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第03話 川畑兄妹

 あの後、買い物を済ませ帰路の途中、俺は顔を真っ赤にしていた。


(――あぁ、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃ!!)


 俺の馬鹿野郎! なんであんなくっさい事言ったんだよ!!

 何が――


 ――「でも――芦屋さんが優しいって事くらいは分かった」だ!


 ――「いや、芦屋さん笑ってる方が可愛いな」だ!


 ――「そうかもな。一人ぼっちの女の子をほっとける男なんていないだろ?」だ!!


 恥ずかしいいいいいい!! ここが公道じゃなければ転げまわって悶えている。

 臭すぎる、臭すぎるんだよ!!

 俺って、あんな事言う性格じゃないだろ!!

 恥ずかしいなぁぁぁぁぁああ!!!


(誰か俺を殺してくれええええええ!!)


「ぐへへ、美味そうな人間だ」


 顔を真っ赤にして歩いている俺の前に俺より赤い肌の角の生えたおっさんが立ち塞がった。

 こんな時になんで俺はおっさんの幻覚なんて見てるんだ。


「――邪魔! 幻覚にかまってる場合じゃないんだよ!!」


 俺はこの羞恥心と戦ってるんだ。

 目の前に立つ幻覚を手で払う。


「ウゲッ――!?」


 そうすると幻覚はいつも通り息を吹きかけた湯煙の様に消える。

 はぁ、明日芦屋さんに会ったら絶対に恥ずかしくなる。


 ……でもあの時、彼女を放っておけないと思ったのは本心だ。

 柄でもないがあの言葉も本心だ。


(でも恥ずかしい物は恥ずかしいんだよなぁああ!!)




 家に帰りついた。

 なんだかいつもの倍以上歩いた気がする。

 いや、実際気持ちが落ち着くまで遠回りで帰ってきたから、いつもより歩いてはいるが……。


「ただいま」

「…………」


 帰り、玄関を開けると光がこちらを向いて立っていた。

 ……出かけるところだったのか?

 ま、話しかけても無視されるし、横を抜けて台所に向かうか……。


「ねぇ」

「うおっ――!?」


 光の横を通り抜けようとしたら声を掛けられた。

 いきなりの事に驚いて、変な声を出してしまった。


「何驚いてんのよ」

「……い、いや、お前から話しかけてくるなんて一年くらい無かったからな……驚くだろ…………」

「…………ねぇ」

「な、なんだ?」


 というか、なんで玄関で腕を組んで仁王立ちなんだ。

 なんか、怒らせる事でもしたか?


「今日、白髪の女の人とカフェで話してた…………」


 ん、それってさっきの…………。

 ま、ま、まさかアレ聞かれてた!?


「あの人、誰……?」

「あぁ、あの人は今日転校してきた芦屋さんだ……」


 いや、あの時会話が聞こえる範囲に人は居なかった。

 そもそも、光がわざわざ俺の会話を聞くわけがない。

 チラッと、見えて気になっただけだろう。


「なんで、一緒にいたの? ……も、もしかして彼女とか?」


 あぁなるほど、光はそういうのが気になる年頃だもんな。

 芦屋さんは美人だし、そこも気になるんだろう。


「友達ですらないよ。一緒にいたのは、まぁ……ちょっと迷惑をかけたからお詫びで白熊奢っていただけだ」

「……ずるい」

「え……?」


 ずるいって何が、俯く光の顔は少しだけ悔しそうな感じだった。


「私も――」


 光はギュッと拳を握っている。


「お兄ちゃんと、白熊食べたかった……」


 ……なるほど、そうか光は――


「――そんなに白熊好きだったのか……」

「えっ」

「分かった! 久しぶりの妹の頼みだしな。買ってくるな!!」


 俺は買い物袋を玄関に降ろして、一番近くのコンビニに向かう。






――川畑光SIDE――


 ――お兄ちゃん行っちゃった……。

 お兄ちゃんが出て行った玄関に伸びている手を降ろし、お兄ちゃんが置いて行った買い物袋を見る。

 ……生肉に卵、今日の夜ご飯はハンバーグかな。


 ――「そんなに白熊好きだったのか……」


「違うよ馬鹿お兄ちゃん……」


 久しぶりに話せたな。

 私から話しかけたのなんて一年と二ヶ月と四日ぶりくらいかな……。


「好きなのは白熊じゃなくて……」


 ――お兄ちゃんだよ。


 それが言えたらどれだけ楽なんだろう。

 はは、我ながら自分のブラコンぶりは気持ち悪い……。

 お兄ちゃんが知らない女の人と話してて、それを見て嫉妬して問い詰めるなんて――


「――まるで恋する乙女じゃない」


 この気持ち、お兄ちゃんだけには知られたくない。

 お兄ちゃんに知られて引かれるなんて一番最悪だ。

 だから、このまま反抗期の妹を演じないといけない。


「なんで、お兄ちゃんと私は兄妹に生まれたんだろう……神様、恨みます」







――川畑生命SIDE――


 コンビニで白熊を買って、急いで帰ってきた。

 台所の方から音が聞こえる。

 という事は光は台所か。


「光ー、白熊買ってきたぞ」


 光は台所で料理をしていた。

 こねてるのはひき肉?


「あっそ。冷蔵庫入れて」

「あ、おう」


 なんだか、さっきより冷たい気がする。

 いや、いつも通りと言えばいつも通りなんだが。


「あ、料理俺がやるからいいぞ」

「いい、ここまでやったし私がする……」

「え、そうか……」


 いや、いつもよりやっぱり優しい。

 なんでだ……そんなに白熊好きなのか?

 白熊買ってくるだけで好感度がそこまで上がるなら、兄ちゃん箱買いするぞ?


「その代わり、お風呂はあんたがやって」

「お、おう! 任せとけ!」


 なんだか、妹との距離が縮まった。

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