後
「素敵!それこそ幼馴染みの恋愛の醍醐味よね!あった瞬間に運命を感じるの。
それを胸に秘めて長年温めて、15年越しに恋が成就したのよ!」
「感じたのは運命じゃなくて神々しい同族意識で、秘められた思いでもなんでもなかったけどな。
俺、高校最後の一年砂吐きっぱなしだったから!
…まぁ、何で蓮花が斎しか見えてないのか良ぉく分かったわ。」
純香さんが興奮したように、臣くんが呆れたように口々に話す。
でもさ、とふといたずらを思いついたように、ニヤリと悪い笑みを漏らす臣くんに、気味の悪さを感じて少しだけいっくんとの座る距離を詰める。
「もし、斎以外に助けてくれるやつが現れたら、お前どうするんだ?」
「どうするって?」
臣くんが言いたいことが全然分からなくて、きょとんと首を傾げる。
「だってさ、斎がお前の正義のヒーローだから好きになったんだろ?
斎以外のヒーローが現れたら、シチュエーションによっちゃあ、そっちの方を好きになる可能性もあるってことじゃん。」
正臣!と、純香さんが窘めるようにキツく臣くんの名前を呼ぶ。
「えぇ…?そうかなぁ?」
それって私、かなりちょろインなんじゃ、と考え込む私に、純香さんが焦ったように声を上げる。
「待って蓮花ちゃん!気にするとこそこじゃないから!」
んー、と考え込む私は、そこではたと気付く。
「…ん?ちょっと待って?
私がいっくんじゃない人に助けられるってことは、いっくんが私じゃない人を助けるってことだよね?」
鬼気迫るように設定を確認する私に、臣くんがうおっと言って仰け反った。
「そんなにホイホイ不幸体質なやつがいるとは思わないけど…、結果的にそうなる、のか?」
私の脳内にもわわんと、シチュエーションが再生される。
いっくんが美女を助け出して、熱く見つめ合って、そして…ーーーー。
「ダメー!ダメダメダメダメ!絶対ダメ!」
その妄想を掻き消したくて、手をバタバタと振り回す。
ヤバい、何その恐ろしいシチュエーション。
考えただけでHPに恐ろしくダメージを与えられた気がする。
先日、純香さんをいっくんの彼女だと勘違いして、ジェラシーなるものを学んだばかりの私には、致命的なシチュエーションだった。
「助けてくれるからって好きになるわけじゃないよ!
いっくんだから好きなんだよ!
いっくんだから、他の女の人とイチャイチャしてたら死にたくなるくらい嫌だし、いっくんに嫌われたら生きていけないし、いっくんが助けてくれないならいっそ殺された方がマシだもん!」
「驚くほど重いな!」
私の魂の叫びに臣くんがドン引きしているのが分かる。
臣くんが聞いたから素直に思いのまま答えてあげたのに。
失礼な。
「15年分の愛だもの。重くもなるわよね。」
純香さんが臣くんの隣で訳知り顔で頷いている。
重いのは否定してくれないらしい。
何故だ。
むぅっと頬を膨らませていると、それまで静かな目で私たちを眺めていたいっくんが、テーブルの下でそっと私の手を握った。
いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
驚いて隣のいっくんを見上げると、いっくんは私の方を見ずに、反対側に顔を背けていた。
「いっくん、耳が赤いよ?」
目についたことをそのままいっくんに伝えると、いっくんは顔を背けたまま、私に「バカ。」と言った。
何で悪口言われないといけないのと、繋ぐ手に力を込めてぎゅうぎゅうと握り締める。
クスクスと笑う声に顔を上げると、もう耳が赤くないいっくんが、優しい顔で笑っていた。
ーーーーー
「やっぱりちゃんと人間なのよねぇ…」
「あ?」
「だって、斎ったら蓮花ちゃんがいないときは能面被ってるのかってくらい無表情じゃない?
だけど、あれ見てたらちゃんと感情あるんだなぁって…。」
「まぁ、結局あいつらどっちが違ってもダメなんだろ。」
「私も、正臣じゃないとダメよ?」
「……………ばーか。」




