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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第三章 霊峰アンナプル
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発明と商人

タム・リンの行動の報告をケスラーに言い、外交問題とならないようにオベロンと話をつける。

これで漸く後始末が終わった、とデービッドはよろず屋の居間で伸びをした。


ミッシェルはよろず屋の受付、オーウェンとトロイは依頼分の仕事だ。

確かに二人で回る仕事だが、オーウェンは手作業が楽しくて仕方ないみたいで仕事が細かいトロイも

「一年も修行したらあっしなんぞ追い抜くんでないですかねぇ。」

とオーウェンの仕事を絶賛し、笑顔を浮かべていた。

技術はソル、デービッドに及ばないが、仕事を教えるのはトロイが一番上手い。

教え上手で褒め上手だ。

ソルもオーウェンの仕事を「素人にしては上出来。」と褒めていたし、オーウェンが勇者を廃業するなら本気でよろず屋の職人として雇うか考えるデービッドだった。

因みにデービッドとソルは職人タイプ故に口より先に手が出る傾向があり、性格にも難がある為、一緒に仕事をする人間を選ぶ。

反面彼らは一度心を許せば損得勘定抜きで動く傾向がある。ワイナリーの件など好例であり、トロイがいなかった為にひたすら技術方面に突っ走ったのだ。

そういった意味でもトロイはよろず屋の最高権力者である。


「さーて、ソルが戻って来たらルートの決定と準備か。」


冬の山故に事故の可能性というものも高い。

ルートの選択と装備については細心の注意を払うべきだとデービッドは考えている。

魔導具を使用して登山するのがこの世界の鉄則だが、魔導具の使用というのはコストパフォーマンスの面であまり望ましくない。

値段も高いし、一度使ったら消滅する道具などあまり使いたくないのだ。


この世界において冒険者は居ても前人未到の場所に行こうとする人間は殆どいない。

たまに酔狂な人間が魔導具の使用をせずに自らの力だけで登山し、遭難するケースもあるが…大体は凍死か転落死だ。

魔法は万能だが魔法力という媒体が必要となり、魔法力が尽きて体力も尽きて凍死する。

転落死は状況によりけりだが、災害に巻き込まれてしまった時などは人は無力だという証明であろう。

この世界にも防寒具はあるが、それもまた毛皮などかなりの重量のあるものか、それとも毛糸か絹か綿か。

重ね着が保温には一番だ。


人工的に絹糸を作る事も出来るがそれは強度の上から登山には論外。

となれば綿かとも思うが、綿は濡れたら乾きにくい。

となればやはり毛糸。

寒い地方では羊毛が一般的に下着として使われているし、下着は羊毛だろう。


…余談ではあるが、ミッシェルのパンツはお腹まであるタイプの長尺のパンツだ。

旅の途中でたまたまそれを見たデービッドは一度興味本位でミッシェル本人に何故そんなパンツなのかを聞いてみたが

「お腹冷えるとお腹壊しちゃうから。」

という返答があった。

ミッシェルは実利主義であり、外から見えない所は何があるか分かったものじゃないな。と思ったものだ。


「…ソルがいるから斥候は問題ないとして、あとの道中の問題は荷物か。これは最小限にしないといけないが、物を選ばんと重さが堪えるようになるだろう。」


登山靴に軽量のピッケル、携帯型の食料…


それを作っては破棄のトライアルアンドエラー。

こうした地味な作業の積み重ねが明日の発明を生む。それをデービッドはよく知っている。


…後に王国発祥のエクストリームスポーツとなる『登山』。

それは魔法道具を一切使わず己の身一つで山を登り切るという過酷極まりないスポーツであり、知恵、体力、勇気の全てが試されるとして漢達から熱い支持を集めるのだが…


それはまだもう少し先の話になるのであった。


「…こんなものか?」

デービッド考案の登山装備。

それは。


羊毛の肌着、ミッドレイヤーの前に肌着に新聞紙を巻き、羊毛のセーター。アウターは厚手のコートと…トロイが旅した世界の防寒具である藁を編んだ合羽。

帽子は厚手の毛皮を贅沢に使用し、内側に毛を向かせる。手袋も同じだ。靴下にも羊毛をふんだんに使い、替えをいくつも用意しておく。


靴には底をこの世界の最先端技術である硫化ゴムを使いたいが…

実物を見て判断したいという思いもある。ソルとトライアルアンドエラーをやっていくのもいいが…その時間的余裕というのは無い。

その硫化ゴムを持つ男の顔を思い浮かべるが…どうにもあの舞台俳優じみた顔が気に入らない。


「…どうしたものかね。ちょっと話でも聞いとくか。」


しかし背に腹は代えられぬ。デービッドはミッシェルに「ちょっと出てくる。」と言い、デービッドは愛用のコートを掴み外に出た。


ーー


「これはこれはデービッドさん。アポ無しの訪問歓迎致しますよ。」

「あー、歓迎痛みいるぜ。」

タンカートの一等地にあるエドウィンのオフィス…。ここと比較すればよろず屋など今にも倒れそうな掘っ立て小屋にしか見えない。

「(生意気に一流の調度品をそろえちゃってまぁ。)」

センスよく纏められた来客室は職人の目から見ても一流品の集まりだ。

特に今デービッドの座る椅子など幾らするか分かったものではない。


「まぁ今回は仕事の話だ。お前、硫化ゴムの実物持ってるか?」


デービッドの問いにエドウィンは

「硫化ゴムというと…あの加工品ならば持っていますが。」

と答えた。

「次の発明に必要でしょうか?必要量用意する事も出来ますが。金貨500枚で。」

クスクス笑うエドウィン。

「高ぇよ。硫化ゴムの使われた製品を買いたいだけだ。」

「硫化ゴムの使われた製品…。一般には船などの大掛かりなものの緩衝材として使われていますから、そちらのものならば在庫がありますよ。」

「幾らだ?」

エドウィンは風情が無いとばかりに溜息を吐く。

「全く…。単刀直入に来られるよりも話を引き出させて下さいよ。貴方の儲け話を聞きたいんですから。」

「情報は生き物でな。今回はとある依頼でそれが必要なんだよ。」

詰めるデービッドだが、会話はノックに打ち消された。


「失礼します。」


エマだ。確かロングヘアだった筈だが、髪はショートボブまで短くカットされている。

「粗茶ですが。」

「お構いなく。」

香りからしてポティトの高級茶葉だな、とデービッドは紅茶を飲んだ。


「エマ、わざわざ君が来なくて良かったのに。」

エドウィンは椅子から立ち上がってエマを支える。

「大袈裟よ、エドウィン。私は働いていないとかえって落ち着かないから。」

エマはエドウィンに柔らかな笑顔を向ける。

「(おや?)」

デービッドの視線に気付いたエドウィンは、はにかみ笑う。

「はは、お恥ずかしい。少し予定が狂ってしまいましてね。」

「おめでたか。」

「そうなります。」

果たしてそれをどちらが望んだのか知る由も無いし知りたくもないが、エドウィンの反応を見る限りエドウィンにとって歓迎すべき事なのだろう。

デービッドにしてみたら子猿が増えたという程度の認識だが。

「お盛んな事だ。」

皮肉を言うデービッドにエマが笑う。


「あはは。やだなぁ、デービッドさんに言われたくないですよ、それ。」


「あ?どういう事だ?」

自分はてめぇらのおかげで仕事三昧、遊びに行く暇も飲みに行く暇もねぇよ、と続けるデービッドに…

「えぇ〜?鉄の女と言われている伯爵のメイド長を口説き落として、ワイナリーで三昧したんでしょ?

あれ皆羨ましがってましたよ?お顔はそうでもありませんけど、立ち居振る舞いは貴族の令嬢にも負けない方ですし。」

血の気が失せるとはこの事か。デービッドの顔が青くなる。

「最近じゃ妖精達と三日三晩酒池肉林してたって噂ですし、そんなデービッドさんにお盛んなんて言われたくないですよ。」

酒池肉林だったらどれだけ良いものか。

確かに三日三晩妖精達はデービッドの所にいた。だがそれはタム・リンの処置の為であり、そんな真似はしていない。

ほっぺにチューだけでは御礼にならない、と身体を使ってこようとする妖精達の頭をハリセンで張り飛ばし、強硬手段に出ようとする危険思考の連中を家から叩き出していただけだ。

…確かに声だけ聞けばその通りの状況だっただろう。声だけ聞けば。


だが、事実無根と言って事情を説明するのも馬鹿馬鹿しい。


デービッドが選んだのは黙殺だった。


「羨ましい話ですね。僕もそれなりに女性と関係を持ちましたが、伯爵のメイド長や妖精達と関係を持った事はありませんよ。」

よ、年上好き、と茶化されたが、デービッドは額に青筋を浮かべながら堪えた。

「…邪魔したな、帰るぜ。」

「いえいえ、お待ちくださいよ。貴方の好物のナッツも用意しているんですから。」

無理矢理席に座らされ…不快な時間の始まりかと思ったデービッドだが、エドウィンはエマに手紙を持って来るよう伝える。

その手紙は…エドウィン宛のロビーからの手紙だ。

読んでもいいのか、と問うと、どうぞ。とエドウィンは手を差し出す。


『拝啓 エドウィン殿


学がないので手紙の書き方がよく分からないけど、今回の取引ありがとうございます。

宣伝のおかげでワイナリーの売れ行きも好調。ポティトワイナリーだけでなくワイナリーポメラのワインも買って頂いているようで、本当に感謝してます。


近況ですが、ワイナリーポメラのピノとお付き合いを始めました。

こんな話をまずエマにせず、エマの旦那さんのあなたに言うのもおかしな話ですが。


エマはおめでただという話をジュリから聞いています。

本当におめでとう。と良かったら伝えておいてください。


遠くポティトからエドウィンさんとエマの成功を祈っています。


追伸

あのバカに「お前の言った通りだった」と伝えておいて下さい。』


「…貴方が彼に何を言ったのか僕は知る由もありませんし、知るつもりもありません。

ただ。僕の考えが少し変わったのは間違いなくロビーくんの影響でしてね。

エマの幼馴染という事もありますし、これからも良い取引をしていければ、と思いますよ。」

エドウィンは手紙をしまうと苦く笑った。

「お金では動かない人もいる。世の中意外と義理と信用で動くのだな、と彼らを見ていたら思えましてね。」

多少背伸びしていたようです、とエドウィンは肩を竦めた。

「…で、ロビーくんを変えたという貴方に御礼をしなくては、と思いまして。」

「(嫌な予感しかしねぇ。)」

エドウィンはエマに


「船の緩衝材の硫化ゴムをデービッドさんのお店に運ぶ手配を。

こちら契約書です。サインを。」


そこにあった契約書。それの値段は…金貨500枚。

「お前、量は?量が無くて金貨500枚はボリ過ぎだぞ。」

「ええ、量はありますよ?量はね。破格の値段である事は約束しましょう。」

「…信用するぞ?その言葉。」

「ええ。商人の名誉に賭けまして。」


そして。翌日硫化ゴムは届けられた。


「…確かに破格でありやしたなぁ、この量であの値段。」

「…言うな。」

「しかし、実験にはちと多過ぎやせんか?この量。」

「言うな!」


二人の前にあるのは、2メートルの高さと5メートルの長さを持つ切断されていない巨大な硫化ゴムの塊。

蔵の前で膨大なゴムの塊を見て、デービッドは途方に暮れる。


金貨を払いに来たデービッドを見てエドウィンは笑顔で問う。

「少しは借りを返せましたか?」

デービッドは苦い顔を隠さず言った。

「釣り銭持って来てやらぁ。」

「それは結構。お待ちしていますよ。」

…と、エドウィンは悪い笑みを浮かべるのであった。


硫化ゴムは確かにこの世界での最新技術だ。

だが、まだ船の緩衝材に使われたりする程度しか利用をされてはいない。

デービッドならこれを使って何をするか。そしてその技術で儲かる事は出来ないか。

先行投資と嫌がらせを兼ねた行動だったが、読みは当たったようだ。


「さて、あの方が次にどう出るか。

吉報を待ちましょうか、エマ。」


デービッドの悔しそうな顔を思い出し、エドウィンは含み笑いをするのであった。


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