。本当に俺は無実だ!
「最低だよッ生命のバカッ!!」
「なんでそうなんだよ!?」
涙目で怒る蒼。
どうしてこうなる!?
泣きたいのはこっちだ。
「ま、冗談はここまでにして、本当に何があったんだ?」
「お前の冗談の方が最低だよ……。まぁいい」
俺は一度ため息をつき、泣き止んだ蒼とにやけ面の中村を見る。
こいつらなら、別に話してもいいだろう。
昨日の夜の出来事を話す。
「なるほどな。それまた不思議な事になってんな」
「というか、どうやって生命達もイーヨンに入ったの?」
「あぁ……黒先輩が鍵を用意しててな」
「霧島さん……何者なの」
あの人って、出来ない事はないんじゃないかってくらいなんでも出来るからな。
一年近く一緒に居るが何者なのか分からない。
「まぁ、今の話を聞いた感じ、あぁなる原因がわからんな」
「そうなんだ。こっちが近づくとどこか行っちゃうし」
「借りてきた猫みたいだね」
苦笑いで言う蒼。
的を射た例えだな。
「とりあえず、放課後まで様子見してみるか……」
俺は芦屋を放課後まで放置する事にした。
授業中。教科書を立てて、顔を隠しつつ横目でこちらを見てきた。
休み時間。芦屋は足早に教室を出たと思ったら、また窓の隙間からこちらを覗いてきた。
昼休み。うちの学校は屋上が解放されている。
だから、いつもお昼は中村と蒼と屋上で食べている。
流石にここまでは来ないだろうと思っていたが、屋上の貯水タンクの裏からアンパンを食べつつ俺を覗いていた。
そして、放課後。いつも通りオカ研の教室に向かっているのだが、後ろをこそこそと芦屋が付いてくる。
もう、堂々とついて来ればいいのではないだろうか。
オカ研の教室の扉を開けてオカ研の教室に入る。
いつも通り、黒先輩は先に来ていた。
「お、生命君に……芦屋君は何故そんなに距離を置いているんだね?」
「気にしないで」
扉の間からこちらを覗く芦屋。
今日初めて声を聞いた。
「うむ……気にしないでと言われても、そんな不審者みたいな事をされては無理じゃないかね」
「俺も朝から気になって仕方ない」
「……え、バレてる?」
無表情を少し崩し、驚いた顔をする芦屋。
というか、廊下ですれ違うやつ全員芦屋に気づいていた。
「え、バレてないつもりだったのか?」
「……やっぱり、何か特別な力を」
なに、そのいきなりの厨二設定。
「いや、蒼にも中村にも気づかれてたぞ」
「……そんなバカな」
芦屋はショックを受け、膝を突く。
「バカはお前なんじゃないか」
「……」
次は手を突いた。
あ、流石に言い過ぎてしまった。
「生命君、例え本当にそうだったとしても女の子にバカなんて言ってはいけないよ」
「……」
うわ、えぐい黒先輩。
優しい言葉をかけるふりしてボディーブロー決めた。
芦屋が口で「がーん」と言った。
これは重傷だ。
「黒先輩がとどめ差しましたね」
「え、あぁ! すまないのだよ芦屋君!」
黒先輩は芦屋に頭を下げる。
なんだこの光景……。
「んで、なんで俺を尾行してたんだ?」
「……それは、川畑君の秘密を知る為」
「は? 俺の秘密?」
「そう、何か隠しているはず」
え、俺って何か隠しているのか?
隠してないと思うが……。
「そうなのかい? 生命君」
「いや、俺に秘密とかないと思うんですけど」
「いやある……川畑君は知らないけど、秘密はある」
俺が知らない俺の秘密ってなんだよ。
真剣な面持ちの芦屋。
冗談を言っている風には見えないが、芦屋の言っている事がよく分からない。
「俺が知らない俺の秘密ってなんだそれ……」
「それはあれじゃないかね。自分は気づいていないが自分にはとてつもない力が! 的な!」
「それはないでしょ」
「……詳しくは言えないけどそんな感じ」
「え、マジ」
「なんかオカルトと少しジャンルが違うけど、いいじゃないか!」
なんで黒先輩はテンション高いんだ。
「というか芦屋、俺の秘密を探りたいにしても、尾行はやめてくれ。前みたいに普通にしてたらいいだろ」
「……確かに」
そう言うと、芦屋は教室に入ってくる。
正直、尾行にはなっていなかったが、鬱陶しさが凄かった。
芦屋のバレバレの尾行のせいで、いろんな奴らか見られるし、この調子で毎日いられたら絶対に悪い噂が立つ。
芦屋が席に着くと黒先輩が「んんっ」と咳ばらいをして話し始めた。
「さて、昨日は残念ながら収穫無しだったが……今度はどこを調査しようか!」
「えぇ、また行くんすか」
「当たり前だよ! オカ研の活動目的を忘れないでくれたまえ!」
オカ研の活動目的は様々なオカルトスポットを巡って、オカルト的な物を見つける事。
だが、活動を初めて早一年、一度もオカルト的な物を見つけた事は無く、ただの小旅行となっている。
もう、旅行研究会とかに改名した方がいいのではないだろうか。
「まぁ、いいですけど……今度はもう少し早めにしてくださいね」
俺は机に肘を突いた。
「どこに行くの……?」
「そうだね。次は――あれ、芦屋君もついてくるつもりかい?」
「駄目なの……?」
ふむ、やっぱり芦屋はオカルトが好きなのか。
意外だな。
「うむぅ……私も出来れば芦屋君を同行させたいのだが。流石にオカ研に所属していない者を連れる訳には」
確かに、黒先輩の言う通りだ。
研究会に所属してない人を、巻き込んで事故なんかがあった時に責任を取れない。
オカルトが絡むと、何も考え無しに突き進む人かと思っていたが、ちゃんと常識はあるようだ。
「分かった。私、オカ研に入る」
……なんともあっさりと芦屋は言った。
「……えぇ!? そんなあっさりと!?」
黒先輩は驚いた顔をしていた。
一週間、勧誘し続けても断られていたのに、こうもあっさり入られたんだ。
驚くのも仕方ないだろう。
「これって、勧誘成功って感じでいいんすかね」
「え、あぁ、そうだね。君のおかげだね……しかし、あれだけ勧誘しても入ってくれなかったのにこうもあっさりと……」
驚いているが、嬉しそうな顔をしている黒先輩。
だが、俺は勧誘が成功した事よりも嬉しい事がある。
そう、それは一週間ほど前に黒先輩と約束した事だ。
「……黒毛和牛ゲットだぜ」
「……忘れていなかったのだね」
ランキングTOP10に入れた記念という事でイラストを依頼しました!
モデルは【芦屋透香】です!
タイトルは【色】です!
絵師の【天崎様】に描いて頂きました!
これも全て読んでくださる読者皆様のおかげです。
これからも【転校してきた白髪不思議っ子さんが何故か俺の後をついてくるんですが】をよろしくお願いいたします!




