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ドルフィンリング  作者: 春野 桜
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中三の夏休み~部活動~


 夏休み・・・・・・といっても中学生の夏休みはほぼ毎日部活動。

 受験を控えている3年生はほとんどの部が7月で引退。

 でも、8月に大会がある陸上部は大会後に引退。

 拓海はその陸上部に所属。

 棒高跳びをしていた。

 

 きっかけは中学1年生の春。

 出席番号順の席で、私と拓海は教室の一番前の席で並んでいた。

 私の反対側の隣には清水悠人。

 拓海の親友。

 冷静沈着で、物知り。

 用心深く、いつも真面目な顔をしていて私は少し苦手。

 でも何かと頼ってしまう。

 後に陸上部のキャプテンを務める。

 

 午後の授業中。

 教科書を片手にした先生が教室の後ろの方へ歩いて行った。

 その時、悠斗が私に四つ折りにした手紙を渡してきた。

 私は悠斗を見て首をかしげた。

 悠斗は「あっち、あっち」と口パクで拓海を指さしている。

 拓海は居眠りをしていた。

 私は拓海の腕をちょんちょんと突いた。

 

 拓海は勢いよく立ち上がり

「はいっ! 解りません」

 と大きな声を出した。

 教室の後ろに回っていた先生が振り返った。

「んー? 阿部ー。今は質問してないぞ」

 教室内がドッと笑った。

 拓海は辺りを見渡し、静かに着席した。

 私は両手を合わせてごめんのポーズをして手紙を拓海へ手渡した。

 悠斗も片手ですまんのポーズをしていた。

 拓海は右手の親指と人差し指を合わせ、笑顔でOKサインをした。

 

 先生は教室の前へ戻り、黒板に文字を書き始めた。

 今度は拓海が返事を書き、手紙を私に渡してきた。

 私はそれを悠斗に渡した。

 すぐにまた拓海が手紙を渡してきた。

 私が悠斗に渡そうとしたら、拓海は慌てて

「ちょいっ!」

 と声を出した。

「阿部ー。どうした?」

 黒板に文字を書いていた先生が振り返った。

「いや、何にも」

 私は拓海を見て首をかしげると、拓海は口パクで「か・え・で・に」と伝えていた。

 私は再び両手を合わせた。

 机の下で手紙をそっと開いた。

[今日、これが終わったあと、悠斗と陸上部の見学する。楓も一緒に行こな。P.Sこの先生、陸上部の先生らしいで。byどこでも楓と一緒に居たい拓海]

 私は拓海を見て頷いた。



 放課後。

 拓海、悠斗、私の3人は陸上部の見学へ行った。

 我が中学校は陸上に力を入れていて同じ陸上部でも種目ごとに別れていた。

 校庭では短距離走、長距離走、ハードル・・・・・・


 うわっ! かっこいい・・・・・・

 私は釘付けになった。

 自分より長い棒を抱えて走り、遙か上にあるバーを華麗に越えていた。

 棒高跳び。

 

 拓海は私をのぞき込むように

「楓、俺があれをしたら惚れ直すか?」

 と、悪戯な顔で聞いてきた。

 ふふふっ

 私は、拓海の顔が近く、恥ずかしくなって吹き出した。


「よしっ! 悠斗! 棒高跳びやろう!」

 拓海が悠斗の肩に手を置いた。

「あのなー。拓海。簡単に言うなよー。やったことあるんかー?」

 悠斗はそっと拓海の手を外す。

「あるわけないやん。やったことないから、やってみるんやん。楓が俺以外の男子、見えんようにしたる」

「やったことないからやってみるか・・・・・・そりゃそうやな」

 と悠斗は少し棒高跳びを眺めてみた。


「わかった。やってみよう。付き合うわ」


 こうして拓海と悠斗は陸上部の棒高跳びを始めた。


 私も同じ部に入りたかった。

 喘息があるからと親から猛反対され、自分の意思を通せずに諦めた。

 窓から運動場が見える美術部に所属した。

 美術部の引退は自由。

 描きたい絵があるなら描き上げるまで描いてよし。

 私は特に描きたい絵はなかったが、夏休みも拓海に逢いたい為、陸上部の部活動日に合わせて登校していた。

 

 美術室はクーラーが無く、いつも窓を全開にしていた。

 私は窓際にキャンパスを立て、心地よい風に当りながら、ぼんやりと陸上部をながめていた。

 「楓―、楓―」

 美術部の部員が私に声を掛けているが、気が付かずに拓海を見つめている。

 

 校庭では巧海が竹兄に何やら指示を受けている。

 竹兄は陸上部の顧問の先生。

 陸上部の見学で私が釘付けになって見ていたのはこの先生。

 部員にお手本として跳んで見せていた所だった。

 竹田大輝。

 23歳の新人、国語科教師。

 他の先生と比べると、私たちに年が近いせいか、先生というより、兄ちゃんっていう方がしっくりする。

 優しくて、穏やかで、理想のお兄ちゃん。

 

 拓海が長いポールを抱え、走る準備をしている。

 

 自然と私の筆が止まる。

 あっ、走った!

 

 拓海が長いポールを抱え助走路を走っている。

 

 真剣に走っている姿もかっこいい・・・・・・。


 ポールを地面に付かせるとしなやかに曲がり、拓海の体が宙に上がる。

 

 カタン・・・・・・私は立ち上がり、片手に筆を持ったまま、窓から身を乗り出す。


 飛べ! 

  

 拓海の手からポールが離れ、体がバーを越えていく。

 

 やったー。飛べた。何度見てもかっこいい・・・・・・

 顔を赤くして見つめていた。


 校庭では拓海がマットから起き上がり、こっちを向いて大きく手を振っている。

 すぐさま私は手を振り返した。


 拓海はマットから降り、大きな声を上げながら爽やかな笑顔で周囲とハイタッチを交わしている。 まさに青春の一ページ。

 

 いいなー、私もあの中に入りたい・・・・・・

 やっぱり同じ部に入ればよかったな・・・・・・

 

 私は片手に筆をずっと持ったままため息がでた。

 

 「もー、楓―!」

 大きな声でハッと我に帰る。

 「ごめん、ごめん。何?」

 「もうそろそろ片付けしないと終了時間やで。他の人、先に帰ったよー」

 時計を見ると部活終了五分前だった。

 「あっ、ホントだ。ありがとう」

 「また阿部君見つめてたんやろー」

 私は少し恥ずかしくなり、「えへっ」と舌を出す。

 「しょうがない嫁さんやなー。私、用事があるから先に出るねー。鍵お願いねー」

 誰も居なくなった静かな部室で一人片付け始める。外を見ると陸上部もマットを片付け始めていた。


 片付けを終えて、校門へ行くと拓海、悠斗、舞が待っていた。

 「おー、お疲れー」

 拓海が笑顔で手を振っている。

 私は急いで駆け寄った。

 

 小笠原舞。

 少しぽっちゃりしている。

 ダイエットのためと中学1年生の秋頃から陸上部のマネージャーを一生懸命している。

 ボブカットが似合っていて、ハキハキしていて、可愛くて、女の子って感じ。

 

 よく4人で一緒に居た。

 この頃の私は拓海のこと以外、何も考えていなかった。

 悠人には勝手なときだけ頼って、舞には拓海のことばかり話して。

 人の気持ちなんて考えようともしていなかった。


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