進路~決断~
長い夏休みも終わり、いよいよ受験というものが身近に感じるようになった。
学校の帰り道。
いつもの4人で歩いている。
「なあ、拓海は志望校決めたんか?」
悠斗が拓海に話しかける。
私は後ろで舞と話しながら耳を傾けていた。
「いいや。俺の頭じゃあ、K高くらいしか無理かなー」
私はがっかりした。
同じ高校じゃなきゃ嫌。同じ高校がいい!
そう、心の中で訴えていた。
「K高って男子校やん。楓ちゃんと同じ所受けへんの?」
悠斗が私の心の中を読んだかのように巧海に尋ねる。
「そりゃー、高校も同じ学校に行きたいけど、俺の頭じゃあ受からんやろう」
拓海は人差し指で頬を掻きながら答える。
悠斗の説得が続く。
「まだ9月やで。もう諦めるのか?今からでも頑張ってみろよ。棒高跳びまだ引きずってるのか?」
「いや。あれはもう過ぎたことや。」
悠斗はニヤついた。
「なら、次に進めよ。楓ちゃんを喜ばせろよ。なっ!」
と拓海の肩を叩く。
「うん。そうやな! 悠斗。俺、やってみるわ!」
突然拓海は振り返り、私の手を引っ張る。
「楓! 行くぞ!」
「先に帰るわ!」
拓海は私の手を握ったまま、先に歩き出した。
舞は唖然とし、悠斗に尋ねる。
「急にどないしたん。拓海」
「やっと、踏ん切りがついたんやろう」
あっけにとられている舞とは逆に、悠斗はホッとしていた。
「ただいま!」
勢いよく自宅のドアを開ける拓海。
「おかん! 俺、勉強するわ。家庭教師つけてくれ」
拓海は前から家庭教師を付けさせると話は出ていたが
「家庭教師なんかいらん。楓とおる時間が減る。」
とずっと頑固拒否をしていた。
「おかえりー。やっと勉強する気になったー? 今からしても、もう遅いと思うけど。本当にする?」
台所で夕飯の支度をしている拓海のお母さんは振り返りながら話す。
拓海は私の手を取ったまま、台所へ行く。
「やる! 楓と同じ高校に行くんや」
拓海のお母さんの手が止まった。
「楓ちゃん、ありがとうね。やっと、やる気になったみたい」
と拓海のお母さんは微笑む。
「いえ、悠斗君が・・・・・・」
私はさっき帰り道の事を言おうとしたが、上から拓海の口が開く。
「おかん。明日からでもいいで。俺、マジでするから。あっ、でも女の人はあかんで。楓が余計な心配したらあかんから」
「私は別に・・・・・・」
大丈夫。
と言い切る間もなく、また拓海の口が開く。
「あかん。あかん。楓は心配になってても、言わへんやろ。」
私は、はい、御尤もです。
と俯く。
「はいはい。じゃあ、電話しとくわね」
こうして拓海に家庭教師が付くことになった。
この家庭教師の決断であんなに大きな波がくることなんて夢にも思わなかった。