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ドルフィンリング  作者: 春野 桜
4/9

中三の夏休み~全国大会~

 全国中学校体育大会。

 4日間に渡って行われる大きな大会。


 昨日は曇り、気温は30℃。

 午後からの開会式で一日が終わった。


 本日晴天。

 気温34℃。

 大会予選日。


 予選通過ラインは4m20。

 拓海の自己最高記録は4m40。

 普段通りに跳べば予選は難なく通過するだろうと誰もが思っていた。



 拓海の順番がきた。

 今のところ順調に4mと4m10を1回目でクリアした。

 コンディションは悪くない。

 あとは次の4m20をいつもの感覚で1回跳んで今日は終了。

 明日、決勝に出場する。

 そうなるだろうと拓海自身思っていた。

 楓にもらった手作りの御守りをギュッと握りしめてユニフォームにしまい込んだ。


 そしていよいよ長いポールを抱え4m20に挑んだ。

 

「拓海ー!頑張ってー!」

「拓海ー!」

 観客席から舞、悠斗が精一杯大きな声を上げた。

 私は拓海のかっこいい姿が観れると目を輝かせていた。



「あ~。」

 残念な歓声が上がった。

 拓海が失敗したのだった。

 足がバーに当った。

 うそっ! 拓海が失敗。

 でも、次は大丈夫だよね。

 棒高跳びは3回まで挑戦し続けることができる。

 あと2回。


 くそっ! 焦るな俺。

 緊張するな俺。


 拓海は軽くジャンプをして身体をほぐしなおした。


 そしてもう一度、拓海が長いポールを抱え、走り出した。

 

「あ~。」

 再び残念な歓声が響いた。

 あと1回。



 これがラストチャンス。

 跳ぶしかない。


 もう一度、御守りをギュッと握りしめた。



 拓海が走り出す。

 ポールを付け、ポールがしなやかに曲がり、拓海の体がぐんぐん空高く上がる。

 

「行けー!」

「飛べー! 拓海ー!」

 悠斗と舞が精一杯応援する。

 

「拓海ー!」


  私は立ち上がり、今までに出したことのない大声を上げていた。




 大会が終わった帰り道、途中から拓海と2人になった。

 私は拓海に何と声を掛けたらいいのかわからなった。

 舞が

「頑張ったね。決勝には進めなかったけど、こんな大きな大会に記録を残せたやん。すごいことやん。拓海だから出来たことやで。」

 と別れる前に拓海に声を掛けていた。

 私は何にも言えずに俯き、今も沈黙の中歩いていた。

 

 ふと拓海が公園で立ち止まり、口を開いた。


「ごめんな。かっこ悪いな。俺。」

 拓海を見上げると、拓海は片手で顔を塞いだ隙間から涙を零していた。

 私はとっさに首を横に振った。


「まさか予選で落ちるなんて。別に怪我してるとか、熱があるってわけでもないのに。決勝にすら出れないなんてな。」


 こんな拓海を見たのは初めてだった。

 いつも笑顔で明るくて、楽しくて、元気をくれる拓海・・・・・・どれだけ考えても拓海に掛ける言葉が見つからなかった。

 どうすればいい・・・・・・

 

「ははっ、楓も泣きそうな顔してるやん。あかんなー俺。楓をそんな顔にさせてしまうなんて。ごめんな。」

 

 とっさに首を横に振る。

 

 違う。首を振るだけだと、拓海のせいで泣きそうになってると思われてる。

 何か言わないと、舞みたいに何か言わないと。

 頑張ったね。

 お疲れ。

 かっこよかったよ・・・・・・今はそんな言葉聞きたくないかな。

 元気づけたいのに何も言えない。



 大会が終わり、部活引退となり、長い夏休みが終わろうとしていた。

 今ならきっと言える。

「精一杯やったやん。私はかっこよかったと思ってるよ。」



 眩しくて暑い太陽は静かに沈みかけていた。


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