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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第一章 不死者の王
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憲兵総監と昔話

「…で、お前が奇声を上げながら工房をのたうち回っていた経緯を知りたい。」

40位の男がデービッドを見て溜息を吐く。

その顔にありありと浮かぶのは…


『またお前か。』


という呆れ顔だ。


デービッドは「機密事項に触れる為に言わない。」と黙秘を貫いている。

目の前にいる男は王国の憲兵総監であるケスラーであるが、そんなものは関係ない。黙秘は黙秘だ。

何故かって?それは恥ずかしいからだ。


ミッシェルが回復してくれたとはいえデービッドは身体中の穴という穴から液体を垂れ流していた状態だったのだ。

となれば大体の事の察しはつく。

魔力欠乏どころか全魔力を放出しても魔力を賄いきれずに体力すら使い果たして失神したのだ。

ケスラーとしてはデービッドの恥を知りたいのでなく、何故そうなったかを知りたい。が、デービッドは頑なにそれを言おうとしない。


「なぁデービッド、お前が勇者と聖女から依頼を受けてワイトスレイヤーを作っている事は確かに機密ではあるが、王は知っておられる事項だ。

機密故に憲兵総監である私がこの場に来たのだ。その真心を汲んでもらえないか?我々としても口を割らせる方法は幾らでもあるが、そのような事をしたくはないのだ。」


もう既に勇者、聖女、ノーム、ケットシーから事情は聞いている。単に答え合わせでしかないのでおかしな所が無ければ即釈放したいところだが…デービッドの従者であるケットシーから

「恥ずかしがって口を割らないと思いやすぜ。」

と事前に言われ、それはその通りになってしまっている。

保釈金を用意するから少し待っていろ、とケットシーから言われ…それまで何を話して良いか些か迷うケスラーは首を振った。


ーー


「あいつ黙秘してんの?ばっかでー。」

ミッシェルがオーウェンとデービッドの工房でお茶を飲みながら話す。

「相当あの状態が恥ずかしかったんだろうな…。戦場ではありふれた光景だけに状態については全く気にしていなかったが。」

「惨状っちゃ惨状だけどあのくらいよくある話なのにね。酷い場合全身から血液噴き出したりとかあるのに。」

甘ちゃんが、とミッシェルは一蹴した。


「オーウェンだって経験あるでしょ?魔力欠乏か体力欠乏。」

「俺は体力欠乏で全身が痙攣した事がある。」

「へぇ?その時どうしたの?」

「水をがぶ飲みして塩と柑橘を齧って安静にしていた。あの時は地獄だったな…。ミッシェルは?」

ミッシェルはふむ、と顎に手をやる。

「初めてユニークスキルに目覚めた時に調子に乗って全魔力注ぎ込んでママを回復させた後に魔力欠乏になって倒れたくらいかな。」

「御母堂様をか。お加減を悪くされていたのか?」

「まぁね〜…。ちょっと不死者の王に絡まれたみたいで、瘴気に侵されちゃっててね。」


…リッチの瘴気は猛毒であると同時に呪いだ。

蝕まれると死後に呪いが発動し、不死者の王に仕えるようになる。

解呪するには神官が三日三晩解呪魔法を唱える必要があり、それを省略したとするならばそれこそ術者が即死してもおかしくないくらいの魔力が必要となる。


「…結局その後、ママは事故で死んじゃったけどね。で、パパもお仕事の関係ですぐに再婚しちゃって、家に居場所が無かったから教会に入ったの。」


あはは、と乾いた笑いを漏らすミッシェル。ママはアンデットにならなかった分マシかな、と悲しそうな顔を一瞬見せた。


「オーウェンのパパとママは?」

「俺の父と母か?農民だ。」

「農家なんだ?」

「ああ。今でも忙しい時は帰って来いと何度も言われる。農家でもあり村の何でも屋といったほうがいいか。」

オーウェンの目は優しい。


「俺が『破壊神を破壊した勇者』などと言われるようになっても父母にとってはただの息子。

よく「早く子供を連れて帰ってこい」と言われているよ。」

オーウェンの言葉にミッシェルが苦笑する。

「田舎だと20前に結婚してるのが当たり前なんだっけ?オーウェンって私、デービッドと同い年だから今20か。今までそんな人いなかったの?」

にしし、とミッシェルが意地悪く笑う。


「…いたな、一人だけ。

破壊神を倒す旅路の中で俺の不在に耐えきれずに別の男と所帯を持ったが。」


遠い目をするオーウェン…。

「…ごめん。」

ミッシェルが失言を謝る。

「過ぎた事だ。冒険者のように明日の見えない仕事ではよく聞く話でもあるしな。」

まさか自分がその当事者になるとは思わなかったが、と付け加えオーウェンは首を振る。

「その子今頃後悔してたりして。なんだかんだといってオーウェンって後世に名を残すような勇者じゃん?勇者の妃の座を捨てて他の男に走ったんだし?」

オーウェンは、ふっ。と笑い…


「精々栄達してみせるさ。


恩返しする為にもな。」


と言った。


「根に持ってるねぇ〜。イイヨイイヨ〜他に当たらずに自己満で済ませる所なんて最高にいいわ。」

揶揄するように笑うミッシェル。

「どうしてもお嫁さん必要になったら教会からシスターを身請けしたら?

オーウェンになら一個大隊クラスの人数のシスターがお嫁さんに立候補すると思うよ?」

「ありがた迷惑ここに極まれり、だな。」


オーウェンは話を打ち切ると、工房を見渡した。


デービッドの机には姿絵(写真のようなもの)が幾つか飾られている。

「…プライバシーの侵害になるが、こうしたものに興味が湧くのは何故だろう。」

「あいつにプライバシーの権利なんて無い無い。ちょっと見てみよっか。」


ミッシェルとオーウェンが机を見る。

机の上にある姿絵は…デービッドとトロイ、オベロン、ソルが顔を真っ黒にして笑っているものである。

『スチームボイラー大失敗記念』


「……。」


他の姿絵は…

真っ逆さまに墜落するデービッドをオベロンが助けに向かう構図の『グライダー大失敗記念』


燃え上がる気球の中で慌てふためく四人の『熱気球炎上記念』


歯車と縄を動力源とし、車輪をつけた物の『簡易動力車完成記念』


「…発明品の姿絵だけじゃん!女っ気ほんとにゼロね、あいつ!」

「ん?これは俺たちの姿絵だな。」

デービッド、ミッシェル、オーウェンの三人の姿絵。そこにつけられていたタイトルは…


『友達』


「……。」

「何だろう。心が痛い。」

ミッシェルはそう言うと机から離れた。


ーー


「あくまで黙秘というわけか…。」

「……。」

「なぁデービッド。別に魔力切れの粗相は恥ずかしい事じゃないんだぞ?特にお前の場合体力すらカラになるレベルだったんだ。死に掛けている人間の行動なんて皆ネタになんかしないぞ?」

ケスラーが優しく言う。

ケスラー自身も新兵の通過儀礼として体力欠乏も魔力欠乏も味わっている。

そのどちらも地獄としか言いようがなかったうえに、失神や失禁などそうした粗相をした人間を数多く見ている。戦場なんかもっと酷いし憲兵の拷問など似たようなものだ。


「嫌だ…ミッシェルの奴の事だ…ここぞとばかりに俺のある事無い事を言い触れ回って教会のシスターやファーザーから白い目で…」


…ケスラーの知る限りデービッドの評価は下がりようがないので心配しなくとも良いのだが、そこは言わぬが花か。


「冒険者達にもオーウェンの伝手で笑われて…」


冒険者がこうした事で相手をコケにする事はまずあり得ない。

それは天に唾を吐くようなものだ。

予防をしておく必要はあるが、誰しもそうなる可能性がある。故に魔力、体力欠乏で相手をコケにするのは恐ろしさを知らない初心者くらいのものだ。


「…しかしお前がこの王国に来て十五年か。」

ケスラーは目を閉じる。

「昔から変わったガキだったが、今もそれは全く変わらんな。」

「ガキと言うなガキと。」

元々は流浪の民の一員だったデービッド。

王国に入国した時に対応したのがケスラーであり、ケスラーの顔を覚えたデービッドがケスラーのいる詰所に足繁く遊びに行き…

ケスラーが憲兵として王国を巡回する間について回り、憲兵隊と仲良くなったのだ。

このまま将来はケスラーのように憲兵隊になろう、と漠然と考えていたデービッドだが、状況は14歳の時に全て変わった。

王国の城下町で商売をしていたデービッドの両親が流行病で揃って亡くなったのだ。


天涯孤独。


それが彼の立場であり、憲兵隊になろうにもそこに至るまでのお金がない。

両親の蓄えやアイデアノートを元に商売をしようと考えていた時にスキル検査の際、ユニークスキルである『創造』を手にした。

それをもとに両親の店を使い商売を始め、勇者オーウェン、聖女ミッシェルと破壊神を討伐させられ今に至る。


破壊神を討伐した時についてデービッドは「足を引っ張っただけ。」と言い多くを語りたがらないが、目立たないパーティの土台の部分を一身に担い、憲兵隊直伝の剣術、槍術を使い最後の最後まで戦い抜いたというのがオーウェンの評価だ。


戦力としてはミッシェル以下であり戦闘において力不足が否めなかったが、デービッドの発案や機転で何度窮地を脱した事か、とミッシェルは評価している。…そのまま評価してやるのも癪にさわるので評価自体を周囲に言う事を放棄しているが。


「ったく、あんまり従者のケットシーに心配かけるなよ?」

「トロイに?あいつはしっかりしてるからなぁー…」

「お前がしっかりしろと言っているんだよ、馬鹿。」

風変わりなケットシー・トロイ。

それと変わらない位風変わりな男・デービッド。

「…で、ワイトスレイヤーは出来そうなのか?」

「設計は終わったから後は素材と術式の問題か。売り出そうにもコストがバカみたいに高くなるし、オーウェンクラスの剣技を持つ人間じゃないと絶対扱えないようなものになるからどうしようもないけどな。」

伝説の武具という事で興味を惹かれるケスラー。

「どういう武器なんだ?ワイトスレイヤーは。」

「エクスカリバーの亜種…みたいなものかな?エクスカリバーより扱いが難しいけど。」

「エクスカリバーよりか…。」


聖剣・エクスカリバー。折れる、しならない、コストはバカ高いと現代では使われなくなって久しいものだ。

稀に冒険譚に憧れた王族や大貴族が帯刀している場合もあるが、彼らはあくまでも趣味的に使っており剣の使い手ではない。

戦いにおいて役に立たない剣はあくまでも宝剣の扱いとなり、儀式用のものに過ぎなくなる。

仮に最前線にいる人間がエクスカリバーを帯刀していたら、カモとして真っ先に狙われるだろう。


「エクスカリバーは当時の最先端の剣であって現代の最先端ではないし、後発のほうが剣として優れているのは仕方ない事だわ。

剣法も進化して棒術のように剣のしなりを利用したものになっているし硬いだけの剣では現代では通用しないしね。」

デービッドはそう言うとため息をついた。

「はぁ…あのバカみたいに硬いアダマンタイトを剣に打って結晶が出来る程回復の術式組み込んで…。どんだけ手間掛かるんだよ、ワイトスレイヤー…。」

設計方法が分かった分そこまでの手間が省けるからマシだわ、と机に突っ伏す。

「回復の術式は誰にやってもらうんだ?」

「あー、あの腹黒にやらせる。」

デービッドはニヤリと笑い…


…のちの不幸を知らないミッシェルは工房でお茶を飲みながらオーウェンと談笑していたのであった…。


ーー


「憲兵総監、被疑者の釈放が決まりました。」

「ああ。」

ケスラーは伸びをする。

「昔話に花が咲いたな。馬鹿の相手をするのもいいもんだ。」

「爆発事故に奇声にほんと話題が尽きんな、お前は。」

昔馴染みの憲兵隊達がデービッドの頭を撫でる。

「おいおいこいつの奇行は昔からだろ。覚えてるか?冬に寒稽古をしていた時にその横で焚き火をしていたの。」

「あー、あったあった!あん時は絞め殺してやろうかと!」

「ランニングについてきてバテて憲兵隊長…いや今の憲兵総監に背負われて憲兵総監ランニングの後にぐったりしていたなー。」

ケスラーが「あれか。」と当時を思い出し吹き出す。


「保釈決まったんなら早く釈放しろよ。」

居心地が悪くなったデービッドが憲兵隊を睨む。


が。


「ほらほら、あれあれ。憲兵の詰所で宴会していた時に水と間違って酒飲みやがって…」

「そんで酔っ払ったデービッドが松明に酒噴き出してボヤ起こした時か?亡くなったヴィッキーさん青い顔して詰所来て頭下げてたなー」

「で、ポールさん…親父さんからボッコボコにされたデービッドがそっぽ向いていて憲兵総監からも一発貰ってたなー」

「城の巡回についてきて伯爵様に暴言吐いたなーあの時はどうなる事かと…」


「……。」


逮捕時恒例の昔話…。

散々に笑い者にされたデービッドが釈放されたのは、保釈が決まって数時間後であった。


「もう俺たちの厄介になるなよー。何もない時に酒持って来い。」

「無理無理、またなんかやらかすってこいつ。」

「次は一週間後か?1ヶ月後か?」


憲兵隊の笑い声を背に歩くデービッド。


「人気者で結構な事でやすな。」

トロイが糸のような目をデービッドに向ける。

「うるせぇよ。」

散々に黒歴史を掘り起こされたデービッドは顔を真っ赤にし、俯いたのであった。


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