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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第一章 不死者の王
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創造者と職人

デービッドの工房に皆が入る。

「散らかすんじゃねぇぞ?」

デービッドは周りに言い、魔法陣の中に入る。


創造の力を行使する為の魔法陣…破壊の力をほんの少し抑制する働きがある。

目を瞑りデービッドは剣を創造する…。


「(宝剣。)」


次の瞬間、そこにあったのはダマスカス鋼を用いた煌びやかな宝剣であった。


「おおー。」

皆が唸る。

ミッシェルがすかさず『再生』の力をかけて状態を維持しようとしたが、デービッドは慌てて宝剣をかき消した。


「邪魔しに来たなら出て行けテメー!」


魔法陣から出てその場にあるものを投げつけるデービッド。トロイがミッシェルをかばい、ミッシェルは事なきを得るが…

「旦那は職人でやすから。仕事の邪魔されたら怒りやすよそりゃ。」

むう、とミッシェルがアヒル口をした。


「ダマスカス鋼で宝剣を作ってもワイトスレイヤーにはならんな。ただの美しい剣だ。」

オベロンとソルが魔法陣の中に入る。

「ワイトスレイヤーじゃから回復の術式は必須じゃろう。問題はその術式を入れられる素材。

ミスリル銀ではないとすれば他に魔力を帯びやすい性質のものは何があるかのう。」

うーむ、と三人で考える。


「伝説級の武器は大体ドワーフの仕事なんだよな。ソル、ワイトスレイヤーの言い伝えは無いか?」

「ワイトスレイヤーは武具としては全くの役立たずであり、宝剣の一種ではないかというのが大勢の見方じゃ。

不死者以外に対する攻撃というのが禁忌とされているんじゃが、それがどういう事かさっぱり分からん。」

オベロンも首をひねる。

「生けるものに対する攻撃が禁忌というのであれば、それはやはり回復の術式と合わないからなのか?

だが聖女の杖は回復の術式も組み込まれているが、生けるものに対する攻撃は禁忌ではない。」


ああだ、こうだと言い合う三人。

オーウェンとミッシェルはデービッドの工房を見ていた。


水を注ぎ蒸気の力で動く貨物車のミニチュア、蒸気で浮く気球、凧にプロペラをつけたもの…

色々な発明のプロトタイプが所狭しと並んでいる。

「こないだこれが大爆発したんだっけ?」

ミッシェルは蒸気車のミニチュアを見る。

「へい。設計に問題がありやしてねぃ。坂道などを想定に入れずに作ったのが失敗の元でさぁ。」

「…新聞に載っていたな。森の外れで大爆発。死者は奇跡的にゼロ、と。」

あれデービッドだったか、とオーウェンは呆れ顔でミニチュアを見る。

「気球で理論は確立されやしたからねぃ。蒸気は動力源になり得ると。

妖精は当たり前に空を飛べる種もいやすが、人はそうでない。これの欠点は多いですがもう少し詰めていけば物流に革命が起きやすぜ。」

「浮遊の魔法石でいいじゃない?ほんとめんどくさい事好きよね、あいつ。」

魔法石は魔力を媒体にする為に物理法則を超えた現象を起こせる。

だがデービッドの目指すものは物理法則を越えず皆が気軽に扱えるものだ。

「利権絡みで闘争が起きると思うけどな。蒸気で動くものなど前代未聞だ。」

オーウェンは蒸気車のミニチュアを見る。

「クリアしないといけないものは多いでやすがね。熱をエネルギーとして使うと森を無駄に伐採したり問題が必ず起きやす。

理論は確立していても表に出せない技術や知識というのは山とありやすからねぃ。」

その為のノウハウも必要だし、あれはノウハウの確立の為の尊い犠牲だった、とトロイは目を閉じた。


いくつかの失敗ーー


デービッドは素材を変え回復の術式を組んだ剣を創造する。

しかしその全ては失敗であった。

理由は、その全ての剣は生けるものを殺傷する武具であったからだ。

「しかし創造の力は大したものじゃのう。これら全てを打っていたら果たしてどの位の時間が無為に過ぎたか。」

魔法陣の中で大の字になるデービッド。


「ミスリルでもなけりゃダマスカスでもない、鋼でもなけりゃアダマンタイト、オリハルコンでもない…。一体何なんだ、ワイトスレイヤーの素材というものは。」


オベロンが魔力回復のポーションをデービッドに飲ませる。

「宝剣の類で殺傷能力がない剣というものは…刃の無い剣となる。

だがそれは単なる模造刀だろう。」

オベロンは首を傾げる。

「ダマスカスのように混合された材であるのかな、と思うが…ダマスカスはいわば不純物を混ぜ込み強度を上げた材だからな。刃をつけると殺傷能力が出る。」

回復のポーションを飲み干したデービッドが立ち上がり、再度挑戦をする。


「ワイトスレイヤーの色だけで判断するとアダマンタイト以外は全て除外だ。全て鈍色だったり金色だったり色が出る。

アダマンタイトを使って創造していってみよう。」


そして。いくつかの失敗が生まれた…。


「100%アダマンタイトの宝剣だ!」

「こりゃ文字通りの宝剣じゃあ。売れば幾らになるか皆目見当もつかんが、材料費だけで大赤字もええところじゃい。」


「アダマンタイトを散りばめた宝剣だ!」

「どこの成金趣味の剣だ?こりゃ。」


「アダマンタイトを固めた宝剣だ!」

「「どこのエクスカリバーだ?硬いだけで使い物になりゃしねぇぞこれは。」」


アダマンタイトの性質。

それはこの世で最も硬い代わりに衝撃に非常に弱く脆い。

故に伝説の剣であるエクスカリバーは魔王討伐の際に折れてしまった。と言い伝えにある。

エクスカリバーについては性質の脆さと掛かるコストを考えると王族が見栄で選ぶ以外に全く実用的ではない。

だが。

エクスカリバーを他の金属でコーティングするとなれば、斬れ味はエクスカリバーに劣るものの非常に硬い剣となる。

だがエクスカリバー同様の欠点として、刃にしなりがなくへし切るような扱いしかできない。

世間に流通するエクスカリバーはこの手法に則り作られた模造品と言っていい。

剣のしなりがないだけに扱いが非常に難しく、扱う者の腕力に依存した古流の剣法でしか扱えない。

故に現在では伝説の剣と名乗るには烏滸がましく、口の悪い人間からはあれは鋼の剣にすら劣ると言われている。

ここまで考え…デービッドは首を傾げた。


「…なぁ、ダマスカス鋼って結晶が紋様を作るんだよな?」

「ああ、そうじゃ。結晶が焼成の際に浮き出てえもいえぬ趣を作り出す。」

「ひょっとしたら、ワイトスレイヤーって…エクスカリバーと同様の欠点があって生ける者への攻撃を禁忌にしたんじゃないか?

アダマンタイトを軸にしているが故に折れやすい欠点があるが、不死者は近寄るだけで浄化される程のバカみたいな魔力が出る術式が組んである、とか…」

「…ワイトスレイヤーが輝くのはバカげた魔力を放つ術式と魔力の結晶という事か?」

理には適うな、とオベロンとソルが頷く。

「試しに作ってみるか。」


材質はエクスカリバー、そして恐ろしい程の回復の術式が組み込まれた剣…


デービッドが目を瞑り形を想像する。

白く輝く刀身はどこまでも美しく。

そして生者に生を与え、死者に死を賜わる剣。


「出でよ、ワイトスレイヤー。」


自然と口に出た言葉。それはワイトスレイヤーであった。


光り輝く美しい剣が魔法陣に浮かぶ。

美しさにうっとりとする皆にデービッドが叫んだ。


「は、早く状態固定してくれぇー!」


こんなバカげた魔力を放つ剣の状態維持なんて10秒持つか!とデービッドが唸り…

ミッシェルの状態固定前にワイトスレイヤーはあっさりとかき消えた。


「あぁんもう!どうしてあと3秒我慢出来ないのよ!」

ミッシェルがデービッドに毒吐く。が。そこにいたのは創造の力を使い過ぎて干からびたデービッドであった。

「あ…ぁう…」

全魔力を吸われ、立つ事どころか話す事もままならない。


「ま、魔力欠乏どころか魔力が尽きかけて体力まで尽きかけてるーッ!」


魔力と体力の関係は魔力が精神、体力が身体の力だが…一方を犠牲にすることにより魔力や体力を高める事が出来る。

デービッドの今の状態は…


魔力を一気に膨大に放出し過ぎ、体力でカバーしようにもそれが追いつかずに倒れてしまった状態だ。


全身が痙攣し、魔法陣をのたうちまわるデービッド。

「だ、旦那ぁー!み、ミッシェル嬢、早く回復を!」

「さっきからやってるわよ!こ、これってどんな状態よ!底の開いた水桶に水を注いでいるのと全く変わらないわ!」

「し、死ぬなデービッド!」

オーウェンが魔法陣に入ろうとするが、オベロンとソルが止めた。

「アホ!破壊の力を弱める魔法陣にお前が入ってどうする、勇者よ!」

はっ、と上を向くオーウェン。

「この魔法陣があるから生き長らえているのに、魔法陣を破壊されては即座にデービッドは死ぬぞ!」


「ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


ビクンビクンとデービッドの身体が跳ねる。

「死ぬッ!死んでしまうっ!全身がぁぁぁぁ!全身がバラバラになりそうだぁぁああ!」

暫く発狂したかのように叫んだデービッドは、やがて白目を剥くとピクピクと尻を上に突き出した格好で身体中の穴という穴から液体を垂れ流し失神した。


「…あ、少しずつ回復してきた。」

ミッシェルが回復魔法を唱えながら不様な格好をしているデービッドを見る。

この分ならばミッシェルの力で程なく回復するだろう。


「…こいつこうなるのが分かっているからあんまり強く創造の力を使いたくないんじゃないか?」


オーウェンの言葉に皆が頷く。


ざわざわと工房の周りに人集りが出来、再度デービッドが憲兵達に事情聴取されトロイが保釈金を支払うまでの間…


「方法論は分かったからのう、あとはデービッドが戻ってきてから作り上げるのみじゃい!」

上機嫌のソル。

「小型のワイトスレイヤーを帯刀するか。」

これまた上機嫌のオベロンが笑顔を浮かべ…


「…やはり報酬もらうべきでやすね…これじゃ大赤字になりやすわ…」


保釈金で大枚を叩き少なくなった店の金庫を見てトロイは溜息を吐いたのであった。




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