アダマンタイト発掘…?
時間があったので二話投稿。
登場人物がドグサレ揃いなのは気のせいですかね…
工房に帰ってきたデービッドは鉱石を積んだ倉へ向かう。
「あんた倉なんて持ってるんだ?」
「工房だぞ?当たり前だろ。あと希少な鉱物もあるから盗むなよ。」
「聖女が泥棒なんかするか!」
平屋のような倉…一見小屋のように見えるがオーウェンは唸った。
「お前どんだけ厳重に警備を固めてるんだ?」
「簡単には破られない位には、だな。」
変哲のない木の壁に見えるが、中には分厚い鉄板が仕込んである。更に防護魔法を何重にもかけ、まるで城の宝物館のようだ。
倉を開けるデービッド。ミッシェルは発明品が所狭しと並んでいる光景を想像したが…
「…綺麗にしてるのね。」
几帳面に置かれた発明品の数々が取り出しやすいようにスペースを置いて並べてあり、ひとつひとつに表示がしてあった。
「トロイがうるさいんだよ。」
「あっしは部屋が綺麗でないとイライラするタチでしてねぇ。」
くしくし、と顔を洗うトロイ。
「可愛い。」
ぎゅう、とトロイを背後から抱きしめるミッシェル。トロイは気持ちよさそうに喉を鳴らした。
鉱物のスペースは地下にあり、デービッドは明かりをつけた。
天井にあるガラスが輝き辺りが明るくなる。
「これ魔法?」
暗い地下室が急に明るくなった為、ミッシェルは驚きデービッドに問う。
「いや電撃魔法から発想を得てガラスの筒に電子を放出するようにした。蛍みたいな明るさだから蛍光灯って名付けた。」
「どうなってんの?これ。」
「詳しい仕組みを解説してやりたいが今はそんな暇は無い。」
電力の供給源は屋上に置いている風車とパネルだ。蓄電しようにもすぐに散ってしまう上に庶民には無理な位コストがかかるため、この技術は公表しないようにしている。
魔法石があれば全て解決するが、魔法石に頼らずというのがデービッドの発明の矜持だ。
「えーとミスリル、銀、銅、金、ダマスカス、珪石、緑柱石にオリハルコン…」
鍛冶屋やドワーフ垂涎ものの鉱物…デービッドの財産はこれだ。
故に厳重に警備を固めており、デービッドとトロイの持つ鍵でしか開かないようにしている。
…一度倉にオベロンが倉に閉じ込められ、えらく立腹されたがそれはそれだ。
「…あれ?無い?」
「うーん…何かに使いやしたかね?」
デービッドとトロイが首をかしげる。
「あれじゃあ。酔狂な料理人がエクスカリバーの包丁作ったじゃろ?」
ソルが思い出したように話す。
「あー、思い出した。万能包丁に柳刃に色々作ったな。」
「研ぐ手間が省けると言いよったが、乱雑に扱って折れなければいいんじゃがのう。」
がっはっは、とソルが笑う。
「その時にアダマンタイトを使い切ってしまったのか。面倒な。」
公務をすっぽかして遊びに来ているオベロンが顔をしかめる。
アダマンタイトは発掘するのも面倒だが運搬にも手間がかかる。
重量がある為に馬を引かせて運搬をするのが定石だが、距離が長いと馬がへばってしまいとても時間がかかるのだ。
故にコストに見合わず採掘がされないので幻の鉱物とされている。
「アダマンタイトの鉱脈自体は一日くらい歩いた所にある洞窟にあるぞい。じゃがあそこは不死者の巣じゃからなぁ。」
「あんまり時間をかけると移動中にリッチに出くわす可能性もあるってわけか。材料見りゃ何作るか丸わかりだろうしリッチなら襲ってくるだろうな。」
「アダマンタイトの在庫は無いんでやすか?ソル殿。」
トロイの言葉にソルは
「無い。使い途が無いからここ百年採っておらんわ。」
と言った。
「妖精王国の倉にはあるが…ティターニアの奴がうるさいし運搬も時間がかかる。今から一カ月以上待つのは現実的ではないな。」
オベロンは首を振るとオーウェンとミッシェルを向く。
「アダマンタイトねぇ。教会には加工品ならあるけどそんなもの使えないでしょ?」
「量によるが…どんなものだ?」
期待を込めた目でデービッドはミッシェルを見る。
「え?最高司教が持ってる神具。」
さらっと宣うミッシェルにデービッド達は冷めた目を向ける。
「おいこいつは本当に聖女なのか?」
オベロンがデービッドに言う。
「一応は。こう見えても本当に聖女だぞ、こう見えても。」
「神具をワイトスレイヤーにしようだなど罰当たりもいいところじゃ。」
「ミッシェル嬢…バチが当たりやすぜ。」
「あんたら…。」
「オーウェンはどうだ?アダマンタイトを使った武具とか…」
オーウェンは少し考え…
「盾があったが…敵にシールドバッシュをしたら砕けた。」
「現物は?」
「モンスターの血肉に塗れたから捨てた。」
その言葉に皆が顔を青くする。
「…シールドバッシュでモンスターが砕けたのか?」
「ああ。スイカみたいにぱーんって…」
オーウェンは軽く手を振る。
「ぱ…ぱーん、ですか…」
超硬度を誇るアダマンタイトの一撃故にタダでは済まなかったのだろう。
「シールドバッシュはそんな使い方だったか?」
「知りませんよ、砕けたものは砕けたんですから。」
オベロンが引き気味にオーウェンに尋ねる。
「可哀想に、そのモンスター…。ところでどいつをぶっ叩いたのだ?」
「トロルキングですかね?俺もびっくりしました。」
「」
絶句。二の句が継げないとはこの事を言うのであろう。
トロルキングの体躯は二メートルを越す。俊敏で力も強く防御力も高く魔法まで使う為、冒険者の危険モンスターランクの上位に位置する。
そんな相手を倒す事が出来るのは勇者か剣聖、または賢者位だろう。
「…取り敢えずリッチはワイトスレイヤーがアダマンタイトでできていると知っているからこそ、アダマンタイトの鉱脈に陣取ったのか…」
「知性が高くて厄介だな。下手に採掘するとリッチが自ら来るかも知れないし、洞窟内でリッチと戦うのはちと厳しい。」
交戦になったとしてもこちらは勇者、聖女、妖精王がいるので負けはしない。
だが。
採掘に向かうデービッド、トロイ、ソルではリッチには太刀打ち出来ない。
リッチの力はそれ程強大なのだ。
オーウェンが再生不能なまでにリッチを叩きのめす手もあるが…それではリッチはほかの憑代に向かい再度襲ってくる。
リッチを倒すのでなく封印する事がミッション故に問題の解決にならない。
「アダマンタイト採掘してすぐにワイトスレイヤーにするにしても、作るのに一日、術式の組み込みに一日か。それを待ってくれる程お人好しじゃないよな、リッチは。」
うーん、と頭を抱えるデービッド。
「あんたもう一回ワイトスレイヤーを創造したら?創造してる最中に魔力も体力も私がマックスまで再生してあげるから。」
ミッシェルの言葉にデービッドは嫌そうに言った。
「冗談じゃない!」
魔力切れも体力切れもまっぴらごめんだがお前の再生を受けるのは更に嫌だ、とデービッドは唾を吐く。
ミッシェルの再生の効果は緩やかだ。
手足が吹っ飛んでも治せる力があるが、代わりに効果は遅い。
回復する対象の負担を無視するならば一瞬で終わるが…
ショック死するか気が狂うかのいずれかの結果になる程の痛みが対象に襲い掛かる。
オーウェンが破壊神との戦いの後、吹き飛ばされた腕をミッシェルが再生した時。
腕を吹き飛ばされても顔をしかめたのみであったオーウェンが子供のように泣き叫んだのだ。
「本当にいいの?いいの?一瞬で終わるけど凄く痛いよ?」
と何度も念を押したのはそれか、と近くで見ていたデービッドは再生のユニークスキルの恐ろしさを知った。
他にミッシェルは対象を回復させ過ぎる生物にとって悪夢のようなスキルも持っている。
聖女ながら勇者と並び立つ実力がある、というのはこうしたものがあっての事だ。
「…気持ちはよくわかる。俺も死にかけたからな、あの時…」
オーウェンが右腕を触る。
「ひどくない?せっかく瞬時に回復する極大魔法を使ってあげるっていうのに。」
ぷう、とミッシェルが頬を膨らませる。そのミッシェルにデービッドは叫んだ。
「殺る気満々じゃねぇか!」
てへぺろ、とおどけるミッシェル。
「この腹黒に殺される前に…。ソル、他にアダマンタイトの鉱脈は近くにあるか?」
「ないな。」
「そうか。」
即答で終わる会話。
ノームであるソルは地脈について理解している。それ故に長々と会話をする必要がない。
「妖精王国にアダマンタイトの鉱脈は?」
「必要が無い故に採掘されていない。イチから鉱脈を探して地面を掘る事になる。宝物庫にあるアダマンタイトを素材とした武具をくれてやると妻がキレる。」
そうか、とデービッドが下を向く。
「八方塞がり…。リッチに喧嘩売ってアダマンタイト持って帰るか、それとも…」
「それとも?」
デービッドはニヤリと笑う。
「我が敬愛するじゃがいも伯爵様の腰のエクスカリバーをちょろまかすか。」
その言葉にオベロンとソルはニヤリと笑い…
「待っていたぞ、その言葉を。」
「無用の長物も役に立つならば光栄じゃろう。」
とデービッドの肩を持つ。
反対意見は…
「また罪を重ねるつもりなの、アンタは!おお主よ、この穢れ大き存在を赦したまえ!」
聖女という立場から大反対をするミッシェル。
そして。
「伯爵様だろ?わざわざ盗むよりも下賜するよう説得すればいいじゃないか。」
至極もっともな事を言うオーウェンだ。
デービッドは「オーウェン君。」と言うとオーウェンの肩を掴む。
「あのじゃがいも野郎が俺にエクスカリバーを下賜すると思うか?」
「お、おう。無いな。」
ミッシェルもオーウェンも顔をしかめる。
ドルイド伯。
勇者に憧れた道化というのがデービッドの見方である。
ミッシェルはセクハラ三昧の下品な伯爵、オーウェンは実力が伴わない伯爵というのが彼の評価だ。
機密事項のワイトスレイヤーの話をすれば喜んで下賜するだろうが、迂闊についてこられても敵わない。
伯爵は貴族でありピクニック気分で冒険をされても無駄に死ぬだけだ。
「討伐についてきてアンデッドになって貰ったほうがこの王国の為だがな、あのじゃがいもは。」
ああいう無能が平和を享受出来るんだから平和とはいいものだ、とひとりごちるデービッド。
デービッドの貴族嫌いはこのドルイド伯から来ており…城にいた幼少のドルイド伯を
「じゃがいも野郎」
と言って激怒させ、ケスラーがとりなしていなかったら恐らくは死罪になっていたのだ。
じゃがいも野郎とは、彼の領地は良質のじゃがいもが採れる事と…肥え太り浮腫んだ顔がじゃがいものそれによく似ていたから…とデービッドがつけた渾名だ。
以降伯爵はデービッドを目の敵にし、デービッドも伯爵を蛇蝎のように嫌うようになった。
成人してからはダイエットに励み見た目は取り繕っているが、デービッドに言わせるとじゃがいも野郎はじゃがいも野郎だ。
破壊神討伐の後に謁見し、苦虫を噛み潰したような表情でデービッドを祝福した事はデービッドにとって溜飲の下がる思いであったが…まだまだ足りないらしい。
「旦那、算段はついていやすのですかい?」
賛成も反対もしなかったトロイがデービッドを見る。
また憲兵に捕まる騒ぎを起こされても敵わない、と言外に匂わせながらデービッドを見るが…
「恨み骨髄に入る程敬愛してやまないじゃがいも伯爵だぜ。
引っ掛け甲斐があるってもんだ。」
デービッドはニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべ…
「協力してもらうからな、てめーら。」
と、全員を向いて言った。