進路~涙~
次の日の学校の帰り道。
拓海は私の顔を見て何かを感じとった。
「なあ、楓。家で何かあったんか?」
「ううん。別に」
拓海に心配かけさせたくなかった。
「いいや。その顔は何かあったな。楓の事くらい解るで。言うてみ」
拓海と別れろと言われているなんて言えるはずがない。
私は黙り込んでしまった。
「んー! 何やー! 気になる! こんなん俺、勉強どころやないで」
拓海は頭を掻きむしり、その手を止めた。
「引っ越しするんか?」
私は首を大きく横に振った。
「お義母さん、病気になったんか?」
私はまた首を横に振る。
心配してくれている。
拓海の事なんて言えない。
「・・・・・・俺のことか?」
私はふと顔を上げた。
「そうかー」
また俯いてしまった。
「俺、何かしたかなー。最近、親に顔見せに行ってないなー。楓がこんな顔してるって事はいいことじゃないなー」
その言葉に、あの日の夜のことを思い出した。
アホとは縁を切れ。
再び悔しさがあふれた。
涙が零れた。
「楓? 何で泣くん?」
「俺に言うてみ」
心配している拓海に話してみようと思った。
だけど言えない。
堅く閉ざしてしまった口。
返事すらできない。
妙に力が入り、震えて余計に口が開けにくくなっていた。
涙だけがぽろぽろと零れていた。
「楓」
拓海は優しい口調で私が言うのを待っている。
2人は公園のベンチに座った。
どれだけ時間が経ったのか、公園の外灯が点いた。
私は震えながら、途切れ途切れ、小さな声で、親が拓海の手紙を勝手に見たこと。
公務員じゃないと別れろと言われたこと。
やっと拓海に話せた。
拓海は黙って聞いていた。
そしてそっと立ち上がり、私の正面に立った。
「・・・・・・で、楓はどうしたいん?」
拓海がまっすぐな目で静かに言った。
「・・・・・・別れたくない。」
泣きながら、やっと出た小さな声で答えた。
拓海が私を抱え込み、引き上げ、力強く抱きしめた。
何も言わず。
私の涙が止まるまでずっと。
やがて、涙が止まってきた。
拓海は抱きしめた手をそっと解いて、静かに話し出した。
「楓、俺はなんと言われようが大丈夫」
拓海は話し続ける。
「楓の家柄を考えると、須藤家はみんな公務員やしな。でも、俺は学歴だけですべてが決まるとは思ってない。それに、俺が好きなのは楓や。親じゃない。親だけでなく、周りが何と言おうと俺は楓が好きや。楓が別れてって言うまではずっとそばに居る」
再び涙が溢れた。
今度は嬉し涙だった。
今度は私が拓海に抱きつきたかったけど、恥ずかしくてできなかった。
拓海の両手をギュッと握った。
拓海はその手をグイっと引き寄せ、優しく抱きしめてくれた。
公園の木の陰から静かに様子を伺っている人が居た。
私はもちろん、拓海も全く気付いていなかった。
薄暗くなった道。
拓海は家まで送ると自宅が見える所まで送ってくれた。
繋いだ手。拓海のその手はいつもより力が入っていた。
別れ際、拓海はもう一度私に言った。
「俺は楓が別れてというまでは絶対別れないから」
車のライトが通り、拓海の真剣な顔が一瞬照らされた。
まだ涙目になりながらまっすぐ拓海を見つめていた。
もう1台、車が通り過ぎた。
その時、拓海は私の肩を抱き口づけをした。
私は静かに目を閉じた。